第十一話 座礁

「……………急いで帆から風を抜かせて畳ませろ!浸水している場所を測って報告!それと錘で各所、暗礁の測深急げ!チンタラしてる暇はないぞ!」


「「あ、アイアイ・サー!」」

ペルセウスの帆がばたつき、畳まれ、水兵達が測深用の錘を降ろす。ちなみにこの錘には油脂が塗られており、海底に着いた時に海底の砂や泥を付着させる。その付着物を見て、座礁したのが砂場か、暗礁か調べる。


「報告します!錘は艦首と右舷は全部何も着いていませんが、左舷は艦首側から泥と砂です!浸水は艦首から右舷船底にかけて浸水しており、一番深いところで1フィートちょっとです!」

現場で指揮したいが、変に乗艦しては浸水を更に増やす結果になりかねない以上、水兵たちの報告をこの海賊船から聞くことしかできないのはとてももどかしい。


「了解!ポンプを稼働させて排水しろ!離礁できれば良い!それと……失礼するが、この船の名は?」

俺はマストに並んだ海賊の内の一人から聞いた。


「コンスタント・リフォーメーション。」

ぶっきらぼうに言われ、俺はあの船長が独断で降伏したことを実感した。


コンスタント・リフォーメーション絶え間ない改革ねぇ……皮肉だな。まあいい、ありがとう。ルナ、コンスタント・リフォーメーション周りの暗礁を調べさせてくれ。」


「了解、艦長!」

ペルセウスとコンスタント・リフォーメーションからボートが下され、ロープが海中に垂らされていった。


「艦長、コンスタント・リフォーメーションの周りは若干低いけど暗礁は見当たらなかったよ。多分推測するに案外小さい暗礁みたいだけど。」

ルナが結果を要点的に報告する。


「なるほど……ルナ、いまからこの船を離脱させる。誰か航海士を一人、コンスタント・リフォーメーションの操舵員にしてくれ。できるだけ腕の良いのが良い。」

俺はその間にペルセウスに関する報告を受け、命令を下す。どうも昨晩から吹き続けている風のせいで船体が少しづつ食い込んでいるようで、ペルセウスの状況は悪化しているらしい。


「わかった。ボクがやるよ。」

ルナは右舷艦首側よりに傾くペルセウスを一眼見てから言った。


「え。」

俺はまたもや唖然とした。どうも今日は俺は驚かされなければいけない日らしい。


「ボクなら腕もあるし、問題ないでしょ?それにそもそもの話、この船に操舵できる人ボクしかいないの知らないの?」


「そうだったのか…だがルナがやれると言うのならやらせてみよう。これからペルセウスの乗員達をできるだけこっちに乗せる。俺はその代わりペルセウスに移って指揮する。ルナは乗せた乗員達をバルセロナ提督の艦隊まで運んで、できれば曳航できるスループなりスクーナーなりを呼んできて欲しい。わかったか?」

ペルセウスは例え助かったとしても長くは持たないだろう。元々年季が入った艦ではあったが、あれほどがっつり暗礁に突き刺さっては離礁できるかも怪しいだろう。無事生還したとして、俺は一体どんな罰を下されるのか。頭では今はそんな事考えている暇など無いとわかっていても反芻してしまう。


「そ、そんな事…………………………わかった。ボクがペルセウスを、皆んなを、勿論艦長も全員助ける!」

ルナは右の拳をグッと握り、俺の胸に軽く当てて舵輪に向かった。


「……よし。総員、聞け!!これより本船コンスタント・リフォーメーションの脱出を行う!ペルセウスの乗員は各自の判断で本船に乗り脱出しろ!それともう一つ!貴様ら如きの命で俺の涙腺が刺激されるとでも思うなよ!以上だ!」

沈みゆくペルセウスからは大歓声の雄叫びが上がった。


「……なんで誰も降りないんだ?」


「艦長の演説が聞いちゃったんだよ。それより、もう出航するから艦長も移るなら移りなよ。」

ルナが舵輪を握って水兵達に命令を下す。


「あ、ああ。それじゃ、この船を頼んだ。」


「アイアイ・サー。お任せあれ、だよ。」


「そう言ってくれると心強いな。誰か!俺を向こうに上げてくれ!」

俺はルナの敬礼に答礼してペルセウスから降ろされたロープを掴み、ペルセウスに乗艦した。


「お帰りなさい。艦長。」

フィッツロイが笑顔で出迎える。


「おう、ただいま。だが、俺はこのまま全員をペルセウスと共にはさせんぞ?」


「勿論、そう信じてみんな残りましたので。」


「よろしい。さて、浸水はどれだけ増えた!それと積み荷をできるだけ捨てろ!砲はしっかり釘で塞ぐのを忘れるなよ!」

砲は回収して錆を落とせばまた使える。アルビオンが回収するならまだいいが、敵が回収するのは避けなければならない。そのため砲の通火孔に釘をハンマーで叩き込み、使用不能にする。


「「「イエス・サー!」」」


各所で巨大な水飛沫と共に砲が捨てられる。少しずつだがペルセウスが軽くなり、浮かぶのが感じられる。


「報告します!浸水は1.5フィート!浮いたことで繋ぎ目が更に緩くなったのが原因と思われます!」


「想定内だ。できるだけ急いで穴を塞がせろ。その後離礁してアルジェに戻る。総員作業に戻れ!」 


「艦長!イスパニア旗のスループが来ます!あっ、正体不明イスパニア船より通信!『我イスパニア海軍艦艇、バサン。コンスタント・リフォーメーションより連絡を受け、曳航任務を命ぜられここに参上した。』以上です!助けが来ました!」

乗員達から漏れる歓声から、応援が来たことで士気がかなり上がっていることがわかった。


しかしそんな事を言っていられるのも束の間、強風が吹いてミシミシと船体が唸り、どんどんペルセウスが右舷へ傾く。


「最悪だ………被害報告急げ!」


「報告します!右舷のキールは完全にダメです。これ以上の航行は不可能です!」

上がってきた作業員が叫んだ。報告を聞く限り、あまり考えたくはなかったが軋む船体から鑑みるにペルセウスは本格的におしまいなようだ。乗員には申し訳ないが、バサンに乗って逃げるしかないだろう。

俺は後悔しながらも覚悟を決めた。


「諸君!作業を中止して退艦せよ。これよりペルセウスは沈没する。」

自分で言っておきながら、心が締め付けられるような感覚に陥り、皆もまた顔を暗くした。しかし我儘を言っていられないのも事実だ。確かにペルセウスは今この瞬間にも傾斜が拡大し、沈んでいるのだから。


「艦長、総員退艦しました。後は艦長と私とミス・メイベルだけです。」

フィッツロイは敬礼して言った。俺だって彼らに比べればあまり長い間この艦にいたわけではない。だが思い入れがあるのも事実だ。俺はペルセウスの艦尾に今なお翻るアルビオン海軍旗を外し、フィッツロイの持つ箱に閉まった。

この軍艦旗の収納という行為は、皇帝陛下より与えられし艦を放棄することと同じであり、軍法会議は避けれない。


「俺たちも退艦するぞ。」

俺の言葉に残った二人は頷き、再度ペルセウスに敬礼して救命ボートに移った。


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休みやらで色々投稿が狂ったので一旦リセットさせていただきました。またこれから毎日投稿頑張りたいと思いますので、応援宜しくお願いします。

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