第十二話 帰還

「……指揮艦、ペルセウスだっけか?の事は残念だったな。だがよぅ、お前さんは海賊船を2隻、それも一隻は34門艦級だって聞いたぜ。そんなに拿捕できたならよぅ、軍艦の一隻、どーってこたぁねぇじゃねぇか?な?だから元気出せよ。」


「ああ…そうだな。」

俺は助けに来たイスパニアのスループ、バサンの艦長セバスチャン・アルフレードに慰められていた。ただ、このアホ面の苗字と名前が似ていることに腹が立つのは俺の心が荒んでいるからなのだろうか。悪いやつでは無いんだがな……


「そ、そうですよ艦長。それに私はいつもの艦長が私の隣にいるだけで私は幸せなんですから…だ、だから艦長はいつも通り、笑っててくださいよ。」

メイベルが俺の背中をどーん!と、叩ければ様になったのだろうが、生憎、人を励ますのには場違いすぎる泣きっ面でやられては、とんっと、軽い音しか出ないのも当然だろう。しかしメイベルのミスマッチな言動で俺は元気をもらえたような気がした。


「はははっ。ありがとう、メイベル。でも俺を励ます時は笑顔でいてくれよ。でないと俺が心配しちゃうだろ?それに今の俺はただの海佐だよ。」

俺は泣くメイベルの涙をそっと拭い、笑って座っている何が入っているかもわからない樽から立った。


「……………そ、そそ、それってもうつまり、そ、そう言うこと…ですよね?」


…メイベルが顔を真っ赤にしてどこかへ走って行ってしまった。


「………海佐、メイベルが走ってましたが、どうしたんです?それと、もう艦隊が見えてきましたよ。身だしなみ、整えた方がいいんじゃないです?」

メイベルとすれ違うようにして入ってきたフィッツロイが、俺の服装をチラチラ見ながら言った。まあ、色々あったから乱れてるのはわかるが、そんなに酷いか……?



「か゛ん゛ち゛ょ゛ぉ゛〜〜生きてでよ゛か゛っ゛た゛よ゛ぉ゛〜〜〜」

取り敢えず報告の意味も込めて、バルセロナ提督の旗艦アルへシーラスに乗艦したが、乗艦2秒でハンナに抱きつかれた。あの、あんまり顔で服スリスリしないで、汚れちゃうから。


「落ち着け落ち着け、ハンナ。俺もハンナが無事で良かったよ。それと、ルナはどこだ?」

泣くハンナの頭を軽くポンポンと慰めるように叩くと、ハンナがより強く俺のことを抱き締めた。……チョットクルシイ…………


「ここだよ。予想通りだけど、やっぱりそうなっちゃってるか…わかるよ、ボクも操舵中ずっと抱きしめられてたから。」

俺が尋ねたら次のタイミングで甲板にルナが現れた。ルナの言葉は本当らしく、ネイビーブルーのコートに鼻水やら涙やらの跡がついていた。


「話は聞いたよ。ペルセウスのことは残念だったな。まぁ、なんだ…お前は二隻拿捕してるんだし、この艦隊内の誰よりもよくやったさ。なら一隻ぐらい沈んだって変わらないだろ?それと、作戦成功を祝して祝勝会をしようと思うんだが、来るか?」

提督室から出てきたバルセロナ艦長は下手な気遣いを俺にしながら聞いてきた。どうも人とのコミニュケーションが苦手なように感じるのは気のせいだろうか。


「ご好意感謝します。ですが私には作戦終了後はできるだけ早く帰ってこいとの記載がございますので。」

俺は最後に一騒ぎするのもアリかと思ったが、そんな縁起の悪いこと言ってちゃ本当に軍法会議で殺されかねない。まあ何かにつけて縁稼ぎしたがる日本人の性なのかもしれないが、どちらにせよ今は早く帰りたい。


「そうか……わかった。帰りの船はそっち持ちでいいな?了解、何か他には?」


「そうですね、食料と索具を戴ければ幸いです。」

帰りの船とは言っても戦闘で損傷した海賊船二隻ではこの条件は当然だ。


「もちろんだ。それじゃあ、なんだ、その、帰ってもらっていいか…?」

もう少しこの人は丁寧に伝えれないのだろうか。まあどちらにせよ戻るけど。



イスパニアからアルビオンまでの航路は、そこまで悪いものではなかった。

ただし、

「アルフレッドはアタシの旦那様だ!お前らみたいなチビ助共はさっさっと帰んな!ほらほら旦那様、あんなの忘れてアタシと楽しいコトしようぜ、な?」

と、ラカム海賊団船長あらため、メアリー・ラカムに毎日誘惑(?)されてしまい、一時、ハンナやメイベル達と乱闘騒ぎにまでなったのを除けばだが。


「かんちょ…海佐!ノアテムズ川の河口が見えますぜ!アルビオンに帰って来たぞ!!!」」

見張りの水兵が叫んだ。見慣れたアルビオンの街並みが遠くに見えると、ほんの1,2週間ではあったが、俺が元ペルセウスの乗員達に好意を抱いていたことに気付いた。しかし皮肉なことに、それは別れの瞬間でもある。俺は人知れず上甲板で涙を流し、最後の指揮を取るために、両手で頬を叩いて気を引き締めた。



__1794年9月25日(木)、ウリッジ港コンスタント・リフォーメーション船上


「おかえりアルフィー。そんな辛気臭い顔するなよ。例の事件のことなら、私に任せておきなさい。こう見えても、海軍のお偉いさん達の人脈が深いんだぞ?まあどちらにせよ、艦からは誰一人降ろさないように上からお達しが来ている。それと、被告人アルフレッド・J・ブラウンの軍法会議への出頭と航海日誌の提出もだ。頑張ってこいよ。」

シャーロップ提督が親戚の叔父かの様に…いけないいけない、こんなのでも俺の叔父なんだった。が、船に乗り込んできた。まあ、軍法会議が避けられないのはペルセウスから退艦していた時点で覚悟していたし、後悔もない。だけど面と向かって言われるとどこか心がキツく締められる感じがする。


「まあ、ですよね。お力添えには感謝しますが、期待はしないでおきます。それと、拿捕した船は上陸許可が降りたらちゃんと賞金貰いますからね。海賊たちに関しては、彼らはコンスタント・リフォーメーションとレーベルの制式な乗組員です。処刑は元ペルセウスの乗員全員で断固反対させてもらいます。」

乗員諸君には本当に申し訳ないことをしてしまったからな。きちんと詫びはしておきたい。それに海賊たちだって最後には皆と打ち解け合い、仲良く酒を交わした海の仲間だ。殺させはしない。


「勿論、どちらもそのつもりだ。彼らにはできるだけ早く上陸休暇が与えられるようにするよ。それじゃあな。アルフィーが元気そうでよかった。」

そう言い残してシャーロップ提督は船を去った。明日はいよいよ運命の時、か………


______________________________________


どうもHi9h1and3rsです。ようやく体調も大分改善してきたので外出なんかも考えている今日この頃、皆様はどこかへ遊びに行く予定はあったりするのでしょうか?


さて、いよいよ大ピンチなアルフィー!無事に生き残ってペルセウスの乗員達と再開できるのか!


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次回、軍法会議。

お楽しみに!

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