第八話 デートと作戦準備
「艦長!遅いですよ!もう二点鐘鳴りましたよ!!」
「遅れたのは謝るが、そんなに怒るか?」
「女の子を待たせる
「は、はぁ……ま、まあ取り敢えず行くとしようか?」
「当たり前じゃないですか、何の為に待ってたと思ってるんですか?」
「ハイ、ソウデスヨネ。」
俺は完全にハンナに逆らえなくなっていた。女の子って怖い。
そんなこんなで提督からあらかじめ聞いておいた港の酒場、『デリシオーサ・バール』に着いた。
中はかなり広く、天井には大きく煌びやかなシャンデリアが吊るされていた。
「さて、どうせイスパニアに来たんだ。イスパニア料理でも頼むとしよう。ハンナ、メニューを取ってくれ。」
「はいこれ、それより艦長、メイベル海尉に迫られてたらしいじゃないですか。一体何やらかしたんです。」
「そのことは忘れたかったんだがな……よくわからんが彼女と一緒に乗せた乗員がまずかったみたいなんだが…って、聞いてるか?」
「はいはい聞いてますよー。あ、艦長、このパエーリア・デ・マリスコス?美味しそうですよ。」
「聞いてないじゃないか……ところで俺はこのアヒージョってのがいいと思うんだが。ま、今は金があるしどっちも頼むか。」
そんな話をしていると店員がこちらへ歩いて来た。ガタイの良い体だ。どこかの貿易船か何かで水夫でもしていたのだろうか。
「あー、士官様、早く注文してくだされねぇと料理は出てきませんですぜ。」
俺が店員を見ていると店員が痺れを切らして言い出した。どうも気が短いな。江戸っ子気質か?
「ああ、すまない。アヒージョとパエリア・デ・マリスコス、スピリッツを頼む。」
「アヒージョ、パエージャ・デ・マリスコス、スピリッツ、でよかったで?おし、んじゃちぃと待っててくんな。」
そう言って店員はそそくさと厨房へ行ってしまった。
「大分訛りの強い英語だったな。さては英語を習ったのは労働者階級のスコットランド人だな。」
「艦長、そんな事はいいですよ。それより私の分のスピリッツを頼まなかったのはどう言うことですか?」
げ、転生前の記憶が戻ったから日本の価値基準で物を見ていたが、アルビオン、いや欧州の諸外国では万病の薬として若いうちから飲酒ができる国がそれなりにある。また、史実でも有名な禁酒令が出されたのは英国では1830年ごろである。
「あーーーー、ハンナ、よく聞いてくれ。」
「なんですか?言い訳なら短く済ませてくださいね。」
「その、酒ってのにあるアルコールってのはあんまりハンナの様な成長期の……えっと、そうだな。若い体にいいとは言えないんだよ。だからつまるところ俺はハンナのことを思ってだな……」
「………あ、えっ…そのっ……」
顔がみるみるうちに赤くなる。デジャヴ感が否めない……
「きょ、今日はこれで!!」
いきなりハンナが立ち上がり、次の瞬間には出ていってしまった。
__1時間後
「一体どう言うことだったんだ?」
俺は膨れた腹を摩りながら乙女心について考えながら艦に帰った。結局艦に着いても乙女心については何も分からなかった。
__1794年9月13日(土)、サン・フェルナンド海兵隊基地
「さて、諸君、よく集まってくれた。皆、知ってはいると思うが、ここサン・フェルナンドをはじめ、多くの欧州の港や植民地がバルバリアの海賊の手によって散々な被害を受けている。」
ここでバルセロナ提督は言葉を切り、部屋に座る艦長たちの顔を見回した。
「そこでイスパニア海軍は海賊どもを成敗すべく、勇気ある艦長とその船を集めた。勿論、諸君の事だ。さて、ここからが本題だが、いよいよ2日後に迫ったアルジェ攻撃作戦だが、今回先に潜入上陸してもらいたいたのが、ブラウン海佐のペルセウスだ。本艦は防御力もあり、大型フリゲートの類ではそれなりに足が速い。指揮系統的な問題も踏まえ、この任務を受けて欲しいのだが。」
要するに、一隻だけアルビオンだと士気的な問題や単純に艦砲射撃をするとなった時の戦力価値も低いから単独任務に放り投げた。と言った感じか。まあ、士気に関してはこちらも同じだから別に受けない理由はない。
「わかりました。お受けします。」
「ありがとう。では、作戦の概要について説明させてくれ。もし気になる点があれば、その都度言ってくれて構わない。」
提督の説明はかなり長かったので要約するが、
STEP1
夕方ごろ、艦隊の戦列艦をアルジェの港正面で艦砲射撃を行う。
STEP2
日が傾いてきた頃にこっそりペルセウスがアルジェの警戒が薄くなっている部分に上陸。
STEP3
上陸の成否に関わらず、午後8:00までに艦隊は一度撤退、付近で待機する。
ペルセウスは上陸した辺りの安全を確保する。
STEP4
明け方、待機していた艦隊がペルセウスが事前に確保しておいた上陸地から上陸ないし占領する。
と、言ったものだ。少し物事が上手くいきすぎな気もするが、もしこの作戦が成功すれば、アルジェを拠点としているバルバリアの海賊たちは大きな被害を受けることとなる、実に有意義な作戦だ。
__1794年9月15日(月)、アルジェ付近地中海洋上
「いよいよだ、諸君。なに、恐れる必要などない。我々は世界のアルビオン海軍だ。だが、単独作戦となってしまった事については、貧乏くじを引かせてしまいすまない。残念だが数多の敵を相手にする可能性がある本作戦ではいちいち敵船を占領している暇がない。だが、本国で飲む酒は、楽しみにしておいてくれ。以上だ。アルビオン帝国万歳!!」
「「「アルビオン帝国万歳!!ブラウン艦長万歳!」」」
俺は乗員の士気向上に努める。最早、ここまで来ては進む以外の道はない。肝心の乗員達は俺の演説が効いたのか、笑顔に満ちている。必ず、彼らを国へ帰してやろう。アルフレッド・ブラウンはそう心に誓った。
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店員の接客態度がおかしいと感じるかもしれませんが、海外はこんなものです。日本が異常なだけです。ご了承ください。
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