第27話 ジェネラスの子供たち

 ジェネラスが偶然森の中で召喚石の欠片を見つけた翌日。

 プリメラは当てがわれた自室で召喚石の欠片に残った魔力の残滓の解析を行っていた。


「プリメラは何をしていた?」


「召喚石の解析です、魔力が微弱で手間取っているようですね」


「そうか(もしかして利用出来るんだろうか)」


 プリメラのために淹れたコーヒーを持っていったティエスがリビングに戻ってきたので、今朝方から引き篭もっている娘の様子を聞いたジェネラスは開いていた新聞を閉じてローテーブルに置く。


 そして、ティエスが持って来てくれた砂糖とミルクの入った甘めのコーヒーを受け取って口に運んだ。


「コーヒーを淹れるのが上手くなったな(甘いの美味ぁ)」


「ありがとうございます」


 火のついていない暖炉前の絨毯の上で、腹を放り出して眠っているセグンにタオルケットを掛けたティエスが、ジェネラスの言葉に微笑んで応えた。


 そのままティエスはセグンの側に座り込む。


 するとセグンがまだ眠そうに半目を開けてティエスの顔を見ると、安心したように微笑み、その膝に頭を預けて再び目を閉じた。


「随分と仲良くなったな。セグンが誰かに身を預けたところなんて見たことがないぞ?」


「そうなんですか? 私はただ、姉様が寂しくないようにと思って」


「俺もセロもプリメラも、そう思って接していたとは思うんだがなあ。何か、ティエスには違う感情を持っているのかもな(犬や猫なんかにもやたらと懐かれる類いなんだろうなあ)」


 ティエスの膝枕で大口を開けたまま寝ているセグンの姿を見て苦笑し。コーヒーカップをローテーブルに置くジェネラス。

 そんなジェネラスにティエスは雑談のついでにと、かねてより気になっていたことを聞くために口を開く。


「お父様。私で十人目とおっしゃっていましたが、長兄のセロ兄様から始まって、プリメラ姉様、次がセグン姉様なんですよね? その他の兄様や姉様のことを教えていただきたいのですが」


「ふむ。別に構わんが」


 ティエスの言葉に顎に手を当て、一瞬考える素振りを見せるが、このあと用があるわけでもないので、ジェネラスは再びローテーブルの上のコーヒーカップに手を伸ばしたあと、一口飲んで語り始めた。


「セグンのあとに育てたのはティエスの腕を造ったクアルタだった。そのあと育てたのがクイントだ、東の大陸にある、ミズホという国から流れてきた奴隷の少年だった。戦が多い国の出身だからか知らんが、剣技に秀でていた。片刃の剣による居合剣術が得意でな」


「居合い? 聞いた事ありませんね」


「鞘に剣を納めた状態を構えとし、剣を抜く所から一撃目が始まる剣術でな。こっちの国にも似たような剣術はあるが、ミズホほど洗練されているわけではないしなあ。まあ使い手がおらんわけではないが」


 言いながら、ジェネラスは五番目に育てた黒髪の少年のことを思い出していた。

 真面目で勤勉、剣技を磨くことに余念がなかった少年。

 独立したあと怪我をして、片眼を失って帰ってきたときは、なんと声を掛けてやれば良いか分からず、昔友人から聞いた魔眼の話を聞かせ、その数日後、以前の拠点から姿を消してからは会っていない。


「今頃どこで何をしてるのやら。そのあと育てた六番目と七番目、セスタとセプティはハーフエルフの双子でな。任地だった戦場で託された子達だ。男女の双子でな普通の双子ほどそっくりというわけではなかったが、ハーフエルフだけあって弓に魔法に剣術にと色々やれた。今もどこかの国で暴れ回ってるだろうなあ。歳の頃はティエスに近いから、会えたら仲良くしてやってくれ」


「もちろんです。まだ会ったことはありませんが、お父様に育てられた大事な家族ですから」


 そう言って、ティエスは自分の膝で眠っているセグンの癖っ毛を撫でる。

 その様子が、まんまティエスが犬を撫でているように見えたジェネラスは笑みを浮かべて話を続けた。


「そのあと育てたのが、ティエスを引き取った日に送り出した八番目のオクタと九番目のノベナだった。同じ孤児院から引き取ってな。器用な奴らで、正面きっての戦闘も、暗殺術もお手のもの。いつの間にやら俺の予想を超えた成長をしていたよ」


「いつか皆さんにお会いしたいです」


「会えるさ(プリメラが拠点移動の申請をしてくれたから、ユニオン経由でみんなに連絡がいってるだろうし、また定期的に帰ってくるようになるだろ)」


「そうですね(戦争になれば全員集結するように声を掛けているということですね。これほど頼もしいことがあるでしょうか)」


 二人して微笑むが、ふとティエスがある事に気がつく。

 その事を聞くために「そういえば」と口を開いた。


「お父様は私たちの名に数字を使っておられますよね?」


「詳しいな。異世界から伝わってきたと伝えられている古代の文字数字の中でもあまり知られていない物を使っていたんだが」


「お父様の蔵書に記述がありまして、私たちの名前に似てるなと。それで先程兄様たちの名を聞いて足りない数字があるような気がしたので」


「セグンを引き取った頃、セロとプリメラの育成が最終段階だったんだが、最後の任務中にセロが一人、孤児を拾ってきてな。セロが責任を持って育てるというので任せたんだ。その子にセロが三番の意味を持つトレスの名を与えたんでな」


「なるほど、だからセグン姉様の次がクアルタ兄様なのですね」


「被るとややこしいからな」


 昔の事を思い出し、肩をすくめながら苦笑いをして、ジェネラスはコーヒーの最後の一口を飲み干す。


 それを見て、ティエスは側に置かれていたクッションを手に取ると、そっとセグンの頭の下に滑り込ませ、立ち上がって「お代わりを淹れてきますね」と言って、ジェネラスからコーヒーカップを受け取り、キッチンに向かって行ったのだった。


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