第11話 義肢装着手術
イーストテイル滞在中。
しばらくの準備期間をジェネラスとプリメラは魔物の討伐依頼をこなしながら生活費を稼いでいた。
その依頼達成率、じつに十割。
確実に依頼を達成し、無傷で帰還するジェネラスとプリメラは僅かな滞在期間でイーストテイルのユニオンで話題の人となっていた。
(プリメラの魔法のおかげで随分と楽に仕事が出来るなあ。昔から魔法に長けていたが、成長したもんだ)
(やはりお父様との狩は楽ですわねえ。私が撃ちたいタイミング、撃ちたい位置に的確に魔物を誘導してくださるなんて)
父娘仲良く機嫌良く、仕事を終えて仮住まいに帰宅して、二人は火と水の魔石が嵌め込まれたシャワーで汗と汚れを流すとクアルタの魔導具開発所へ、データ収集に出向いているティエスを迎えに向かった。
「そろそろ手術だと言っていたか」
「今日のデータ次第だと、クアルタは言ってましたね」
「術後のあとの苦痛が酷いと聞く。心配だな」
「お父様が見初めた娘です。大丈夫ですよ」
「だと、いいがな」
話しながら開発所までやって来た二人は所内へ足を踏み入れる。
そしていつもデータを収集している水晶で出来たベッドがある一室へと辿り着く直前、部屋の扉が開かれ、中からクアルタが姿を現して二人を招いた。
「監視用の魔導具で俺たちが来るのを見ていたか?」
「いや。プリメラ姉さんの魔力を感じたんだよ。姉さんは魔力抑えてても常人より総量が多くて分かりやすいからね」
「それは褒めてるのかしら?」
「魔力デブって言ったように聞こえたかな? ならすまないね」
「いっぺん殴るわよ?」
「こらこら。やめないかプリメラ。クアルタも姉さんをからかうんじゃない。仕事中だろ」
仲が悪いわけではないのだが、ジェネラスがいる安心感から子供の頃に戻った気分になり、軽口を叩くクアルタ。
そんな弟にプリメラが拳を握って近づこうとしたのをジェネラスが苦笑しながら止めた。
「ティエスの状態はどうだ? まだ手術までは掛かりそうか?」
「いや。規定値はクリアしてたよ。優秀だね僕らの妹は。あとは父さんとティエスの承諾だけだよ。どうする?」
「俺は構わない。決めるのはティエスだ」
「なら決まりだね。ティエスはもう承諾してるから」
「そうか。日程はどうする? 今から手術に移るのか?」
「まさか。準備があるからね。明日の早朝から始めるよ。だから今日はティエスにはこっちで泊まってもらうけど、大丈夫かな?」
そう言って、クアルタは扉から部屋の中央のベッドに座っているティエスに声を掛けた。
話を聞いていたティエスはこれを頷いて了承すると肩に手を置いた。
「手術は二回。一回目が義肢と肩を繋ぐために肩の改造を行う基礎手術。二回目が肩と腕を繋ぐ接続手術だ。基礎手術が終わったら三日あけて、拒否反応が出ないかを診る。そこで拒否反応が出るようなら手術は一旦中止して、ってこんな話しても不安を煽るだけか」
ジェネラスとプリメラを室内に招き、クアルタは椅子を置いてベッドの側に二人を座らせると自分は立ったまま説明を始めた。
「まあ拒否反応を出さないためにデータを取ってたわけだから、大丈夫だとは思うけど、人体は神が作った神秘そのもの。絶対はない、それだけ頭に入れておいてくれ」
「天才クアルタでも絶対はない、か」
「天才なんて呼ばれていても、所詮は人間の中だけでの話だからね。上位存在から見れば僕なんて虫ケラと同じさ」
「神が存在すると?」
「僕はいると思うよ。その方が面白いし。ごめん、話が逸れたね。話を戻すよ」
そう言うと、クアルタはジェネラスの横に膝をついて片膝立ちになり、ベッドに座るティエスを見た。
「基礎手術が終われば接続手術だけど、コレは一瞬で終わる。問題はそのあとだ。無くした腕は手術で戻るが、触覚だけは戻らない。金属の腕だからね。その腕を使いこなせるようになる為のリハビリに時間が掛かることは覚悟しておいてくれ」
「わ、わかりました」
「クアルタ。俺たちに出来ることはないか?」
「残念ながら無いね。ああでもそうだな。暇なら手術がスムーズに終わることを祈っててよ」
「分かった。精々祈らせてもらうよ」
クアルタの言葉にジェネラスは肩をすくめ、苦笑しながら答える。
そしてこの日はティエスの着替えを取りに一旦帰宅。
プリメラにティエスの身の回りの世話を任せて、ジェネラスは開発所内の一室で一夜を過ごした。
その翌朝。
ジェネラスとプリメラは開発所内の手術を行うために使われる一室に向かうティエスとクアルタを見送る。
そこから半日と少し。
朝から始まった手術は長丁場となったが、夜には無事終了。
部屋から疲弊はしているが明るい笑顔を浮かべたクアルタと医者、技師が姿を現した。
「父さん、ずっと待ってたんだ。手術はひとまず成功したよ。ティエスはまだ睡眠魔法で寝てるけど」
「あとは拒否反応が出るかどうかか」
「そうだね。さあ、これからティエスをデータ収集室に運ぶから、父さんたちは夕飯でも食べてきなよ。僕らもティエスの状態を確認したら少し休むからさ」
「あの水晶のベッドがある部屋か。分かった、食事を終えたら見舞いに来るよ」
こうしてティエスの義肢接続手術で一番重要な基礎手術は無事終了。
ジェネラスとプリメラは最寄りの酒場で食事を終えると、開発所へと見舞いに戻り。
水晶のベッドの上に敷かれた柔らかい布団の中で何事もなかったかのように安らかに眠るティエスの顔を見て安心して一息ついたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます