第33話 最終確認
砦の屋上にて手合わせを行い、息子の実力を確認したジェネラスはその成長度合いに深く感心していた。
やはり自分などはただの凡夫で、育ててきた子供たちこそが天才という類の人種。
たくましく成長してくれたものだと嬉しくなり、老後の生活の見通しがさらに明るくなったことに笑顔を浮かべながら、ジェネラスは子供たちを引き連れて砦の中へと戻っていった。
その時の笑顔が夜警にあたっていた兵士からは何か含みを持った邪悪なものに見え、悪寒を走らせたが、そんな事をジェネラスが知るはずもなく。
クイントの部屋に戻ったジェネラスたちは明日の任務における最終確認を行うことにした。
「さてそれでは。明日の任務についてまず一つ、指揮はクイントに任せようと思うんだが」
「それは駄目です父上。私には父上ほどの指揮能力はありません。私では力不足です」
「私もクイントの意見に賛成です。強者だからといって、お父様ほど
ジェネラスの発言に異を唱えたクイントとプリメラ。
その二人に続くようにセグンとティエスも頷いている。
子供たちのそんな様子に、ソファに腰を掛けていたジェネラスは深く腰を沈ませると、腕を組んでため息を吐いた。
「ふーむ。俺も別に大したこと出来んがなあ」
「ご謙遜を」
「そうだぜ親父!」
「分かった分かった。では大まかにだが、最終確認をしておこう。まず、侵入者は帝国軍だと仮定して動く、これは食堂で話したとおりだ。次に、早朝、セグンにはこの辺りの魔物たちを召集するために動いてもらう。空を飛べる鳥類型の魔物や、広範囲を高速で移動可能な四脚獣型の魔物を中心に声を掛けてくれ」
「あいよ! 了解!」
ジェネラスのたてる作戦に、子供たちは口を挟む事なく耳を傾けていた。
まるで王の勅命だ。
ただ父の話を聞いて、疑う様子もなく頷く。
「クイント、この辺りの地図はあるか?」
「測量班から届いた最新の物があります」
「すっかり軍人だな」
「いえいえ。私はあくまで傭兵です。こういう時のために、そうあれかしと王より賜っております」
「国王の義理の息子でも楽は出来んか」
「愛する姫さまのためなら、大したことではありませんよ」
「ぞっこんじゃないか。お前をそこまで惚れさせた姫さまか、一目会いたいものだ」
「会えますよ。今度一緒に会いに行きます」
「逆じゃないか? こっちが行かねば不敬だろ」
「いえ、姫さまも父上に会いに行きたがっていますので」
世間話も挟みつつ、クイントは本棚の前に置かれていた壺に差し込まれている、筒状に巻かれた地図をジェネラスが座っているソファの前にあるローテーブルの上に広げる。
そして、その地図の両端に重り代わりにコーヒーカップを置いた。
「使い魔や斥候も出したらしいですが、この砦から北は先に言った通り広大な荒野で、起伏が激しい場所が多く、未だ侵入者は発見出来ていないと」
「実際の地形を見てないからなんとも言えんが、この砦を破る目的なら数千人単位の規模で動かねばならん。それなら直ぐに見つかるはずだからな、侵入者は少数か、多くても千はいない、いても分散しているのは間違いないだろう(多分、恐らく)」
「なんでそんな事わかんだよ親父」
「攻城戦の場合、攻撃側は守備側の三倍以上は戦力が必要だからだ。(って、何かの本で読んだ記憶がある)この砦の兵員が千五百ほどだと仮定して、さらに山間部という地形的に不利な場所、尚且つ敵地となれば、それくらいは必要になるという話だセグン」
「へぇ〜」
興味あるのかないのかよく分からない生返事をするセグンに苦笑するジェネラス。
このジェネラスの発言に、驚いていたのは砦の戦力を知るクイントだった。
(この砦に配備された兵は兵種こそ違えど確かに千五百ほど、いつの間に父上は砦の戦力を把握なさったのだ? 末恐ろしい方だ。父上が敵でなくて良かった)
父と姉のやり取りを聞きながら苦笑いを浮かべ、冷や汗を滲ませたクイント。
その隣に立っていたプリメラが、地図を見ながら口元を抑える。
「この砦が目的でないなら、侵入者はどこへ」
「西に行けば森、東に行けば帝国にも繋がっている大河のある荒地がある。(正直分からんが)姿を隠したいなら、俺なら西の森に向かうな。例えその森が魔物たちの住処でも。とはいえ侵入者の目的も分からんしな。一応砦への攻撃の可能性も考えて、そうだな、この辺りを調べてみよう(見つけられなければ、それはそれで仕方ないしな)」
そう言って、ジェネラスは地図の一点を適当に指差した。
この砦より真っ直ぐ北の地点、西の森に向かうにも東の荒地に向かうにも、中途半端な場所。
地図には起伏が激しく、切り立った岩場に注意とも書かれている。
「隠れるには良いかも知れませんが、危険な場所です。敵国の人間なら調べていないとも思えませんが」
「いなければいないで構わん。こっちは五人、ああいや、セグンは別行動だから四人か。とにかくこちらは少人数で動くんだ、危機管理はせねばな」
ニヤッと笑うジェネラスに、クイントは頭を下げた。
「分かりました。父上の心のままに」
こうして地図を睨んでの作戦会議もそこそこに、ジェネラスたちは当てがわれた部屋に案内されるとそれぞれ眠りにつく。
その夜中に、プリメラがこそっとジェネラスの部屋に行って同衾しようと目を覚ました。
しかし、同じベッドで寝ていたセグンとティエスがプリメラを抱き枕の代わりにして眠っていたので、身動き一つ取れず、その犯行は阻止されたのだった。
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