第一〇話 一件落着(?)


明け方、日が昇り出して間も無く俺たち先行上陸隊は、本隊と入れ違いになるようにアルジェから脱出し、ペルセウスに乗艦した。勿論、ボートでだ。


「「お疲れ様でしたっ!!!艦長!!」」


「お、おう…ただいま……」

乗艦して次の…と言うより乗艦と同タイミングハンナとメイベルが我れ先にと息せき切って俺の間近まで走ってきた。下甲板から来たのを鑑見れば恐らく休憩中だったろうに、なんと言う執着……でも何に執着してるんだ?


「艦長は人気者だねぇ。」


「お疲れ様です。艦長。」

ルナとフィッツロイが歩いてきた。でも他人事じゃねえからな!


「臨時艦長ご苦労、フィッツロイ君。艦は特に何もなかったようで良かった。諸君らも、出迎えは有り難いがその敬礼は彼らにしてやってくれ。」

俺は全体指揮を取っただけで特に何もしていない。一番の功労者は常に俺たち指揮官の目や手足となってくれている水兵や下士官、下級士官たちであるべきだ。


「艦長!来てください!」

見張りの水兵からヒステリックな声が聞こえたのは12時を過ぎ、アルジェの陥落も目と鼻の先、と言う頃だった。

俺はシュラウドを肝の冷える思いで上り、最上鐘楼にいる水兵の元へ行った。


「どうしたんだ、こんなところまで呼び出すとは。」


「は、はいっ、こちらを。アルジェの港を監視するように航行する船がありまして。」

そう言って水兵は俺に望遠鏡を手渡した。俺は望遠鏡を受け取り、船を見つめた。


「それがどうしたんだ。」


「は、はい。問題なのは艦尾の旗でして。この辺じゃ見たことのないタイプの旗なんで。」


「艦尾?黒に頭蓋骨、交差したカトラス……まさかラカム海賊団か!」


「ラカム海賊団?そりゃなんですか?」


「大体七〇年くらい前に初代船長が死んで大分名も廃れたバッカニアカリブの海賊の海賊団だ。当時はそのすばしっこさからどんな海軍にも捕まらなかったらしい。今は娘がやってると聞いたが、まさかこんなところにいるとは。」


「ど、どうしますぜ?」

水兵は海賊と聞き、よりヒステリックになって聞いた。


「どうするもこうするも、相手の出方を伺うしかないだろう。君は引き続き見張を続けてくれ。」

俺はそう言って水兵を残して甲板に戻った。


「艦長、なんだったんです?」

フィッツロイが乱れた服を直す俺に聞いた。


「南西3海里に敵船らしき船だ。念の為逃れるようにしておけ。」


「敵船らしき船が増進!一目散にこちらへ来ます!」

艦は作戦を終えれた安堵の戦勝ムードから一気に戦時ムードへと変わった。


「総員戦闘配置!ハード・ポート取り舵いっぱいタッキング上手回しで敵戦に近づけ!」


「ハード・ポート・サー!」


今度こそ、今度こそ死傷を無くして、全員笑顔でアルビオンに帰る……ってのは夢物語かも知れないが、今回は海戦のやり方を少しだけだが変えるやり方で挑むつもりだ。成功すればかなり死傷者が減るはずだし、なんとしても成功させねばならない。


艦が一際大きな波で浮き上がった刹那、衝撃が走った。


「何があった!報告急げ!」

俺は波で傾く船体に掴まり、叫んだ。


「敵船変針!本艦の艦首に被弾しました!負傷者はいません!」


「よくやった。こちらも変針して同行戦に挑め!一斉射だけでもできればいい!」


「イエッサー!」


ペルセウスは銃撃と砲撃の鳴り響くアルジェを背後に、左舷側に位置する黒の髑髏旗の靡く船と同行戦を開始した。


「左舷、てーっ!」

号令と共にペルセウスの左舷側は白煙によって覆われた。敵船は船体が砕ける音と、砲撃音を響かせる。偶々波によって砲撃は船体をかすめたが、数発艦尾にあたり速度を下げさせた。


「艦長!敵船が近づいてきます!接舷する気です!」


「ならされる前にこちらからしてやれ!ポート取り舵!」


「ポート・サー!」


今日一番大きな轟音が響き、ペルセウスは接舷した。それと共に半数近くの乗員が敵船に乗り込む。俺も艦をフィツロイに任せ、サーベルを引き抜いて乗り移った。


「艦長!なんでまたいるんですか!戻ってください!」

ハンナが海賊船にに乗り移った俺を見て叫んだ。


「前にも言っただろう、けじめだよ!そっちこそ話してると危ないぞ!」

そう言って俺は敵を一突きし、次の敵へ走った。


「怯むんじゃないよ!オヤジ達みたいになりたいか!?」

何やら茶髪の女性がフリントロックのピストルを片手に海賊たちを鼓舞していた。服装から察するに船長だろうか。関係ないが、なぜ俺の周りには女性がこうも多いのだろうか。


「そこの女性!船長と見受けて決闘を申し込みたい!俺が勝ったら無条件に降伏しろ!俺が負けたらその逆でいい!どうだ!」

決闘とは、中世紀から現代(勿論転生前の話だが)のヨーロッパや世界各地で行われた物事の決着法や娯楽の一つだ。勿論一八,一九世紀でもこのやり方はよく見られ、独立戦争でも、士官同士の決闘はよく見られたという。


「面白いじゃないか、確かにアタシはこの船の船長さ。いいだろう、受けてやるよっ?!」

ラカム海賊団の船長はこちらの顔を見るなり、驚愕と恍惚の間みたいな奇妙な表情を向けた。


「ど、どうしたんだ?」


「…………………こ、降伏するよ。ただし、条件が一つある。」


「「「「「「「はぁ?」」」」」」」

船上で俺とラカム海賊団の船長を見守っていた敵味方全員が驚愕した。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!まだ何もしてないのにいきなり何を言うんだ!」


「そ、その………あんまり人前で言いたくないんだが………」

船長が顔を赤らめた。……海賊船の船長だが、女性だからか身だしなみには気をつけているらしく、所々に可愛らしさが垣間見えてしまう……


「な、なんだ?言ってくれないと降伏は許諾できないぞ。」

少し脅しをかけてみる。いくら可愛かろうと、相手は海賊だ。奇襲だってあるかも知れない。


「あ、いやその………………アンタにその…えっと………ひ、一目惚れしちまったみてーで………ええい!男ならこんなこと言わすなよ!!」


「…………………は?????????」

今日一の困惑が出た。意味がわからない。どう考えても一目惚れがここで起きるわけがわからない。


「ほ、ほら!これで降伏させてくれんだろ!さっさとさせてくれよ!」


「あ、いや降伏は良いんだが、もしかして条件っていうは……」


「その、アタシを嫁にしてくんねーかなーって……」


「な、なるほど………とりあえず降伏は受け入れよう。条件に関しては……取り敢えこちら側で決めさせてくれ。一応、君たち捕虜の願いもいくらか聞き入れよう。」


「わ、わかった!それでいい。」


「えーと……それじゃあ、全員武器を下ろしてくれ。海兵は彼らを縛ってくれ。」

海賊も多くが武器を置き投降したが、どうも不思議そうな顔で拘束されていった。


海賊が全員拘束され、一先ず一件落着と、乗員一同がホッと安堵の溜息をついたその時、ペルセウスが轟音を響かせ艦首から前のめりになった。


「艦長!ペルセウスが座礁しました!」


______________________________________


体が楽になって筆が乗ったのでもう一話書きました!

もう十話と言うのですから、時の流れは早いですね。

誤字の訂正、応援コメント、何でもください!

いいな、と思ったらフォローや星、ハートもよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る