第七話 お叱りと謝罪

__一七九四年五月一六日、サン・フェルナンド港、ペルセウス艦上


「ようこそ、ペルセウス乗員諸君。そして長旅ご苦労!しっかりここで英気を養ってくれ。」

サン・フェルナンドの港では今回の作戦指令、アントニオ・バルセロ提督が肉や酒でペルセウスの乗員を歓迎していた。


「……ところでクリントン艦長、ウィリアム君からはアルビオンが派遣するのは一隻のみだと聞いていたが、何かの間違いかね?」


「ええ、それがですね提督。」

俺は道中に起こった事細かに出来事を話した。


「なんてことだ、バルバリアの海賊共は大西洋まで進出していたとは!だがありがとうクリントン艦長、お陰でまた一つ、海賊が減った。」

提督は随分と大袈裟な手振りで褒める。どうもこそばゆいが、悪い気はしない。


「お褒めの言葉、ありがとうございます。それと提督、乗員に上陸許可をやって欲しいのですが。」

多くの船乗りたちにとって、上陸というのは休暇のようなものだ。停泊している港にとっても乗員たちが金を払うわけで、治安が悪くなる懸念も、海軍士官たちの恐ろしさはどんな田舎者でも知っているから、問題ない。


「上陸?勿論だとも。今回ペルセウスに命じる作戦はかなり重要だからな。しっかり英気を養いたまえ。」


「ありがとうございます。あともう一つ、航海中に拿捕した海賊船についてですが、全てアルビオンの取り分でよろしいですね?」


「……まあ、拿捕したのはアルビオン側だ。好きにしたまえ。他には何かあるかね?」

提督はなんとも複雑な表情で頷いた。

最悪、ペルセウスに金が手に入れば問題はないのだが、それでもアルビオン海軍のために、しっかりと働かなくてはならない。

ちなみに航海中に拿捕した船は、海軍に買い取ってもらうか、使えないようなら材木として解体する。

するとその金が賞金となるというわけだ。


「ありがとうございます。もう質問はありません。」

俺は提督がペルセウスから去った後、乗員に上陸が許可されたことを伝えると、案の定乗員達は大喜びだった。



「……艦長。」

振り向くとそこにはハンナがいた。なにやら頬を膨らませており、怒っている様だったが、こっちアルビオンで見ても結構低めの低身長が相まって、逆にリスかハムスターの様で可愛く見えてしまう。

「どうしたんだ、怒ってるのか?」


「いえ、別に最近ペルセウスに来てから業務連絡程度にしか話してないくて怒ってなんかいません。」

ハンナは全然話せなくて寂しくて怒ってるようだった。

別にそのようなつもりは俺には一切ないが、いきなり部下の数が何十倍にも膨れた以上、前ほど暇ではなくなったのだからある意味仕方のないことのはずだ。


「すまない、ハンナ。確かにここ最近構えてなかったな。そのお詫びと言ってはなんだが、パブに行くのはどうだ?一応おごるつもりだが…」


「………ですよ。」


「え?すまない、聞こえなかった。」

俺はニヤニヤ笑ってわざとらしく耳を傾ける。


「…いですよ。」


「え?」

こんどはもっと悪戯っぽく聞き返す。


「…もうっ!いいですよってば!」


「ははははっ、ようやくらしい顔になったじゃないか。やはりハンナはこうでなきゃな。じゃ、俺は色々準備するから、そうだな……次の二点鐘でブリッジ船と港を繋ぐ橋前に来てくれ。」


「わかりました!急いで準備します!」


「いや別に次の二点鐘まで結構時間あるから急がなくても……ああ、行ってしまった………」

因みに二点鐘とは、船鐘(またの名を号鐘)の一つで、一点鐘=三〇分で、二点鐘で一時間を表す。八点鐘まであり、それに合わせて当直交代も八点鐘、つまり四時間ごととなっている。


「艦長、サロウ海尉が乗艦の許可を申し出ていますが。」


「何?ああ、わかった。許可する。」

俺は仕事の片手間に答える。


「艦長………」

俺が許可を出したその次の瞬間には、もう数フィートの距離にまでメイベルがいた。


「ああ、急にどうしたんだ?」


「艦長、じ、人選について、そ、そのお話が………」

ハンナは恥ずかしいからか、悲しいからなのか、涙を浮かべ出した。

俺は大慌てで近くの木箱に腰を下ろされた。


「で、どうしたんだ?」


「あ、ありがとうございます。そ、それで、艦長絶対わざとですよね………?」

メイベルは怒涛の如く唸る獅子のような怒りを露わにしたつもりらしいが、ぷーっと頬を膨らませたその姿は、どちらかと言えばハムスターなんかの方が近い感じがした。


「ええと、人選の話だったか?別に悪意を持って選んだわけじゃないが………何が問題だったんだ?」


「だ、だってあの人たち私のことを、か、可愛がると言うかその………」

メイベルはまた涙を浮かべた。


「お、落ち着け、な?別に可愛がられることぐらい良いじゃないか。まあ、威厳がないと言えばそうだが………少なくとも嫌われるよりかはベタベタに慕われたほうがマシだろ?俺はそう思う。」

俺は肩に手を置いて“どうどう”と言い聞かせる。


「そ、それじゃあ、お聞きしますけど、一体どう言う人選の仕方したんですか………?」


「うーん、志願とメイベルのことを慕ってたりよく近くにいる奴らかな。まあほとんど志願だけど。」


「げ、原因艦長のせいじゃないですかぁ………」

メイベルはへなへなと腰を抜かした。


「す、すまない…………」

俺は思わず謝罪した。

今日は謝ったりしてばかりだ、俺がペルセウスで一番偉い役職というのは幻覚か何かだったのだろうか。


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ようやくラブコメらしくなってきました!

次回、デート編!お楽しみに!


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