第十四話 造船所

「海佐、こちらが本部からのレイジー後のスペックで、こちらは木材などの素材の量です。」

俺はウリッジ工廠の会議室のような部屋にて、2枚の紙を交互に見ながら、頭を抱えていた。


「なになに…元R級戦列艦を改造して最大船速12ノット以上出せて最低40門以上積める船を作れだと?!」


「その言い方だとよほど無理難題なんですか?」

ハンナが首を傾げて聞いてきた。…なんだろう、いつもと違うところはなんら無いはずだが、妙に愛くるしさを感じてしまう。


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最近私は危機感を感じている。メイベルとは友達だし、一緒の人が好きなわけだから、良いライバルと思っている。でも最近、メアリー・ラカムとか言う私達から海佐を奪う泥棒猫が現れた。確かにメアリーは全体的には痩せてるのに出るとこはきっちり出て、男性が好みそうな体つきだ。海佐があんなのがタイプじゃ無いと良いんだけど……

とにかく、私はあの泥棒猫から海佐を守るためにオトコをイチコロで落とす仕草?を主計長のアーサーさんの奥さん、マダム・サマセットから教えてもらい、今海佐に使っている………んだけど、どうも効果がないように感じる…試しに掌帆長に使ってみると気持ち悪いぐらい恥じらい始めるので効いてないなんて事ないと思うんだけどな……


「いや、理論上は不可能じゃ無いんだが、大分削らなきゃいけなかったりするからかなり手間がかかるんだよな……それと、すまん、この船の名前をそもそも知らんのだが、その辺の資料はないのか?」


結局、海佐は私のオトコをイチコロで落とす仕草には引っ掛からずに話を続けてしまった。


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「あっ、申し訳ありません。出し忘れてました。こちらです。」

そう言ってシャーロットがもう一枚の羊皮紙を取り出す。なぜかハンナが残念そうな顔した。なんでだ?


「ふむふむ、艦名、インディファティガブル……………インディファティガブルだって!?」

俺はつい興奮して思わず椅子から思いっきり立ち上がってしまった。


「ど、どうしたんです?」

驚いたメイベルが聞いた。


「い、いや、何でも無い。すまないな、驚かせてしまって。」


俺が何故こうも驚いたか気になるだろう。ちょっと19世紀あたりの大英帝国や帆走軍艦に精通している人、もしくはホーンブロワーシリーズを読んでいる人なら知っている人もいるだろうが、インディファティガブルは実際に大英帝国海軍に実在した帆走フリゲートだ。1784年に戦列艦として進水し、1794年9月に戦列艦からフリゲートへのレイジー化が始まり、同年12月にレイジー化が終わり、それから1816年8月に解体されるまでの間、3人の艦長の下で18隻を拿捕し、英国海軍史上最も成功したレイジー艦と呼ばれた、俺が帆船の中で一番好きな船だ。そんな船を俺が改造して実際に指揮できるのであれば、俄然やる気が湧いてくる。


「ま、まあともかく、俺に一つ案がある。いいか?まずはレイジーの基本として、上部砲甲板を取り除く。兵装はそうだな……上砲列に24ポンド11kg砲を26門、後甲板に12ポンド5kg砲8門と42ポンド19kgカロネード4門、船首楼に同じ兵装で、12ポンド砲2門と42ポンドカロネード2門で合計44門。速力の問題は帆を増やしてなんとかしよう。上手くいけば10ノットは越せるはずだ。」

……熱く語りすぎてしまったようだ。皆の視線が痛い。だが、一番好きな帆船なだけあって、兵装も良く覚えているものだ。あとは設計士と相談して決めるだけか…史実通りに行けば今年中には新生インディファティガブルとして処女航海が出来るはずだ。


「あー、少し熱が入っていたようだな。すまない。何か言いたいことがあるのは?いないか?よし、それじゃあこの案を設計士と相談して細かいところ決めるとしよう。それじゃ、解散してくれ。」


「……海佐、少し良いですか?」

会議に出席していたシアが最後に部屋から出てきた俺に話しかけた。


「おう、どうしたんだ?」


「次のポストの話ですが、私を海兵隊に入れてください。」


「……ん?」


「何度も同じことを言わせないでください。私を海兵隊に入れてください。」


正直よくわからなかったので詳しく話を聞いてみると、シアは有名な海軍人の娘らしく、父親から無理やり海軍に入れられてしまったらしい。そのため伝手だけで乗艦したので、航海術も暗記もイマイチ、強いて言うなら剣や銃の腕がピカイチなだけ。その為艦で過ごしていくうちに自分は海兵隊の方が向いていると思い始めたが、先代のペルセウス艦長にそのことを言おうとしたが俺が着任、その後直ぐ航海に出たので言い出せなかったらしい。


「それは…まあ、ダメでは無いが……わかった。ポストが空いてれば入れるようにしよう。それでいいな?」


「えっ……はい。ありがとうございます。」

シアはすんなり決まったことに少なからず驚いたらしく、一瞬驚いた表情を見せたが、またいつものポーカーフェイスに戻ってしまった。


__1794年10月7日(火)、ウリッジ港の民営パブ『オークの心』


「ここにアルフレッド・ブラウンがいると聞いたのだが、君かね?」

黒の燕尾服にシルクハットを被った、港町の庶民的なパブには似合わないいかにも紳士な格好をした男性が俺に近づいてきた。

ちなみに俺はインディファティガブルのレイジーが軌道に乗り始めたので暇つぶしに飲み友の主計長のアーサーと飲んでいる。


「ああ、俺だが、何か?」


「告げる。アルビオン帝国海軍海佐アルフレッド・ブラウン。貴官の豪壮たる活躍を認め、アルビオン帝国皇帝、ジョージ三世陛下への遠見をここに許す。」


「そ、それは身に余る光栄……しかし、豪壮たる活躍……?それはなんのことで?」


暫く前、まあ2日前のことだが。あの日はちょっとした休暇で、帝都ロンドンにハンナ達と出掛けていた。その時に白いドレスを着た可愛らしい女の子が迷子になっていたので付き添いの人のところまで連れ戻したぐらいだ。


だがその程度で皇帝陛下と謁見できるなら、その辺の浮浪者でもガーター勲章が授けられるだろう。


「……まあ、謁見すればわかるさ。それと、君は妻はいなかったね?そうか。それでは。」

俺が恐る恐る頷くと、謎に男が満足そうに笑い、俺に手紙を手渡してお辞儀をして店から出ていった。


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海われ公式の設定集を作らせていただきました!読めばこれからの主人公やヒロインたちの心情がわかりやすくなったり、設定についてもわかりやすく見ていただけるかと思いますので、是非、『海われ設定資料集』もご覧いただけると嬉しいです。


なんと皇帝陛下から謁見を許されたアルフレッド!無事に乗り越えられるのか!そしてインディファティガブルのレイジーは成功するのか!


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次回、プリンセス・ソフィア・オブ・ザ・アルビオン・エンパイア。

お楽しみに!

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