第二章 ガリア革命戦争

第一話 もう一人

__1793年5月31日(金)、帝都ロンドン、ウェストミンスター宮殿


「……で、あり、我らが祖国アルビオン帝国はガリアの反乱軍により圧政を強いられているトゥーロン及びガリア各地の正当なる政権を保護するため、皇帝陛下の名の下にガリア全域に海上封鎖令を発令する!」


議長の宣言は多くの議員達に拍手で受け入れられた。


__1795年1月4日(日)、プリマス


ガリア…前世で言うとこのフランスが史実通りに宣戦を布告して既に2年ほど経過したが、最初劣勢に立たされていた革命ガリアは数十万人にも膨れ上がり、今や欧州中の土地を踏み鳴らそうとしている。


「かーんちょー!」

インディファティガブルの二等海尉で航海長のルナ・エバンが俺の背中をドンっと押した。


「おわっ!?………ルナ、回想中にいきなり来るなといつも………いや、なんでもない。それより、何の用だ?」


「フッド提督が30分後に来るって。」


「提督が?!わかった。手空きの乗員を上甲板に並ばせておいてくれ。俺は後から直ぐに行く。」


「アイ・サー!できるだけ急いでね!」

そう言ってルナは艦長室を後にした。


__30分後


規律正しく敬礼をして並んだ水兵たちの正面をネイビーブルーに金の肩章がついたコートをきっちりと着こなした海軍軍人、アレグザンダー・フッド艦隊司令が歩く。


「敬礼ご苦労。アルフレッド君、君に秘密任務だ。場所を変えて話そう。艦長室は空いているかね?」

フッド提督が右手を俺の肩に置き、耳元でこっそり話す。


「わかりました。ハンナ、これから提督と任務について話す。俺が出てくるまで何人たりとも艦長室に近づけるな。いいな?」


「イエス・サー!」

俺の右隣に立っている海尉の士官服を着た少女、ハンナ・クロフォードが敬礼して答える。


「どうぞ、司令。」

俺は司令を先に艦長室へ入るよう促す。


「ありがとう。では、お先に。」




「それで、秘密任務とは?」


「ああ、革命ガリアのメーヌ=エ=ロワールの反乱軍、もとい、カトリック王党軍の連中が先日に政府にリトル・アルビオンブルターニュの反乱軍、ふくろう党と合流したいから我らが祖国の支援を寄越せと言ってきおった。で、ガリアを苦しめられるのならばと議会はそれを承認。結果、君のインディファティガブルを旗艦として陸軍を輸送隊を編成することになった。ただし表立ってではなく、あくまで義勇軍としてらしいが。とにかく、やってくれるか?」


メーヌ=エ=ロワールの反乱、つまり前世で言うヴァンデの反乱だろう。1793年から1796年に鎮圧されるまでの間、3〜10万近くが反乱に加わったとか。しかし今世では1794年に反乱鎮圧司令に派遣されたルイ=ラザール・オッシュの派遣が遅れているらしく、未だカトリック王党軍は現在で、ガリアの反乱軍を苦しめている。


「承知しました。ちなみにどれくらいの人数が?」


「帝国陸軍第63歩兵連隊から二個大隊と聞いているから10000人ぐらいだ。」



「二個大隊も出すとは陸軍も大きく出ましたね。」


「そうだな。まあ、海軍も陸軍も革命ガリアを弱らせたいのは同じと言うわけだ。それに、2年前に制圧されてしまった革命ガリアに反対声明を出したトゥーロンのような友好的な上陸地は多い方がいいからな。」


「そうですね。確かナポレオーネナポレオン・ボナパルトとか言う砲兵士官が好立地な砲兵台地を見つけて勝利に導いたとか聞きましたが。」


「らしいな。それも当時の年齢は齢24ときたものだ。おかげで彼はガリアだけでなく国際的にも注目されてるよ。さて、長居しすぎると副官に怒られてしまう。これが詳しい命令書だ。それじゃ。」

そう言って艦隊司令は艦長室を出て行った。



__1795年1月18日(日)、プリマス


「あなたがアルフレッド・クリントン海佐ですね?私はエドワード・アシュリー=クーパー。今回インディファティガブルに乗艦させていただく第64歩兵連隊軽歩兵中隊の中隊長です。少しの間ですが、よろしくお願いします。」

軽歩兵とは、歩兵の中ではエリート視される兵種の一つだ。また、派生系にライフル銃を装備する軽歩兵は擲弾歩兵の次にエリートでいると言われる。ちなみに中隊とは85〜100人程度で構成され、八〜十個中隊で一個大隊を編成する。そしてその中隊長ということは彼は陸軍中尉だな。


「ええ、よろしくお願いします。中尉。ところで、アシュリー=クーパーとはベイカーライフルに缶詰めやパーカッションロック方式の雷管を発明、製造しているあのクーパー家ですか?」

一瞬クーパー中尉の顔が大層驚いた顔をした。だが、ブリキの缶詰めや雷管なんかの発明はあと数十年は待たないと生まれてこない発明品だ。中尉自身が発明したのかは知らないが、どちらにせよ売っているのはクーパー家だ。もう少し自分が売っているものの重大さを知っておくべきだ。


「……………わ、私はパーカッションロックでは無く、キャップロックという名で売り出したのですが……その名は、もしかして………?」

ここで俺はハッとなり、おそらく彼と共通するある事実に気付いた。


「ま、まさか……いや、そんな事は……」


「僕だってまだ半信半疑です。……再度、自己紹介といきましょうか?」


「あ、ああ……そっちからで頼む……ちょっと、まだ気持ちの整理が追いついてないから……」

俺はただ茫然と目の前の赤い軍服を着た男の話を聞くことしかできなかった。


「僕は尾道元おのみちはじめ。えっと、前世では日本人の高三でした。ある日、トラックに轢かれて気づいたら見ての通り、シャフツベリー伯爵公子でした。どうせならとこうやって陸軍を志願してみたわけですが……まさか、こんなところで“もう一人”に会えるとは思ってもみなかった、いや、そもそも僕の他にいるなんて思わなかったです。それで、あなたは?」


「お、俺は帆風出帆ほかぜいずほ、俺も日本人だった。商船会社の一等航海士をしてたが、ソマリア海賊に殺された。なんて言えばいいかわからないけど、よろしく。」

俺はそう言ってぎこちない動作で右手を突き出した。


「…ええ、こちらこそ。」


こうして、世界に無二の共通点を持つ二人は、偶然にも巡り会ったのだった。


______________________________________


なんと“もう一人”の転生者と出会ったアルフレッド!しかし時はガリア革命戦争の真っ只中!無事に二人は生きてアルビオンの地で再会できるのか!


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次回、イエロー・オフィサー お楽しみに!

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