第10話 イーストテイルでの生活。手術の準備。

 ティエスへの魔導機械義肢鎧ソーサリーオートアーマー装着手術が決定したことで、ジェネラスたちはしばらくイーストテイルの街で過ごす事になった。


 それというのも義肢装着の為にティエスの体力作りと、生活の補助が必須になったためだ。

 

 その日もティエスは出会ったばかりの兄であるクアルタが所長を務める魔導具開発所にて身体検査や、体力作りを行い、その補助としてジェネラスとプリメラも開発所に出入りしていた。


「測定器の故障かと思ったけど、凄い魔力量を内包してるね。僕たちの新しい妹は(魔法が得意なプリメラ姉さんが一緒にいるのはそういう理由か。魔力暴発症が発症したら父さんじゃ抑えきれないもんな)」


「まずいか?」


「まさか。ソーサリーオートアーマー、S.A.Aシアーを装着するなら魔力量は多いに越したことはないからね」


「ほう?(なんでなんだろうか)」


 手術着のような薄っぺらい一枚もののワンピースを着せられ、検査用の水晶を削って作った、人が一人寝そべることが出来るベッドの上。


 頭部や肩、腕に足と全身に魔力による測定を可能にするチューブ状の機器を取り付けられたティエスを遠巻きに見ながら、壁際に立つジェネラスはクアルタが渡してきたカルテを受け取りながら首を傾げる。


「単純な話からすると、S.A.Aは魔力を動力にして動くからだね。まあ肩に魔石を埋め込んで常時貯蔵していくから魔力切れは無いんだけど」


「なるほど?(よく分からん)」


「ティエスの新しい腕には更に複数魔石を内臓する予定なんだ。まずは魔力貯蔵用の魔石、これはさっき言ったね。その魔石に一つ付与魔法を刻む。重量軽減の付与魔法だ。鉄より軽いとはいえ金属だからね負担は少ないに越したことはないし」


「確かに、軽くて丈夫ならそれに越したことはないか。複数と言っていたが、他には?」


「今考えてるのは手の平に火属性と相性の良い赤色系統せきしょくけいとうの魔石を埋め込むのと、手の甲に水属性と相性の良い青色系統せいしょくけいとうの魔石と、無属性魔法と相性の良い白色系統はくしょくけいとうの魔石を重ねて内臓する予定。S.A.Aをちょっとした魔法の杖に見立てるのさ(使いこなせれば単騎で多数と戦えるくらいに)」


「火と水、無属性魔法の補助機能を埋め込むわけか(日常生活に使うには丁度良い機能だな。料理や洗濯が捗りそうだ)仕事にも使えそうだな」


 そんな話をしていると、ジェネラスとクアルタの元に開発所の所員がティエスのデータが書かれたカルテを追加で持ってきてクアルタに渡すと、二人に頭を下げて退室していった。


「防水はどうなんだ?」


「問題ないよ。錆びたりはしない」


「便利な物だな。アルティニウムという物は」


「産出量が少ないのが欠点だけどね。今、アルティニウムの代替え素材も開発中なんだけど、これがなかなか」


「立派になったな。クアルタ」


 並んで話していたジェネラスとクアルタ。

 一緒に生活していた頃はまだ子供っぽさが抜け切っていなかったクアルタが、今こうして落ち着いた様子でカルテを眺めて真剣な表情で話をしていることに、ジェネラスは何故か嬉しくなって不意にクアルタの、息子の頭を撫でてしまった。


 その突然のジェネラスの行動に、クアルタの時間が一瞬止まり、クアルタも昔を思い出して懐かしくなって嬉しくなるが、大人としての面子が苦笑いを浮かべさせる。


「僕、もういい歳なんだけど」


「おお。すまんな、つい」


「クアルタ! 狡いわよ⁉︎ 私だって帰ってきてから

撫でられてないのに!」


「素が出てるよ姉さん」


 ティエスが眠るように目を閉じているベッドの横で様子を見守っていたプリメラが、ジェネラスとクアルタの様子に声を上げた。

 

「歳頃の女性の頭を撫でるわけにはいかんだろ」


「お父様なら構いません。むしろお願いします」


「いや〜。そういうわけにはなあ」


 ティエスのいるカプセルの横からジェネラスとクアルタが立つ壁際に詰め寄るプリメラ。

 その様子を、目を開けたティエスが水晶のベッドの上から眺めていた。


(傭兵ってもっと打算的な付き合いしかしないって思ってたけど、この人たちは、本当の家族みたい。羨ましい。私もいつか、あの輪の中に入れるのかな)


 そんな考えが頭を過り、自分がプリメラやジェネラスの間に立つ姿を想像するティエスだったが、その姿に亡き両親や兄妹の事を重ねて見てしまい涙を流してしまう。


 その様子に最初に気が付いたのは、隻腕の自分を引き取ってくれた傭兵の男ジェネラスだった。


「どうした? 辛いか?」


「いえ。大丈夫です。少し、昔を思い出してしまって」


「我慢する必要はない。泣きたければ泣けばいい。人間であるなら感情に従うべきだよ」


「感情に」


「怒りたければ怒れば良い。悲しい時は泣けば良い。嬉しかったら笑うだろ? 他人の目がある時は遠慮しちまうが。ほら、俺たちは家族だからな。家族の前でくらいは素直になればいいさ。さっきのプリメラみたいにな」


「家族。お父様、私は」


 ジェネラスの言葉を聞いてか、ティエスは静かに涙を流した。

 思い出す故郷での生活。

 それを焼き尽くした帝国。

 目の前で死んだ両親と兄妹。

 

 絶望のなか逃げ惑い、森で魔物に襲われ、腕をもがれた時に感じた死に際の恐怖。


 様々な負の感情が一気に押し寄せ、思考がグチャグチャになって涙と嗚咽しか出てこない。

 そんなティエスの頭に、ジェネラスは手をかざして魔法を発動した。

 精神系の魔法である鎮静化。

 その暖かい魔力に包まれて、ティエスは微睡んでしまう。

 微かに残った力で目を開けようとしたティエスが最後に見たのはジェネラスの、自分を引き取り優しくしてくれる父の困ったような笑顔だった。


「ちょっと父さん。寝かせてどうすんのさ」


「いや。だって仕方ないだろ?(なんだかんだでまだ子供、手術の事を思うと怖かったんだろうなあ)」

 

「まあデータは取れたから良いけど。これは午後の体力作りのためのトレーニングは見送りかなあ。仮眠室あるけど、どうする?」


「せっかく用意してもらった家があるからな。今日は帰るよ」


「了〜解。まあ、自宅でも出来る運動はさせておいてよ。鈍らないようにね」


 そう言って、クアルタは指を鳴らして魔法を発動するとティエスの全身に付いていた機器を外す。

 それを見て、ジェネラスはティエスを横抱きで抱きかかえて立ち上がった。


「お父様。帰るならせめて毛布を」


「ああ確かに。頼めるかプリメラ」


「もちろん」


 こうしてこの日は一旦クアルタが三人のために用意した一軒家に帰宅。

 のんびり過ごすことにするのだった。

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