第九話 一大作戦

「艦長!旗艦より信号!『諸君らが海の平和のために最大を尽くすことを願う。作戦を開始せよ。』以上です!」

火蓋が切られた。もう後戻りはできない。だからと言ってみすみす死にに行くなんてしない。勝利あるのみだ。


「艦長!艦隊、動きました!」


「…………よし。総帆展帆!進路南東!ハード・スタボー面舵いっぱい!」


「ハード・スタボー・サー!」


「総帆展帆!」

「総帆展帆!」

「総帆展帆!」

「総帆展帆!」

各マストから降ろされた帆が一瞬ばたついたと思うや否や、直ぐに張りだした。今晩はかなり風が強いらしい。


「艦長!本隊が艦砲射撃を開始しました!」


「了解!速度をもっと出せ!張りが甘いぞ!ツリム調整!操舵員、スタボー面舵!」


「スタボー・サー!」


「まもなく上陸地点!上陸隊、甲板に並べ!」

アルジェ周辺の海図を見ていたルナが叫んだ。確かに作戦開始前に何度も見ていた地形が目の前にある。


「総帆畳帆!上陸隊は速やかに甲板に整列!急げ!」

ドタドタと水兵を中心とした上陸隊が甲板に上がってくる。この中に海兵隊はほとんどいない。何故なら、泳げないからだ。海洋冒険小説を読むと、必ずと言っていいほど泳げない士官たちが出てくる。これはキャラ付けでもなんでもなく、実際にそうだったからだ。かく言う俺も記憶を取り戻すまでは泳げなかった。だから今回ペルセウスに12名も遠泳が可能な乗員が集まっていたのは奇跡とも言える。


「「私たちも行きます。」」

ハンナとメイベルが同時に声を上げた。


「駄目だ。君たちは泳げない。これを言うのは辛いが、足手纏いになるだけだ。」


「では何故艦長が行くのです!」


「私は泳げるからだ。今は使える人材は使わなくてはならない。わかったら配置に戻ってくれ。」


「「アイアイ・サー…」」

二人は不承不承に敬礼した。二人には悪いことを言ったかもしれないが、彼女たちが遠泳に失敗すれば同時に二人の士官を失いうことになる。それだけは避けなくてはならない。


「さあ、諸君は選ばれし者だ。今回共に戦えることを大変光栄に思う。飛び込めっ!」

俺の号令で上陸隊が一斉に飛び込む。因みに全員が俺のアイデアで急拵えで作った水着の様なものを着ている。後々の作戦に支障が出ない様にするためだ。


「全員いるか!シア、隊員を集めてくれ。」


「アイアイ・サー。」

シアは士官の中では唯一の(俺は記憶取り戻している為含めないとする)水泳ができる乗員だ。最悪俺一人で指揮する事となることも覚悟していたので、シアが泳げると聞いた時、とても嬉しかった。


「艦長、12名、全員無事です。」


「そうか。では全員急いで浜に向かえ!くれぐれも見つかるなよ!」


「「アイアイ・サー!」」

そう言って俺と上陸隊12名は浜に向かって泳ぎ出した。


__21分後


一段の最後尾を泳いでいた俺が上陸したことで、シアをはじめとする11名が敬礼したことを見て、俺は心底ホッと安堵のため息をいた。


「全員無事で何よりだ。さあ、急いで着替えるぞ。樽から武器を取れ。シアは……向こうの岩陰で着替えて来なさい。」


「今はそんなことしている暇はありません。ここで着替えます。」


「お前は良くても俺たちがダメだ。向こうで着替えて来い。」

シアの言うことは尤もだが、倫理的にダメだ。何よりもここで許せばロリコン呼ばわりされかねない。艦長の威厳が損ねられるのはこれからのためにもなんとかせなばならん。


「イエス・サー。」


そんなこんなで全員がいつもの格好に戻り、もう一度点呼し、作戦の山場となる上陸地の安全確保作戦が始まった。


「さて…確かにこちら側は警備が手薄だが、こんな少人数では真っ向から向かっても勝てない。シア、何か案はあるか?」


「……はい。艦長、私に一つ案があります。」


「やはりないか……………………………ちょっと待て、なんて言った?」


「私に案があると言いました。」


「そ、それは願ったり叶ったりだ。教えてくれ。」


「はい。まず、私と水兵が…最低一人いてくれれば良いです。ここで門番を刺し殺して、上陸隊全員を素早く町に侵入させます。城壁に巣食う兵を暗殺して、兵舎を占領すれば作戦は完了です。如何でしょう。」


「ふむ……却下、と言いたいところだが……シア、君はこれが必ず成功させることができると自信をもって言えるか?」


「イエス・サー。」

抑揚のない、しかし堂々とした声だった。


「……わかった。その作戦で行こう。随伴の水兵は君が決めてくれ。」


「ジョージで。」

あまりの速さに付近で暇を潰していた水兵ジョージの肩がビクッと上がった。この水兵は、珍しく強制徴募プレスギャングで集められた徴募水兵ではなく、自らの意思で水兵になった志願水兵であり、他の水兵たちと比べて少し給与が高い水兵だ。ただでさえ珍しい志願水兵であることにプラスで泳げるときたものだから、奇跡とも言えるだろう。


「では、健闘を祈る。」


「「イエス・サー。」」


だが健闘を祈るとは言ったものの、正直シアが作戦を成功させれるかどうか、俺は半信半疑だった。


「あっ、おい!」

俺が止めに入ろうと物陰から出そうになったのは仕方がないことだろう。なぜならシアは物陰から物陰へ移動するわけでもなく、なんなら堂々と城門に歩いて行ったのだ。すると当たり前とも言うべきではあるが、二人の門番が飛び出して来た、と次の瞬間シアとすれ違った一人がその場に崩れ落ち、すぐにもう一人も硬い地面に崩れ落ちた。


「「「………………」」」

隊の全員がポカンと口をOの形に開け、シアがこちらに手招きをするまで口を閉じられなかった。


後はあっという間だった。同じ方法でシアはバタバタと敵を殺していった。後で知ったことだが、あの殺し方は暗殺者が行う方法の様で、気付かれないよう後からターゲットに近づき、左手で顎を持ち上げると同時にナイフを顎下へ根元まで差し込む。という一撃必殺のものらしい。一体どこでそんなこと覚えたのだろうか。


「……なんか、呆気なかったな。」

俺は隣にいるジョージに話しかけた。


「そですね。俺なんかいきなり名指しされて突っ立ってただけですよ。」

ジョージは未だにシアが全て一人でやったことについて信じられていない様な仕草で言った。


「まあ良い。取り敢えず残りは夜通しでここを守るだけ………いつもの当直と何も変わらん。だろう?さあ、そこの二人は向こうの通路、そっちの二人、あっちの通路。違うお前じゃない、その隣だ。あとは……」


城壁とその周辺に散らばった12名は、寝ずに一晩、再度艦隊が現れるまで見張り続けたのであった。


______________________________________


体調が戻って来たので続き書きました!

咳って辛いですね

誤字の訂正、応援コメント、何でもください!

いいな、と思ったらフォローや星、ハートもよろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る