第一三話 軍法会議

__一七九四年九月二八日(金)、ウリッジ海軍基地

その日のアルビオン南東部では清々しい青い空が広がっていた。しかし、北西には遠くに黒鉄色の平たい金床雲が悶々とこちらへ迫っていた。


「これより軍法会議を開催する。被告人は直ちに入廷しなさい。」

今回の軍法会議の議長、ヒュー・アラバスター提督が命じると、俺は開かれた扉から海兵隊に連れられ議場に入廷した。


「これより審議を始める。被告人はサーベルを預けなさい。」

俺は隣の海兵隊員に礼装用のサーベルを預けた。ちなみにこの行為は議会の決定に従う、と言った意味があり、似たような例としては国王に剣を差し出す騎士なんかがそうだ。


「よろしい。では審議にあたって、貴官がアルフレッド・J・ファインズ=クリントンであるかどうかの確認を行う。貴官の名前、階級、所属を言いなさい。」


「はい、私はアルフレッド・ジョージ・ファインズ=クリントン。階級は海佐、現在はフリゲート艦のペルセウスに所属しております。」


「ペルセウスへの着任はいつかね?」


「1794年8月27日です。」

艦長や副長などと呼ばせるのは皮肉だからそんなことさせていないだけで、沈んだ艦の乗員でも、書類上はまだ俺達を含める元ペルセウス乗員はペルセウスに所属している。


「イスパニアのアルジェ占領作戦へ参加したか?」


「はい。」


「よろしい。当会議は彼をアルフレッド・ファインズ=クリントン海佐と確認した。これより彼が先の占領作戦中において起きた沈没事件についてを審議するものである。」


「では、沈没事件について話しなさい。」


「はい。ラカム海賊団の襲撃に遭ったのは午後12時ごろ、イスパニアの上陸隊が占領をほとんど完了させた頃でした。私共ペルセウス乗員は懸命に戦い、これに勝利を収め、敵船を拿捕しました。しかし殆ど同時に、ペルセウスが艦首から右舷側の船底にかけて小規模の暗礁に座礁しました。私共はペルセウスを離礁させるべく、懸命に作業を致しましたが、その甲斐なく、ペルセウスは沈没しました。」

俺は事件の一連の行動を洗いざらい話した。


俺の説明が終わり、アラバスターつ質問が始まった。


「ブラウン海佐、我々が入手したところによると、君はまだペルセウスが離礁できる可能性があるにも関わらず、艦を放棄したと聞く。この話は本当かね?」


「どこの誰からの情報かは知りませんが、全くもってその話はデマです。確かに私は回航要員として拿捕した船に乗せていた乗員を戻すことをしませんでしたが、それを指すのであれば、その話は誇張が過ぎます。これは傾斜が増えているペルセウスがこれ以上の乗員移乗による負荷を与えられると危険と判断した上での行動です。」


「なるほど、では敢えて君がペルセウスを沈没するように仕向けたと言う話はどうだ?」


「恐らく艦の積荷を放棄してペルセウスを浮かせそれにより浸水が増えたことでしょう。しかしながら増えたのはたったの数フィートであり、そのように考えるのは拡大解釈ではないでしょうか?」


「では、どのように沈没したのか説明してくれ。」


「はい。座礁から約一時間後ごろ、ペルセウスに西から横殴りの強風が襲い、右舷に大きく傾き、そのまま転覆、沈没しました。」


「そうか。では、クリントン海佐の沈没事件に関する質疑はこれで終了とする。本件に関する判決は後日再度軍法会議を開催し、下す。これより本会議を閉廷とする。」

そう言ってアラバスターは荷物の整理を始めた。俺は一旦基地の勾留場に移された。


__翌日、ウリッジ海軍基地軍法会議場


今日も同じような流れで、俺は海兵に連れられ、入廷した。


「さて、これより判決を下す。被告人は静粛に聞きなさい。」

そう言い、アラバスターは羊皮紙を取り出し、読み上げた。


「初めに、本書は皇帝陛下の名の下、アルビオン海軍の正式な軍法会議の公正な審議の結果を記載したものである。

当議会は、被告人アルフレッド・J・ファインズ=クリントン海佐を、ペルセウス沈没の咎で有罪とし、三年間の昇進停止を言い渡す。また、被告の海賊船二隻の拿捕という成果を称し、合計で二〇〇〇ポンド一八シリング約二〇〇一万円を拿捕賞金とする。

以上である。当会議からの退廷を以て、アルビオン海軍が持つアルフレッド・ブラウンの拘束力は無くなる。では、これにて閉廷とする。」


俺の心は軽くなった。確かに有罪であるが、最悪極刑も覚悟しなくてはならなかったのを鑑みれば三年の昇進停止?痛くも痒くもない。どちらにせよ、昇進するにはあと何年もかかるのだろうから、実質無罪放免だ。それに態々ご丁寧に書かれていた拿捕賞金もあの程度の船なら一〇〇〇ポンド約一〇〇〇万円も取れれば万々歳だから、結構大きく上乗せされているのがわかる。まあ、ウィル叔父さんが上手いこと根回ししてくれたんだろうな。



「よう、無罪おめでとうアルフィー。突然だが、海軍のお達しでポーツマスの戦列艦のレイジー計画があるんだが、適任の責任者が別の事業に駆り出されててな。ちょうど暇だろうし。お前に任せたいんだが。」

軍法会議が終わって急に呼び出されたから何かと思えば、そんなことか。まあ暇なのは事実だから、引き受けてやるか。ていうかサラッと無罪おめでとうって言ってなかったか?一応有罪なんだがな……


「いいですよ。ところで、元ペルセウスの彼らは?」


「ああ、全員にお前の(実質)無罪を伝えて、上陸許可を与えといたよ。あ、お前が設計した船、お前を艦長にするつもりだから、そこんとこ宜しくな。それじゃ、帰って良いぞ。」


俺は若干唖然としながら士官クラブの宿舎に帰った。


______________________________________


よかったねぇアルフィー……また生きて皆んなと会えるぞ…


さて、なんやかんやで(実質)無罪を勝ち取ったアルフレッド。然しその背後には恐ろしき恋する乙女の魔の思惑が迫っていた!どうなる?アルフレッド!


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次回、造船所。

お楽しみに!

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