第七話 お叱りと謝罪

__1794年9月12日(金)、サン・フェルナンド港停泊中、ペルセウス艦上


「ようこそ、ペルセウス乗員諸君。そして長旅ご苦労!しっかりここで英気を養ってくれ。」

サン・フェルナンドの港では今回の作戦指令、アントニオ・バルセロ提督が肉や酒でペルセウスの乗員を歓迎していた。


「……ところでブラウン艦長、ウィルからアルビオンが派遣するのは一隻のみだと聞いていたが、何かの間違いかね?」

「ええ、それがですね提督。」

俺は道中に起こった出来事を話した。すると提督は。

「なんてことだ!バルバリアの海賊共は大西洋まで進出しているとは!だがありがとうブラウン艦長、お陰でまた一つ、海賊が減った。」

随分と大袈裟な手振りで褒めてくれた。どうもこそばゆいが、悪い気はしない。

「お褒めの言葉、ありがとうございます。それと提督、乗員に上陸許可をやって欲しいのですが。」

多くの船乗りたちにとって、上陸というのは休暇のようなもので、停泊している港にとっても、乗員にとっても、とても良いものだ。

「上陸?勿論だとも。言っただろう?今回ペルセウスに命じる作戦はかなり重要だからな。しっかり英気を養いたまえ。」

「ありがとうございます。あともう一つ、航海中に拿捕した海賊船についてですが、アルビオンの所有で良いですか?」

「……まあ、拿捕したのはアルビオン側だ。好きにしたまえ。他には何かあるかね?」

最悪、ペルセウスに捕獲賞金が入れば問題はないのだが、それでもアルビオン海軍のために、しっかりと働かなくてはならない。ちなみに航海中に拿捕した船は、海軍に買い取ってもらい、その金が捕獲賞金となる。

「ありがとうございます。もうありません。」

俺は提督がペルセウスから去った後、乗員に上陸が許可されたことを伝えると、案の定乗員達は大喜びだった。



「……艦長。」

振り向くとそこにはハンナがいた。なにやら頬を膨らませており、怒っている様だったが、こっちアルビオンで見ても結構低めの低身長が相まって、逆にリスかハムスターの様で可愛く見えてしまう。

「どうしたんだ、怒ってるのか?」


「いえ、別に最近ペルセウスに来てから業務連絡程度にしか話してないくて怒ってなんかいません。」

……要は全然話せなくて寂しくて怒ってるわけか。結局あの奢りの約束も忘れられたままだったし、誘ってみるか。

「すまない、ハンナ。確かにここ最近構えてなかったな。そのお詫びと言ってはなんだが、パブに行くのはどうだ?一応おごるつもりだが…」


「………ですよ。」


「え?すまない、聞こえなかった。」


「…いですよ。」


「え?」


「…もうっ!いいですよってば!」


「ははははっ。ようやくらしい顔になったじゃないか。やはりハンナはこうでなきゃな。じゃ、俺は色々準備するから、そうだな……次の二点鐘でブリッジ(船と港を繋ぐ橋のこと)前に来てくれ。」

「わかりました!急いで準備します!」

「いや別に次の二点鐘まで結構時間あるから急がなくても……ああ、行っちゃった…」

因みに二点鐘とは、船鐘(号鐘とも言う)の一つで、一点鐘=30分で、二点鐘で1時間を表す。八点鐘まであり、それに合わせて当直交代も八点鐘、つまり4時間ごととなっている。


「艦長!メイベル海尉が乗艦の許可を申し出ています!」


「何?ああ、わかった。許可する。」


許可したと伝えて数分もかからなかったかという僅かな時間でメイベルが彼女の性格にしては珍しく、足音を響かせこちらへ来た。

とても怖い。何か気に触ることでもしたのだろうか。ハンナの件と言い、俺は女性を怒らせる才能でもあるのか?そう思う間に、メイベルが2mほどの距離まで近づいて来た。

「艦長!もう二度とあんなことしないでください!!!!」


「………うん?」

何か言った……のか?正直よく分からないが、怒られていることだけはわかる。だって顔が怖いんだもん。


「惚けないでくださいよ艦長!態とあの人たちを乗せたんでしょう!流石の私でも怒りますよ!!」


「……え?」


「…え?艦長、わかってて乗せたんじゃないんですか?」


「いやいや、知らんぞそもそも『あの人たち』って誰のことだ?よくわからないんだが…」


「誰って、あの水兵たちのことですよ!よく分からないですけど、あの目!犯罪者の目ですよ!!特に私を見る目が本当に怖いんです!!何が私を慕う乗員ですか!変態集団の間違いでしょう!」

溢れるお大粒の涙をこちらに見せてくるメイベルを見ていると、可哀想という哀れみの感情と同時に、守りたくなる感情…母性と言うのだろうか。が、湧き出てくる。恐らくあの乗員達もそうなんだろうな……なら別に俺悪くないくない?


「それはすまない事をしたな。何か、お詫びしようか?何がいい?」


「えっ。」

なぜかメイベルの顔が赤くなった。本当に何故だろう。


「別になんでもいいぞ?俺ができる範囲なら任せてくれ。」


「あ、じゃあ……そ、その……」

どんどん赤面していく。一体何を考えているのだろうか。


「なんだ?」


「ずっと…か、艦長の側にいさせてください…!!」


「そんな事……」


「ダメ、ですよね……私、気も弱いし、すぐ文句言うし、何しても全然ダメだし……」


「何を言ってるか分からんが、別にいいぞ?と言うか、なんでダメなんだ?」


「えっ………いいんですか?」

なぜかメイベルが泣き始めてしまった。この子怖い。


「いやいや、確かに一人にしてしまったのは謝るが、そこまで言うほどのことでもないだろう?」


「艦長……」


「どうした?」


「艦長………ばかぁっ!!」


「へ!?」

なぜか罵倒されてしまった。俺じゃなきゃワンチャン罰則受けるぞ…



「はぁ……何がいけなかったんだ?」

結局艦長室でも原因を考え続けてしまい、気づいた頃には二点鐘が鳴っていた。


______________________________________


ようやくラブコメらしくなってきました!

次回、デート編!お楽しみに!


誤字の訂正、応援コメント、何でもください!

いいな、と思ったらフォローや星、ハートもよろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る