第9話 クアルタが造った義肢

 イーストテイルの魔導具開発所。

 傭兵であるクアルタが仲間数人と始めたこの会社は、クアルタの頭脳と機械好きが高じて今や様々な魔導具を産み出す場所になっていた。


 日夜魔導具の開発研究が行われるそんな場所。

 その開発所内の応接室のソファに、ジェネラスとプリメラ、ティエスは座っていた。


 木で作られたローテーブルを挟み、その対面にはジェネラスの四番目の息子であるクアルタが座っている。


「父さん。この子は初対面だけど、新しい家族かい?」


「ああ。ティエスだ。仲良くしてやってくれ」


「もちろんだよ。(白髪? そういえばどこかの国の王族が代々白髪の家系だったような。いや、まさかね)」


「クアルタを尋ねたのは他でもない。ティエスのことで相談があってな。この子は見ての通り、隻腕だ。それをどうにかしてやりたくてな。ソーサリーオートアーマーを扱う腕の良い技師を知っていたら教えてくれんか?」


「なるほど。義肢の装着を決意したんだね。いい根性してるよ。女の子なのに」


 ソファに浅く腰掛け、クアルタの目を見ながら話すジェネラスの言葉を聞き、クアルタは同じようにこちらを見ているティエスの方に視線を向けた。


「ティエスはお父様が最後の一人にと選んだ娘よ。出来うる限りの事を最大限にしてあげたいの(そうする事でお父様はティエスを帝国に対しての切り札の一つにするはず)」


「最後の一人。そうか、君が(父さんが望んだ最後の切り札か)」


「まあ確かに引き取ったからには大切な家族だしな。(日常生活くらいは)問題がないようにしてやりたいよな」


「(戦争が起こっても)問題がないように、か。分かったよ父さん。まだ試作段階だけど、僕が作った義肢がある。ちょっと見てみるかい?」


 そう言ってクアルタが立ち上がったので、ジェネラスは息子が作ったという義肢のことが気になり、隣に座っているプリメラ、ティエスに向かって目配せするとクアルタに続くように立ち上がった。


 そして、応接室から出たジェネラスたちはクアルタの案内で開発所の廊下を歩き、地下への階段を降りていく。


「作った義肢は成人男性向けのデザインなんでね。もし装着するってなったらデザインから弄るから、完成までは少し時間が掛かるけど、大丈夫?」


「急いでいるわけではないからな。構わんよ」


「なるほど。まあ確かに万全を期すにこしたとはないもんね」


 話しながら通路を進み、辿り着いた大部屋。

 様々な魔導具が保管されているその場所の部屋の真ん中に、クアルタが見せたかった義肢が、封印の施された棺のような箱の中に安置されていた。


「なんだこれは。鎧か? その割に兜は無いんだな」


「これが僕が開発した試作品。ソーサリーオートアーマーの全身義肢だよ。四肢損失の重傷者でも動けるようになることを目的に作った物なんだ」


「ほう。(日常用には少し厳ついが)悪くないな。しかし全身義肢か。クアルタは重傷で引退した傭兵にコレを着せて私設軍隊でも作るつもりかな?(はっはっは、なんつってなあ〜)」


「ははは。まさか、そこまでは考えてないよ(バレた⁉︎ 嘘だろ⁉︎ まだ誰にも言ってないのに。これがジェネラス。父さんの先読みの力)」


「少し見てもいいか?」


「どうぞ、心置きなく。アルティニウム製の逸品だから、落としても傷一つ付かないよ」


「え? これ全部アルティニウムなの?」


 ジェネラスが童心に返ったように開けた棺に手を突っ込み、義肢を触ったり関節部を曲げていると、クアルタが言った言葉をプリメラがおうむ返しで聞いた。


「そうだよ姉さん。これはこの世界で最高の硬度と魔力伝達率を誇る希少金属、究極の名を冠するアルティニウムをふんだんに使った物なんだ。剣で斬られようが、大槌で打たれようが傷は付かない。矢も銃弾も、魔法も跳ね返す最強の鎧だ」


「そんな金属どうやって加工するんだ?」


 興味津々で義肢をイジっていたジェネラスが、クアルタの言葉に疑問をもって顔を上げた。

 プリメラもそのあたりの話には興味があるようで、クアルタが話し始めるのを待っている。


「ある一定の魔力と振動数を与えると加工出来るようになるんだよ。ドワーフの秘術の一つでね」


「秘術なのに俺たちに話して大丈夫なのか?」


「問題ないよ。話を聞いて出来るなら苦労はないさ。まあ僕は、苦労しなかったけど」


 そう言うと、クアルタは意地の悪い笑みを浮かべ、ジェネラスの横へ行くと、棺の中にある義肢の関節部から膝下の義肢を外して持ち上げる。


 そして魔力を手に循環させると、クアルタは手に持った義肢に指を当てた。


 すると、たちまち大部屋に金属同士を擦るような甲高い不快な音が鳴り響く。

 

 その不快な金属音に、ジェネラスとプリメラは思わず耳を塞いだが、片手しかないティエスは耳を塞ぎきれずに全身に鳥肌が立ってしまっていた。


「ほら。削れてるでしょ?」


「ほらじゃないわ馬鹿タレ。思い付いたら即行動する癖は直っとらんようだな」


「まあ、そうでもなきゃ会社なんて設立しないよね。で? どうする? 手術もこちらの専属の医者と技師、僕で出来るけど」


「クアルタが立ち会ってくれるなら安心だ。どうするティエス。一生が掛かる事だ。自分で決めなさい」


 やっと耳鳴りが治ったティエスに聞こえてきたジェネラスの言葉を聞き、ティエスは棺の側まで歩いて行くと、横たわる全身義肢を見下ろし、そして腕が無い方の肩に手を添える。


「これで、私も戦えるようになりますか?」


「もちろん(セロ兄さんみたいな目をするなあこの子。父さんが引き取るわけだ)」


「クアルタ様。手術をよろしくお願いします(これがあれば戦えるようになる。お父様、お母様。お二人と我らがノースライア国民たちの仇、憎き帝国は私が必ず討ちます)」


 こうして決意の火を目に宿したティエスが了承したことにより、義肢の装着手術を行うことが決定した。


 しかし、それにはティエスの体に合わせた調整と、義肢の再加工、イーストテイルの発明王クアルタによる魔改造が必要になるため、しばらくジェネラスたちはイーストテイルで生活を送ることになるのだった。

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