第一三話 光栄ある輸送作戦②

公開が遅れて申し訳ありません。ちょっとした事情で公開できずにいました。

恐らくこれからは遅滞なしに予定通り公開できると思いますので、これからも応援よろしくお願いいたします。


P.S.お詫びと言っては何ですが、今回はいつもより少し文字数が多いです。

______________________________________


__一七九七年三月一〇日、ビスケー湾沖合三四八海里地点


「地獄のジブラルタル湾からやっとこのビスケー湾まで来たが、かなり遠まりしたせいでもう三日は遅れてしまったな……」

俺は艦長の艦尾側の窓からまるで向こうガリアでの激しい戦いを暗示するかのように遠くに立ち込める黒鉄の金床雲を眺めて呟く。



「緊急事態です艦長!!水兵が暴動を起こしました!!」

突如として副長のロッテが飛び込んできた。


「な、何?!とりあえず仔細を話してくれ!!」

俺は驚きながらも、ロッテの元へ急いで行き、問いただす。


「水兵が二つの派閥に分かれて乱闘を起こしているんです! 海兵たちに対処させてはいるものの、乱闘の火の粉は下士官たちにも降りかかっています!」

ロッテは少しヒステリックになりながら声を荒げる。


「な、何が起きているかはわかった。それで、二つの派閥というのは?」


「は、はい。前々からいくつかの派閥があったのですが、今は合併したり分裂したりして徴募水兵派と志願水兵派に分かれています。」

少しづつロッテは落ち着いてきたようで、より事細かに状況を説明し出す。


「徴募派と志願派ねぇ……察するに、徴募派が本艦の危機的状況を危うんで俺か、例の王女を追い出せと言ったのを俺に近い志願派が対抗したと言ったところか……」

俺は顎に手を当てて冷静に分析し出す。


「は、はい。その通りです。それで、どうしましょうか?」

あまりに平然とした俺の仕草にロッテは少し戸惑ったが、直ぐに命令を促してくる。


「取り敢えず、矛先がロッテ達皆んなに向く前に俺が言って話をしよう。念の為王女は婦人の隠れ穴へ。そうだな、ソフィーを付き添わせておくんだ。あと、俺への士官の護衛はいらない。そんなことよりも士官室ガンルームを見張って、誰の手にも武器が渡らないようにしてくれ。それじゃあ、行ってくる。」

俺はパッパッと要点だけ伝えると、足早に艦長室の扉を開いて出て行こうとする。


「か、艦長!」

扉から片足を出したところで、ロッテが俺を呼び止める。


「ど、どうした?」


「お気をつけて!!」


「お、おう。ありがとな。」

俺は乱闘の仲裁をしに行くだけなのに大袈裟だなと思いつつも心配してくれているロッテの心遣いに応えて拳をグッと握ってガッツポーズして部屋を出た。


__第二砲甲板


「諸君!!!!」

俺はすぐに目に入った薄い紺色の制服を着た水兵たちが殴り合いの大乱闘を繰り広げているのを見るや否や声を張り上げて注目を向けた。

背後から一段大きな自分に呼びかける声が聞こえた水兵達は皆手を止め、視線をキョロキョロと動かして声の主である俺を探す。


「貴様らは一体何をしている?貴様らは誇り高きアルビオン海軍において最も重要な部位である手足ではないのか?頑健で不屈の精神を持つアルビオン水兵ではないのか?」

俺は全員が俺の登場に気づいてから、ゆっくりと力強く、段々と声を大きくし、叱ると言うよりかは気づかせるように話だす。


「私は、君たちを信じている。だが、失望させるなと言いたいのではない。私は君たち一人一人が互いに協調してふねという大きなものを動かしてくれることだけを信じたいんだ。」

少し大袈裟な仕草をつけて、一旦区切り、いつ話すかと注力されるようにし、俺の一挙一動に耳が、目が、全ての感覚が俺へ向くように仕向ける。


「だからこそ、決して互いに争えなどと命じた覚えも、憎しみ合えと命じた覚えもない。いいか、決してだ。」

俺の言葉に一同はシーンと静まり返り、辺りはネズミ一匹声を上げられない場となった。


「そして、私が君たちに保証すべきことがある。俺は必ずこの航海を成功させる。絶対にだ!!」

あえて声を小さく、そして最後には強調して声を荒げ、工夫して水兵たちの心に訴えかけたのが功を奏したのか、俺の仲裁の演説の終幕は歓声で迎えられた。


「艦長、俺ぁ、ずっと、ずっと信じてましたぜ!」


「ブラウン艦長ばんざーい!」


「一生ついて行きやす!!」


俺はそこからかしこから褒められ、少しこそばゆくなったが、ありがとう、ヒトラー。貴方の演説力は異世界人にも効果覿面こうかてきめんだったよ。


__航海長室


「と、まあ、彼らにはああ言ったわけだが、一歩間違えれば大規模な反乱に変わっていたかもしれない。だからこそ、君たちに彼らの処遇を決めて欲しい。必要ならば、証人を召喚できるし、彼らへの決定は君たちの決断にある。司会はロッテ、君がするんだ。それじゃあ、俺は艦長室で待っているから、決まり次第報告に来てくれ。」

俺はそれだけ伝えると、シアに作らせた乱闘に参加したメンバーのリストだけ置いて部屋を後にした。


__アルフレッドが出ていった後


「それじゃ、軍法会議を始めようか。リストによると、七五人が参加したのを認めていて、八人が否認してるね。とりあえず、彼らへの処罰について考えよう。誰か?」

フィッツロイはリストをサーっと流し読みし、卓を取り囲む四人の顔を見る。


「あ、あの、大して大きな怪我や艦の損傷、反乱だって起きてはいなかったですよね……?な、なら無罪放免でも大丈夫じゃないでしょうか……」

メイベルが控えめに手を挙げて案を出す。


「平和的解決か……いいね。でも、もしもこの艦がもっと傷ついていたら?死者が出ていたら?本当に反乱になっていたら?どれか一つが起きるだけでも、インディファティガブルにとっては致命的な損傷を招くことになるかも知れないよ。他には?ハンナちゃんはどう?」

フィッツロイはハンナに意見を促すと、ハンナは腕を組み口を開いた。


「加害行為の数で罰の重さを決めるのはどうでしょう?誰でもすぐにわかるし面倒な計算も少なく済むと思うんですが。」


「なるほど、悪くないね。ただ、嘘をつく人が出たらどうしようか?」

フィッツロイは、深く頷いてから、問題点を挙げる。


「でしたら、全員からその人が言っていることが本当か聞いたらどうです?」

ソフィアが改善案を出す。


「ボクはいっそ、全員に平等に罰を与えたらいいと思うな。例えば、一人当たり鞭打ち一五回と来年までグロッグの配給停止とか。」

ルナは恐ろしく平然とした面持ちで言うが、それは乱闘に参加した彼らからすれば、毎日の生き甲斐であり、通貨としても使われるグロッグだ。それをあと九ヶ月もの間配給停止となれば、流石に我慢ならないだろう。


「さ、流石にキツすぎないですか……?三ヶ月ぐらいでも十分な罰になると思いますが……そ、それか鞭打ちを無くすかしないと逆に今回の事件の再発につながるんじゃ……」

メイベルは先ほどの意見が却下されたからか、前よりもキョドりながら案を出す。


「確かにルナはやりすぎだね。とりあえず今の所でまとめると、全員に罰を与えるのは確定なんだよね?」

ロッテは自分に帰ってきたリストを皆に見えるように机に置いて尋ねる。


「オッケーだよ!」

「さ、賛成です……」

「異論ありません。」

「異存無し、です。」


全員からの賛同を得たロッテは何度か頷いてからまた口を開く。


「了解、それじゃ今の論点は罰を公平に与えるか、加害の数で重さを決めるかだね。ルナとメイが公平派、ハンナちゃんとソフィアちゃんが加害数派だね。それじゃ、チャチャット決めようか。」

それぞれ二人が頷き、ロッテは司会進行を再度開始した。


__二時間半後


「結構長かったが、この内容を見る限り、長引いたわけだ。」

俺は大きな一枚の紙に書き連ねられた会議での結果報告書に目を通す。


一、今回の乱闘事件に参加した者は全て海軍刑法第十九条『反乱について』の規定に則り、国王陛下並びにインディファティガブル艦長の名の下において罪人であることとする

二、罪人とされた八三名は鞭打ち一〇回、半年間のグロッグ配給停止、二度の航海の間、どの港に停泊しようとも艦内に拘留される

三、罪人とされた八三名は正式な発表を受けた後に、直ちに罰を受けることとする


要点を軽くまとめればこうだが、その他にも細かな規定があり、何時間もかけて話し合ったことが瞬時に理解できた。


「ええ、しかし、私たちが話し合っている間にかなり進んだみたいですが、ここはどの辺りですか?」

ロッテは少し大袈裟に艦長室の窓の外を見ながら俺に尋ねる。


「ああ、ついさっきまでいい感じの順風に乗れていたんだ。ジョージが発見した情報によれば大体コーンウォールの東端辺りに近づいているはずだ。今のところは航海は順調だぞ。」

俺は満身創痍のインディファティガブルがここまでの間、例の事件以外何の損傷もなくここまで来たことにとても機嫌を良くしていたこともあってか、上機嫌でロッテに伝えた。


「もうですか!つくづく、私たちは運に好かれているのか見放されているのかわからなくなりますね。」

ロッテも大層驚いたようで、愚痴を漏らす。

こうやって他愛もない会話をしていると、なんだか、物事全てが上手くいくような気がしてくる。

……いや、別にフラグではない。………多分。……多分?


__二日後早朝


軍法会議の翌日から、決定された処罰はその効力を示し、何人かは不服そうだったが、対象者の多くは、自らの行いを反省し、甘んじて自らの罪を償っていた。


「艦長、灯台が見えます!!旗は……アルビオンのものです!!アルビオン本国なり!!」

見張り檣楼に立っていた水兵が声高々に意気揚々と報告する。


「コーンウォールのエディストーン灯台だね。良かった、予定通りだ。」

報告を受けたルナが俺の横へ歩いて来た。今回、ルートを変更する際ルナは汚名返上とばかりに働き詰めだったので、その分無事に航海を達成できたことが嬉しかったのだろう。


「とりあえず、一つ目の任務はクリアだな。これから何もなければいいんだけど……」

俺は淡い期待に期待を寄せるが、アルビオンの曇りがちな天気はそれを良しとしてはいなかった。


_____________________________________


 訂正、応援コメント、何でもください!

『いいな』と思ったらレビュー、☆、フォローなど何卒よろしくお願いします!


 次回 恐怖の海軍卿 お楽しみに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る