第六話 ポルトー沖での海戦

「北西付近、敵船影あり!距離およそ2海里3.7km!敵は3本マストのガレオン!繰り返す!北西付近、敵船影あり!距離およそ2海里3.7km!敵は3本マストのガレオン!」

その言葉でペルセウスは一時の混乱に陥った。


「艦長!!」

誰かが俺の指示を仰いだ。__どうすればいい?恐らく取り舵いっぱいでポルトーポルトガル方面に変針すれば、逃げれるだろう。だが、もし風が変わって向こうが風上になれば、風下のペルセウスは一方的に叩かれてしまう。


「………操舵員!ハード・スタボー!面舵いっぱい総員戦闘配置につけ!右舷砲戦用意!」

俺は転舵指令を下命し、ペルセウスでは激しく戦闘配置のドラムが鳴った。


「は、ハード・スタボー・サー!」

操舵員は慌てて舵輪を回し、ペルセウスは海賊との戦いに向けて進んで行った。



10分後


「艦長!風向きが変わりました!こちらが風上です!」

1時ごろ、そろそろ砲戦距離に差し掛かるかと言うところで、運命の女神がペルセウスに微笑んだ。

勝てる。


「ツリム調整!白兵隊を編成しておけ!直ぐに白兵戦に入るぞ!」

「「アイアイ・サー!」」


「艦長!砲戦距離入りました!」


「右舷、てーッ!」

「うてーッ!」

「てーッ!」

「うてー!」

「てっー!」

俺の号令で士官達が一斉に砲撃命令を復唱する。

白煙と舞い上がる火花と共に砲丸が12発打ち出され、敵の船体を貫いた。

多くの人が勘違いすることだが、帆船は砲撃で沈むことはない。そもそも艦砲はほぼ水平にしか撃てないので喫水以下の船体を貫けないため、艦が砲撃で浸水することはない。

では、なぜ撃つのか?答えは人を殺すためだ。海戦の決着は白兵戦で決まる。当然数の多い方が狭い艦内では有利だ。その為に人を殺す。そんな事を思う間にも、ペルセウスはどんどん撃ち続ける。風下では水平にしか稼働しない砲が水面を向いてしまうので撃てない、だから海賊は反撃できずに撃たれ続ける。


ハード・ポート取り舵いっぱい!白兵用意!乗り込めっ!」

「「おおっ!!」」

事前に甲板に並んでいた白兵隊がサーベルや斧を空高く掲げ、艦に乗り移って行った。

さて、と…俺も行くとしようか。

「か、艦長?!何をしているのですか?!」

ハンナが白兵隊の2波を指揮し、乗り込もうとしているとこで、俺に気づいた。


「何って、俺も行くんだよ。」

「危険です艦長、貴方に今死なれると困ります!」


「そうか、でも艦長は艦長らしく部下にケジメをつけんとなっ!」

俺はハンナの制止を振り切って海賊船に乗り移った。


「ふぅ、予想していたが、結構な有様だな。」

海賊船には砲弾でバラバラになった手羽ももが転がっていた。


「どりゃぁっ!!」

俺は向かってくる海賊をサーベルで斬り伏せた。肉を切り裂く感覚は、士官候補生の頃に味わったから大丈夫だとは思ったが、記憶が戻ったからか、一人目の殺人は吐きそうなほどに気分が悪くなった。

しかし、俺が高級将校だとわかった海賊達の下衆な目を見ると、最期の光景を思い出し、1人殺す度に殺人への躊躇いは少しずつ薄れていった。


「艦長!海賊の船長が降伏しました!」

もう4、5人は殺ったかというころ、白兵隊の1波を指揮していたフィッツロイが叫んだ。


「そうか。メイベル、双方の被害を調べてくれ。」

「ア、アイアイサー……!」

メイベルは敬礼して去っていった。因みに乗員の損害は味方側はペルセウスの乗員名簿引く生き残っている乗員、相手側は聞き込みか、名簿があればそれ引く生き残っている乗員で出せる。

俺はサーベルに付いた血を拭い、鞘に戻した。


「艦長、しゅ、集計終わりました!」

暫くすると、メイベルが2枚の羊皮紙を抱えて帰って来た。


「そうか、ありがとう。それで、どれぐらいだ?」

「あ、えっとペルセウスは3名死亡、21名負傷、内4名が重症です。」

「死傷者24か…わかった。向こうはどのくらいだ?」

「死傷が14人、負傷が30名ほどです。内18名が重症、死傷を除くと海賊は60名ほどが生き残っています。」

「よくやってくれた。メイベル、君をあの船の臨時艦長に任命する。そんなに心配しなくても、乗員は君を慕う乗員達で構成するし、ペルセウスも一緒だ。」

メイベルの顔が半泣きで怯える様な表情をしだすので、俺は慌てて言った。


どうもメイベルは自分に自信がないらしく、自分では何もできないと言っているが、真面目で優しく、気遣いもできる、勿論航海術だって結構な腕だ。余計なお世話かも知れないが、どうにか俺はメイベルに自信を持たせたいと思っていた。今回の回航艦長任命もその一貫のつもりだ。


__1774年9月12日(金)、イスパニア、カディス沖洋上ペルセウス


「エバン海尉!東北東に陸地発見!カディスの灯台!イスパニアスペインです!」


「りょーかい、ジョン!艦長に伝えて来て!そっちのキミはロッテシャーロットに伝えて!それとメイのレーベルにも信号旗揚げて!『我東北東にイスパニアを見ゆ』以上!」


「艦長!イスパニアに到着しました!甲板に上がって来てください!」

「そうか、ありがとう。正装に着替えたらすぐ行く。」

海佐の正装に着替えた俺は、二角帽を深く被り直し、甲板に上がって行った。

「あ、艦長いた!」

フィッツロイが小走りで来た。制服が正装に変わっているので、俺と同じ様に伝令を受けて来たのだろう。急いだのか、少し制服に乱れが見える。


「艦長!カディス湾から3本マストのスクーナーが2隻出て来ました!どちらも艦尾の旗はイベリア海軍旗です!」


「おっ、お出ましだな。総員!作業を中止して畳帆の用意!」

水兵たちがわらわらと下甲板から上がり、マストを登りはじめた。


「艦長!2隻のうち一隻がレーベルに接近、もう一隻のスクーナーから信号!『我、イスパニア海軍艦、ベンセドーラ。直ちに停船し、貴艦は貴艦の所属と目的を教えられたし。』です!」

「了解、総員!畳帆!スクーナーには『我アルビオン海軍艦、ペルセウス。我、バルバリア海賊攻撃作戦に参加するため派遣された。』と、答えてやってくれ。」

ペルセウスの帆は後ろから順にフォア、メイン、ミズンの順で畳まれ、同時進行でペルセウスに貼られている無数のロープの内一本から数枚の多種多様な模様や色で作られた旗国際信号旗が掲げられていった。


「艦長、スクーナーから通信、『了解した、これより本艦が貴艦誘導する。』です。」

C旗肯定を意味する旗を揚げて、メインマストのみ展帆せよ!」

ペルセウスはベンセドーラに誘導され、目的地サン・フェナンド港に停泊した。


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思っていたより前話のジョンが人気だったのでもっと出していこうと思います

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