第五話 出港

「__諸君!我らの海を脅かす海賊どもを根絶やしにするぞ!」

「「「「「「オオオオオオオオオオッッッッッッッッッッ!!!!!」」」」」」


俺は、ペルセウスの甲板の上で命令書を読み上げ、序でに乗員の士気を奮わせた。戦闘などしたくないのはほぼ全員が同じだが、それでも士気を上げなければこちらが負ける。負ければ死ぬかも知れない、運良く生き残っても軍法会議で戦意不十分で殺されるかもしれない。

だから、敵を殺して勝つしかない。戦争とはそう言うものだ。


「かんちょー!航海図書けたよー!」

数時間後、ルナが大きな羊皮紙を紐で丸めた紙を艦長室に持ってきた。


「そうか、仕事が早いな。どんな航路だ?」

俺が褒めると、ルナは嬉しそうに笑い、航海図を開いた。


「えっとね、食料類はウィル提督が一杯積んでくれるから予定通りいけば、寄港地は一ヶ所、集合知のサン・フェルナンド港かな。航路は、余裕を持って8月31日にウリッジを出てから、9月の12日ぐらいにポルトーポルトガルの港で索具とか水を足して16、17日あたりにはサン・フェルナンドに到着するはず。簡単な航路だし、沿岸部に気を付けさえすれば座礁の心配もないよ。」


「おお、なるほど。それじゃあその航海図を使おう。ありがとう。」


「べ、べつにボクはただ仕事しただけだから!」

?ルナは何を照れてるんだろうか。そう思いつつ、ルナの照れ隠し(?)の敬礼に答礼した。


「さて、何事もなく終われば良いが…」


__3日後、1794年8月31日(日)、ウリッジ工廠港


ウリッジでは艦の乗員は忙しなく動いていた。


「風向、北東!風力も十分です!ペルセウス航行可能!」

風を測っていた一人の航海士が叫んだ。


「了解!そこの水兵、艦長に出港できると伝えて。」

副長フィッツロイは近くにいた水兵に命令した。


「艦長了解!」

水兵は短く復唱すると、駆け足で艦長室で向かって行った。




「艦長、直ぐにでも出港できます。」

遂にだ。あれから3日間、沢山の準備をしてきた。俺は緊張と感動の入り混じった感情で艦長室を後にし、俺の指令を待っている乗員たちの元へ向かった。


「総帆展帆!」

「総帆展帆!」

「総帆展帆!」

「総帆展帆!」

「総帆展帆!」

「総帆展帆!」

俺がはじめに命を下し、そこから階級順にフィッツロイ、ルナ、メイベル、シア、ハンナと命令を復唱していく。一見無駄に見えるかも知れないが、しょっちゅう騒音の響く艦では命令の聞き漏らしがよく起こる。士官達の命令復唱はそれを防ぐための工夫だ。


水兵たちが号令でスルスルとシュラウド(マストについているマストを支えるための幾本もの縦のロープ)を上り、ヤードまで到着すると、そこから帆をまとめているロープを解き、帆を開いた。いよいよだ。


「抜錨!」

抜錨命令とは、艦長が艦の出航を認める、ということを表す重要な命令の一つだ。

「抜錨!!」

水兵達が復唱しながら錨を引き上げる。抜錨は重要な命令であると同時に、かなりの重労働である。なんせ300kg以上もの重りを引き揚げねばいけないのだから、水兵達にはご愁傷さまの限りだ。


そうして、ペルセウス号はテムズ川を下り外洋へ出、約3週間の航海に入った。


__1794年9月10日(水)、ポルトーポルトガル沿岸付近洋上ペルセウス


俺の名はジョン・スミス。特技というか、人に自慢できることは目が良いことだ。だがそんじょそこらの奴らとは訳が違う、俺の目は水平線に浮かぶ船の索具の数まで見える、とびきり良い目だ。

先月強制徴募プレスギャングに捕まりこのペルセウスの水兵にされた。初めはうんざりだったが、この艦で暮らすうちに、仕事をクビになってはヤケ酒で文無しになる生活より従順にしてればキツイ仕事も多少は楽、衛生面は女達がせっせっと綺麗にしてるおかげで港の狭い小道なんかより大分マシ、ならここ暮らす方がよっぽど良いじゃないか。と、思い始めている。


「確かキミ、ジョン・スミスだよね?」

航海長のルナだ。上官ではあるが、活発で可愛げがあり多くの乗員から可愛がられている。


「はい。航海長。どうかいたしましたか?」

「いやね、ちょーっと掌帆長から小耳に挟んだんだケド、キミ、とっても目が良いらしいね?」

「ええ、俺の自慢です。それが何か?」

「メインマストで見張りをしておいてくれないかな?予定通り航行できているなら、そろそろポルトーの大地が見えてくるはずだから。お礼は、そうだな…主計長に頼んでグロッグの特配を追加してあげるよ。」

それを聞き、俺は喜びで舞い上がりそうだった。

グロッグとは、ラム酒を水で薄めた酒で、艦で時々配られる。いくら薄いと言っても酒は酒、グロッグは水兵たちの間で通貨の様な扱いもされており、時にはキツい仕事の肩代わりにも使われる。それの特配とあらば、やるしかない。


「喜んで!ミス・エバン!」

俺は勢いよく敬礼した。


「寒ぅっ。」

俺は数時間後、メインマストの最上檣楼に登り、全方向に目を凝らしていた。


「!!」

見つけた。しかし、大地ではない、船だ。目測だからはっきりとは言えないが、ペルセウスと同じくらいの大きさだ。そして何よりも俺の目を引いたのは船尾の旗だ。赤と白の波打つ横線。

「__バルバリア海賊だ…………ハッ!北西付近、敵船影あり!距離およそ2海里3.7km!敵は3本マストのガレオン!繰り返す!北西付近、敵船影あり!距離およそ2海里3.7km!敵は3本マストのガレオン!」

俺は目一杯下の士官達に状況を伝えた。

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