第17話 任務終了後の二人

 さて、ヒュージラットの群れを一掃し、燃え始めた森の消火活動に向かったジェネラスとティエスだったが、少し困ったことが起こっていた。


 ティエスの魔法の出力の問題だ。

 剣を腰に納め、水の魔法で消火をしていたのだが、ティエスが右手で発動した時と、左手の義手で魔法を発動した時で魔法の出力が違い過ぎたのだ。


 ティエスがとんでもない熱線を放った際、ジェネラスはたんにティエスが鍛練を頑張った結果、引き起こされた現象だと思っていた。


 当の本人であるティエスは義手の違和感に気が付いてはいたものの、自分が魔力を集めすぎたのだと思い、今度は両手を翳し、同じ量の魔力を集めて魔法を発動したのだが。


「あー。まずいなこりゃ」


 ティエスが義手を使って放出した水量は、右手で同量の魔力を集めて放出した魔法に比べると莫大な物だった。

 辺り一面を、豪雨のあとのような有様にするほどに。


「も、申し訳ありませんお父様」


「へぇっくしょい! クアルタが義手が魔法の杖代わりにもなると言っていたが、なるほどなあ。ああいや、とんでもないなあ」


 森林火災は一瞬で消し止めたが、森に入った傭兵や領兵たちはジェネラスとティエスを含めてびしょ濡れだ。

 

「ともかく依頼は終了だ。これなら残火すら流れただろう。農場主の所へ戻ろう。報酬の相談をしたら帰還するぞ」


「はい」


 二度のやらかしで、落ち込んでしまったか。

 俯きながらティエスは歩き始めたが、前を歩いていたジェネラスが不意に立ち止まったので、ティエスはジェネラスの背中に頭をぶつけてしまった。


 何事かと顔を上げたティエスの目に映ったのは、ジェネラスの前に立ち塞がった、自分がずぶ濡れにしてしまった傭兵たちだった。

 

「どうかしたかね?(さすがに怒らせたか? まあこうもずぶ濡れではなあ)」


 文句を言われても仕方あるまい。

 そう考えてジェネラスは肩をすくめたが、傭兵たちから出てきた言葉は全て感謝や賞賛だった。


「さすがはオーナーが連れているだけあって凄い魔法の使い手ですね」


「おかげさまで被害は最小限です。お二人が来なかったらと考えると」


「今日は本当にありがとうございました。この度の件はあの農場だけでなく、この辺り一帯の農場全ての問題でした。オーナーにユニオンから追加報酬を出すように掛け合ってみます」


「私たちは出来る事をしただけさ(有難い。ティエスを引き取った時に随分と使ったからなあ)」


 領兵たちからも礼を言われ、しばらく談笑したあと、それぞれ解散してジェネラスたちは森から農場のファームハウスへ向かって歩いていく。


 すると、ファームハウスの玄関の前で農場主が待っているのがジェネラスたちから見えた。


「お疲れ様ですジェネラス殿。あなた方の戦いを見ていました。凄まじかったですなあ。さあどうぞお上がりください。今何か拭くものをお持ちしますね」


 農場主に快く迎えられ、ファームハウス内で受け取ったタオルでとりあえず頭や顔など拭ける部分は拭いて報酬の話に移る。


 そして、この農場の羽牛から搾ったという温められたミルクを飲みながら話し、ジェネラスが提示した報酬よりも農場主が多く持ってきた報酬を受け取ると、二人はエレフセリアの街に向かって歩き始めた。


「ちょっとした鍛練のつもりが、ちょっとした事件に首を突っ込むことになったな」


「あれだけのネズミが生息しているような深い森には見えませんでしたが」


「穴でも掘って暮らしてたのかもなあ。それがなんの影響か知らんが出てきたと言うだけだろう(とはいえ確かに妙な感じではあったな。魔物好きのセグンなら何か分かったのかもなあ)」


 クアルタと共に育てていた三番目の娘の事を思い出しながら、ジェネラスはティエスと話しながら自宅へ向かって歩いていくが、いかんせん、いまだに服は濡れたまま。


 ジェネラスとティエスは同じタイミングでくしゃみをしてしまい、顔を見合わせて苦笑する。


 そんな二人がエレフセリアの街の自宅に辿り着いた頃には夕日が傾いてその日の一番星が輝いていた。


「ただいまあ。すまんプリメラ、風呂を沸かしてくれんか?」


「おかえりなさいお父様。ティエス。お風呂なら沸かしていますよ? どうしたんですか? ずぶ濡れじゃないですか」


「ちょっと色々あってな。あとで話すよ。ティエス、俺はあとでいい。先に風呂に入りなさい」


「え? いや、でも」


「ティエスに風邪をひかせるわけにはいかんからな。俺の事なら気にするな、良いな?」


「でもお父様も濡れてらっしゃいますし」


「おっと。そこまでにしておけティエス。隷属の指輪が発動してしまうぞ? プリメラ、ティエスに付いてやりなさい。問題は無かろうが、初めて義手をつけたままでの風呂だからな」


「分かりました。では先にお風呂頂きますお父様」


 ティエスはまだ何か言いたげだったが、右手中指に嵌められている隷属の指輪の事を言われ、効果の発動を危惧して黙って言うことを聞いて、プリメラと浴室へ向かっていく。


 それを見送ったジェネラスは、とりあえず服を着替えるために自室へと向かうのだった。

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