第22話 セグンとプリメラの入浴タイム

 再会した娘、セグンがプリメラに風呂を強制され、現在二人は入浴中。

 とはいえその入浴はプリメラとティエスが一緒に風呂に入った時のようにくつろげるようなものではなかった。


 どちらかと言えば水や入浴が嫌いな大型犬を風呂に入れるようなもの。

 ジェネラスが隷属の指輪を使って「風呂に入ってこい」と強制していなければ、セグンはたちまちプリメラの元から逃げ去って裸で家中を駆け回っていただろう。


「姉貴ぃ。もういいってぇ」


「馬鹿言わないの。お父様に嫌われるわよ?」


「うぐぅ。それはいやだ」


 服を着たまま、袖だけ捲って全裸に剥いたセグンの毛量の多い頭を洗っていくプリメラ。

 水浴びはしている事からシラミなどは湧いていなかったが、手櫛てぐしではすくことが難しいほどセグンの髪はガサガサだった。


「お父様に定期的に入浴するように言ってもらったほうが良さそうね、コレは。まあそれはそれとして、急にアナタが帰ってくるなんてね。何かあった?」


 湯船のお湯を使っていてはお湯が無くなりかねないと判断したか、水の魔法と火の魔法を併用したお湯を出す魔法でセグンの髪を流しながら、プリメラが聞いた。

 最初は入浴を嫌がっていたセグンも、次第にその湯加減の虜になって気持ち良さげに頬を紅潮させている。


「何かあったっていうかさ。帝国内で親父を引き入れる動きが活発化しててさあ。ちょっと前にその実行部隊っぽい一部隊ほどを殲滅せんめつしたんだけど、親父のとこに来てないか心配になってさあ」


 洗髪を手伝い終わり、体をセグンに洗わせながら、プリメラはその話を聞いて考え込んでいた。

 

(帝国もお父様という脅威を恐れているのね。それもそうか、お父様の実力は万夫不当。無視できるはずもない)


「まあでも姉貴がいるなら問題はなかったわけだ。そういえば新しい妹はどんな感じなんだ?」


「まだ発展途上ではあるけどね。お父様が選んだ最後の力だもの、きっと帝国打倒の切り札になるわ」


「へえ〜。そいつは面白え。ちょいと味見してみてえなあ」


「実戦に勝る鍛練なしってお父様はよく仰ってらしたし。いいんじゃない?」


「雑魚の相手ばっかりで飽き飽きしてたし、久しぶりに親父に稽古つけてもらうのもありだなあ」


 体を洗い終わり、湯船に浸かりながら、セグンは言って伸びをした。

 湯船に浮かぶ二つの浮袋。

 それを見てプリメラは自分の胸に手を当て、愕然とする。


「外見ばっかり成長して中身はまったくね貴女」


「姉貴は大人しくなっちまったよなあ、昔は事あるごとに蹴ってきたのに」


「成長したのよ。中身はね」


 そんな話をしながら二人の入浴時間は終了。

 二人は脱衣場へ向かった。

 現在ティエスがセグンの衣服を洗濯中という事もあって、セグンはプリメラのシャツを着ようとする。


 しかし。


「ふん! あれ? ふぬう! なあ姉貴ぃ、服小さくね? 入んねえんだけど」


「ば、馬鹿な。そこまでの差があるなんて。し、仕方ないわねお父様のシャツを借りましょう」


「分かった。親父ぃ! シャツ貸してえ!」


 言いながら、セグンが全裸で脱衣場から出ようとしたので「待ちなさい馬鹿!」と、手頃な位置にあったセグンの尻尾をプリメラが握って引っ張った。


「ギャ!」


「ああゴメンなさい。尻尾は弱いんだったわね」


「弱いってか普通にイテェ」


 普通の人間であるプリメラやティエスが、尻尾穴が開いてる下衣を持ってるはずもなく。

 仕方なく穿かされたスカートから自分の尻尾を手繰り寄せると、ぶつけた部分を労わるようにセグンが尻尾を撫でた。


 そんな時だった。

 脱衣場の扉がノックされ「どうした?」とジェネラスの声が聞こえてきた。


 その声に尻尾を振り、セグンは脱衣場の扉を開ける。


「親父い。姉貴のシャツ入んねえから親父のシャツ貸して」


「分かった。すぐ持ってくる」


 そう言って、何事もなかったかのようにジェネラスは扉を閉めてシャツを取りに寝室にあるクローゼットに向かっていった。


(体は大きくなったが、セグンは昔のままだなあ。元気で快活で。あのセグンに子供が出来ると、その子も元気の塊みたいなんだろうなあ。まあ、ちょっとセグンが誰かの嫁に行くってところが想像できんが)


 そんな事を考えながら、寝室に辿り着いたジェネラスは自分の予備のシャツをクローゼットから取り出すと、再び脱衣場に向かって歩いていく。


 そうしていると、ティエスが洗濯を終えたのか、脱衣場横の洗濯室からヒョコッと姿を現した。

 

「ちょうど良かった。ティエス、これをセグンに渡してきてやってくれ」


「はい、お父様」


「せっかくセグンも帰ってきたし。今日は肉でも食べるか」


「お肉ですか?」


「セグンは肉に目がなくてな。たまには偏った料理でも構わんだろう」


「わかりました。姉様たちにそう伝えます」


「頼んだ。私はもうしばらくリビングでくつろいでいるよ」


 こうして、ジェネラスはティエスにシャツを渡すと、自分はリビングに向かい、少し冷えるからと暖炉に火を入れ、ソファに腰を下ろした。

 

 それからしばらく、ジェネラスは暖炉の薪がパチパチと音を鳴らすのを聴きながらソファに寝そべりウトウトと微睡む。


「おーやーじー! 風呂終わったぜえ!」


「馬鹿セグン! ちょっと待ちなさい!」


 しかし、そんなジェネラスの安寧は、着替え終わったセグンがリビングに突撃し、寝そべっているジェネラスの上に飛び込んだことで終わりを迎えたのだった。


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