第四話 提督閣下の来訪
「ウィルおじさ…いえ、シャーロップ提督、なんと言うか、先程の知らせから登場まで早すぎませんか?」
目の前に立つ
因みに五四とかいういい歳しておきながら、未だに独身らしい。
彼には昔からからおんぶしてもらったり、玩具を買ってもらったりなど、いろいろ良くしてくれたので、幼心にもよく残っている。
それと同時に、後先考えず突っ走る猪突猛進タイプだった為に様々な場所で突き落とされたりしたと言う記憶だが。
不器用なだけなんだろうが、あの性格はなんとかしてもらいたいものだ、まったく。まあそれ以外は人の良い叔父さんだし、俺がこうして言い間違える程度には仲良くさせてもらってる。
現在はウリッジ海軍工廠で基地提督をしていると聞いていたので、
「先触れの使者は出したつもりなんだがな。ほら、そこの彼女。」
そう言ってウィル叔父さ…じゃなくて、提督はハンナを指差した。
「提督、あれは先触れの使者ではなく報告をしてきただけの士官と言うのです。そもそも使者のつもりならもう少しゆっくり来てくださいよ、こちらにも用意というものがあるんですから。」
俺は、目の前にいる気まずそうな男が上司とは知っておきながらも、日頃の鬱憤
を込める様に、半分愚痴を漏らすような勢いでクドクドと言葉を吐き続ける。
「まあまあ落ち着きたまえよ……ちょ、一回落ち着け、な?わかったから、落ち着け、俺が悪かったから、ほ、ほら!お祝いにガリア産のチーズとか色々持ってきたから!」
泣き出しそうになって懇願し出す提督の姿は、三〇も離れている年下に言い負かされていると言うのもあってか、より滑稽に見えた。
「あ、も、申し訳ございません。それで、ご用事というのは?」
俺はあくまでもたった今提督の懇願に気づいたかのような名演技でしらばっくれ、話を続けさせた。
「お、おう。そうだったな。あー、少し人払いを頼もうかな?お嬢さん。それと、話はすぐ終わるから、その間にここの上級乗員を片っ端から集めてきてくれ。それじゃ、頼むよ。」
提督は至極丁寧な仕草でそう言うと、体よくハンナを部屋から追い出そうとした。
「アイアイ・サー!」
ハンナは乱れたままになっていた制服を正しサッと敬礼してから部屋を後にした。
「…それで提督。察するに、また命令書か何かを持って来たのでしょう?そんなもの部下の方にでも任せれば良いのに。」
俺はポケットをゴソゴソさせている提督の左手を凝視しながら尋ねる。
「ご名答。いつになっても俺はお前に隠し事はできんらしいな。知っての通り、
その有り様と来たら、欧州各国との貿易どころか、軍事行動にまで支障が出るぐらいだ。」
「それじゃ、私に海賊討伐をしろと?」
正直なところ、海賊には前世の記憶も相まって憎しみとトラウマの両方があって関わりたくはない。
「良いから話を最後まで聞けっての。ほら、確か今ガリアで何か危ない臭いが燻ってただろ?
上の連中も、表面上は無視している風を装っているが、確実に向こうでの出来事を心配している。いや、言い換えた方が良いな、欧州中の国が、だ。」
提督は一旦ここで話を切り、溜まった唾を飲み込む。
「そんな緊張状態で、連中に好き勝手されちゃ困る。連中にとってはビジネスチャンスなのかも知れんが、我々には賊どもの事情なんぞ知ったこっちゃねぇ。
てことで命令だ、
提督はそのままの勢いで話を終え、ズイと顔を近づけて問う。
「まあ、ご命令とあらば。」
いくら心は嫌とは言ってもここは腐っても海軍。例え火の中だろうが水の中だろうが船の中だろうが命令があれば行かねばならんのだ。
「失礼します。艦長、高級乗員九名、全員連れて来ました。入室許可をお願いします。」
どうやら結構早く全員見つかったようで、ハンナの元気の良い声が部屋の外から響いた。
「おっと、思っていたより早いな。それじゃあこれは、君がしっかり持っておくように。出港についてはそうだな…できるだけ早く。最低でも今月中は出港してくれ。」
そう言って提督は俺に命令書をグイっと押し付けると、「入りたまえ。」と、一言言うと、外に待機していた部下にご馳走を運び込ませた。
宴会は提督の乾杯の音頭に合わせて始まった。
「──アルフィー、そういえば全員の顔を合わせて自己紹介したのかぁ?」
皆でワイワイ話していると、突然顔を気持ち悪いくらい真っ赤にした提督が言い出した。
既に提督はかなり酒が回っておるようで、さては提督の飲んでいる酒はウイスキーか何かだな、と思いつつ、「いえ、まだですが。」と、短く答えた。
「なにィ?ならここで自己紹介すりゃあいいじゃねェか。よぉーし!命令だ!自己紹介しろ!俺を笑わせたやつはうーん……なんかやる!さん、にーい、いち!はじめ!」
提督は酔いの勢いで自己紹介を命じた。いくら酔っていても上官は上官。命令には従う義務がある以上、俺は渋々口を開いた。
「えーと、じゃあ、階級的に俺から……アルフレッド・ジョージ・ファインズ=クリントン。二四歳、階級は海佐、出身地はバークシャー州。リンカン伯爵の次男坊だ。」
なぜだかは解らないが、俺の自己紹介は提督の爆笑を掻っ攫った。
「でしたら次は私ですね。私はシャーロット・ゴール・フィッツロイ。二〇歳、ペルセウスの一等海尉です。出身はケント州、フィッツロイ紡績社の長女です。」
これまたなぜだか提督の爆笑を掻っ攫った。
一体この人は何がしたいのだろうかと思って提督の半分焦点の合っていなさそうな顔をぼんやり見つめながら思っていると、フィッツロイ海尉の隣に座る一際背の低い少女が手をピンと上げた。
「ボクはルナ!ルナ・ルイーズ・エバン!歳は一九、出身はヨークシャー!二等海尉で、航海長だよ!宜しく!」
こちらも提督の笑いのツボに突き刺さったらしく、大爆笑だった。
「あ、えと、メ、メイベル・ヴィクトリア・サロウです…歳は一九歳、出身はロンドン。三等海尉です…よ、宜しくお願いします。」
説明がいらない気もするが、散歩中に出会ったあの少女士官の自己紹介も爆笑だった。
「…シア・グレイス・ベイカー。海尉心得。」
言わずもがなである。彼女に関しては自己紹介の情報が少なすぎる気もするが。
「ハンナ・クロフォードです。一七歳、出身はポーツマス、士官候補生です。よろしくお願いします。」
本当に必要なさそうだが、大爆笑である。よく分からんが、これで士官は全員合格だ。
ここからはダイジェストとなるが、艦の物資の管理者である主計長がアーサー・キンバリー・サマセット(四七)。艦の砲を管理者の掌砲長がアメリア・ケント・フォード(三一)。艦の帆を管理する実質的な水兵のまとめ役の掌帆長がヘクター・ウィリアム・クリフォード(四九)だ。
まあ、提督が宴の参加者全員に奢る事になってしまったのは必然的とも言えるだろうか。
翌朝、俺は全乗員の前で、命令書を読み上げた。
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〇〇シャー州というのは和訳的に少しおかしいですが、見やすさ重視のためです。ご理解のほどよろしくお願いします。
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