第十五話 プリンセス・ソフィア・オブ・ザ・アルビオン・エンパイア

__1794年10月9日(水)、帝都ロンドン、バッキンガム・ハウス


「アルビオン帝国海軍海佐、アルフレッド・ブラウン様、ご入場。」

帝都ロンドンの帝宮、セント・ジェームズ宮殿の謁見の前が儀典長の号令で開かれ、俺はゆっくりと前に出る。正面には玉座に座るジョージ3世陛下の姿があった……と、いうのが本来の謁見と言うものだが………バッキンガム・ハウスバッキンガム宮殿!?皇室の別荘じゃないか!いいの!?今俺応接室で机挟んで一対一だよ!?


「私の娘を助けてくれて!!!本当にありがとう!!!!」

皇帝、ジョージ3世は俺が部屋に入ると驚異的な速さで俺に握手をしてきた。つまり、薄々気づいてはいたが、あの少女は皇女殿下だったというわけか………


ジョージ3世は前世でも今世でも家族愛の深いお方として有名だ。たしか15人の子供に恵まれ、生涯妻以外と関係を持たなかったとか。


「ええと、娘というのはこの間の………?」


「ああ。君が助けた迷子の女の子が我が愛娘、ソフィーだ。どうも街に出かけた時に従者が目を離してしまって迷子になってしまったらしくてな。君があのまま助けなければどうなっていたことか。本当にありがとう。」

そういって陛下が頭を下げた。


「へ、陛下、頭をあげてください!私は困っている人を助けただけで!それに私ではなく部下達が適切に対処したまでで……」


「そうか?娘からは君のお陰だと言っていたが……なあ、ソフィー?」

金で縁取られた豪華なソファ(?)に座り直した陛下がソファの背の後ろに向かって語りかけた。


「……は、はい。たしかにアルフレッド様が私を助けてくださいました。」)

ゆっくりとソファの後ろから出てきたのはハンナより5インチ約12.5cmほど背の高い、純白のドレスを着た美しい少女だった。


「ソフィー、挨拶なさい。」


「はい、お父様。私はソフィア・オブ・ザ・アルビオン・エンパイア。アルビオン皇帝ジョージ3世陛下の第12子です。どうぞ、ソフィーとお呼びください。それと……先日はお助けいただき、ありがとうございました。」

ソフィア皇女殿下が軽くお辞儀をする。……しかし、ソフィア皇女か…記憶に誤りがなければ、前世ではホイッグ党に兄である六男アーネストとの近親相姦をでっち上げられ、姪のヴィクトリア女王の教育係の私財を貢ぐほどの虜になっていた箱入り娘だったか……


「恐縮です。殿下。私ごときのことを御覚えになられているとは、ありがたき幸せです。」

いくら呼び捨てで呼べ、なんて本人から言われても皇帝陛下の前ではい分かりましたと言えるほど俺の肝は座ってない!!


「ソフィーで良いって言ったのに………」


「アルフレッド君、私がいるから恐縮していると言うのなら、別に気にせんで良いぞ。私は娘が望むことを尊重するからな。それと、娘の望みをもう一つ、叶えて欲しいのだが。」

そー言う話じゃねぇぇぇえぇえ!!!と、大声で言ってやりたい。


「もう一つとは?」


「ああ、ソフィーを君のふねに乗せてやってはくれんか?実を言うと私はあまり乗り気では無いのだが、フレデリックやエミリーにあれほど言われれば、許してやらん方が私にとって良くなくてな……と、言うことだから、君に決めていただきたい。」

ここで言うフレデリックは彼の第二子、ヨーク・オールバニ公フレデリック殿下のことだろうか。と、するとエミリーは末娘のアミーリア殿下だろう。どちらもジョージ3世のお気に入りらしいからな……


「えーーーと………私は殿下がインディファティガブル私の艦に乗艦するのは構いませんが、現在、本艦はレイジー……いわゆる、改装中でして、乗艦するとしても今年の12月から来年の1月あたりになるかと……それに、いくら改装仕立ての艦とはいえ、軍艦は皇女殿下の思われるほど良いものではございませんので、あまりお勧めはしませんが。」


「構いません!私はアルフレッド様と一緒にいたいから志願しているのです!それに乗艦基準は満たしています!私からも言わせてもらいます。どうか、私をアルフレッド様の艦に乗せてください!」

正直まだ完全に乗り気では無いが、少なくともこれが彼女の気まぐれなんかじゃなく、本気で言っていることは理解できた。


「…わかりました。では、本艦の改装が終わるまでの間、その情熱が変わらなければ、許可しましょう。」


「まあ、それは仕方ないものね。わかりました。その条件で乗艦させてください。」


「承知しました。」


「よかったな、ソフィー。さて、そろそろ時間だ。」

そう言って陛下とソフィー殿下が席を立ち、俺も部屋を出ようとした。


「あ、あの、アルフレッド様。」


「どうしました?」


「私の我儘を聞いてくださり、ありがとうございます。………その、また遊びに来てくださいね。艦が無事に改装できることを祈っています。」


「殿下………」


「なぁ、私には『お父様、ありがとう』って言ってくれないのか?」


「お父様は黙ってて!そう言うところがオクタヴィアスに嫌われてるのよ!」

殿下の鋭い一撃は無事、陛下の心の臓を貫いたようだ。悲しそうな顔をしている。まるで漫才のようだが、それでも家族の微笑ましい光景は眼福だ。


__1794年10月10日(木)、ウリッジ工廠


「……てなことがあったんだ。まあ、そんなわけで士官やその他上級職のポストの再見直しをしたい。」

俺は翌日、昨日の出来事を踏まえて乗員のポストを決める会議を開催した。


「まず、シアからの希望だが、問題なく提督が通してくれた。インディファティガブルのレイジーが終わった瞬間から、君は海兵隊の少尉だ。それと、ハンナをそれに伴って海尉心得に昇進。来年末あたりで海尉昇進試験を受けておけ。それとメアリー、君が希望したのは士官だが、君の元部下から君は医療の腕が良いと聞いた。なんでも、内科医レベルだとか?」


「ん?ああ、アタシの父さんが医者でね。その影響でちょっと。」


「ちょっと?水夫の解放骨折を治したのがか?」


「父さんが落ちぶれた内科医でね。色々教えてもらってたのさ。」


「なるほど。とにかく、要するにメアリー、君に軍医をして欲しい。どうも前の軍医はボケててな、水兵たちからの不満も多かったんで解雇することにしたんだ。」

ちなみにこの時代、軍医のほとんどは足やら腕やらを切って塞ぐことしか知らないような外科医がほとんどだった。そのため解放骨折なんていう高度な治療ができるレベルの内科医は登録されている軍医のうち、両手の指より少ないかと言った具合だったとか。


「うーん、まあ、未来の旦那サマのためなら、そのくらいどーってこたぁないよ。」


「未来の旦那サマ…………ま、まあとにかく、引き受けてくれてありがとう。後はこれまで通りのポストで行こうと思う。反対者は?誰もいないか?よし、それじゃあ今回決めたことは全て可決だな。解散してくれ。」


__1794年12月22日(火)、ウリッジ工廠二番ドッグ


その日の空は、天候の崩れやすいアルビオンにしては珍しく、雲ひとつない快晴だった。ウリッジでは港に悠々とはためくUW旗ご安航を祈るに対し、テムズ川を上るインディファティガブルはUWに1の数字旗感謝するを掲げ、ウリッジを去った。


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ドチャクソに予約投稿に失敗しました。申し訳ありません。今度こそ完全版です。


遂にインディファティガブル進水!乗員たちのポストも決まり、順風満帆かの様に見えるアルフレッド達。しかし、海の向こうのガリアでは暗い戦争の火種が燻り続けていた。


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次章、ガリア革命戦争 もう一人

※第一章は第十五話で最後となります。

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