第三話 ペルセウスの問題
「さて、と。」
俺はゆっくりと艦長室の椅子に腰掛けた。
艦長室は六等艦には到底思えないほどに広い。
ちなみに、前々から出ている六等艦と言うのは、一七世紀から一九世紀に渡って使用された、
一から六までの等級が存在し、五、六等艦をフリゲート、一から四等艦を戦列艦、六等より下の艦を等外艦という。
因みに六等艦は二〇~二八門、五等艦は三二~四四門、四等艦は四八~六〇門、三等艦は六四~八〇門、二等艦は九〇~九八、一等艦は、一〇〇門以上と規定されていたが、実際には精々一二〇門までしか建造されていなかった。
「広さだけなら、戦列艦級なんだが、やはり
俺は、早速副長のフィッツロイを部屋に呼び、聞き始めた。
「…まあ、気になりますよね…」
フィッツロイは、言いづらいというか、気まずいと言うか、困った顔をした。
「渋りたくなるのはしょうがなくとも、艦のことについてなんでも聞いてくれと言ったのは君だろう。」
「ええと、まあ、良いでしょう。この話をしなくてはならない事は、何となく覚悟していましたし……」
フィッツロイは、少し目を泳がせて深呼吸をする。
「ああ、頼む。」
「わかりました。本艦、ペルセウスは、艦長の仰った通り、レイジー化された、元六四門戦列艦でした。」
「まあ、想像に難くないな。」
六四門戦列艦とは、六四門艦とも言い、アルビオン海軍の失態、いや、どんな国の海軍でも一度は通る負の産物である。
ここからは、少し歴史の話になるが、アルビオン海軍は長きに渡り、世界のトップに立ち続けて来た。
しかしながら、それでも頭一つしか飛び出ていないわけであり、欧州が一丸となって攻めてくれば、例え世界の覇権を握った帝国でも太刀打ちできないのである。
そんな状況を少しでも良くするために建造されたのが、六四門戦列艦だった。
六四門ならば、一等艦を三隻造る間に、約一〇隻造れる上に、建造コストも安く、人員も少なく済む、コスパの良い夢の艦だった。
しかし、六四門艦の大量建造が終わりになる頃、
六四門艦よりも片舷一斉射の破壊力が強く、かつ大量に建造できる七四門艦ができてしまっては、威力も弱く、かと言って海賊退治にも足が遅すぎて向かない使いづらい艦は、ただの金食い虫となった。
要するに、設計当時はいくら最良の
「だが、レイジーを行ってフリゲートにしたのはわかるが、もう少し砲は配置出来のでは?何も二四門じゃなくとも、四〇は積めただろうに。」
「そこで乗員の話になるのですが、もともと本艦は足手纏いな女性の海軍人たちを一箇所にまとめるという意図のもと作られた艦なのです。」
「なるほど、だから艦のレイジー化をした分更に砲門を減らしてスペースを作って人をたくさん受け入れられるようにしたわけか。」
上も中々横暴なことをしてくれる、とは思うが、一海軍士官の力では何もできないのも現実である。
「まあ、はい、そう言うわけです。」
「なるほどなぁ。まあ、ちゃんと動くようだし、大砲だって高射程、高威力な砲を積んでいるようだし、監獄船のような状態で受け渡されるよりは何倍もマシだしな。ありがとう、戻ってくれていいぞ。」
俺はようやく納得し、フィッツロイを下がらせた。
その後は、日が暮れるまで主計長やその他の高級職の乗員にペルセウスの状況について聞いて周り、ペルセウスのことについて知ることに東奔西走した。
「うおっ!?す、すまない!一体全体そんなところでどうしたんだ?えーと……誰だったかな?」
俺は、上甲板を散歩がてら歩いていると、隅で座っている長い艶やかな黒髪の士官につまづき、俺は急いで謝る。
「え、えと、メイベルです。メイベル・サロウ。ここの三等海尉です。地味ですみません……」
メイベルと名乗ったその士官は、話を聞いてみるとどうも臆病というか、怖がりのようで、今日も周りの目と暗がりが怖くてここで座っていたようだった。
「安心してくれ。俺が来たからには絶対に、誰一人としてこんな思いはさせないから。さあ、立って。」
俺は少し感情的になって、メイベルの両肩を掴み、宣言する。
「ひゃっ!?しししししし失礼しまーす!?」
しかし、メイベルは一瞬で顔を赤らめたと思うや否や、フッと消えて、下の方から彼女の声が響いた。
「なんて逃げ足……」
俺は、唖然としながら艦長室に戻り、またうんざりとする作業に戻った。
オレンジ色に染まっていた空も、もう暗くなり、星々が輝き始めたその頃、部屋の扉にノックの音が聞こえた。
「どうした?入れ。」
「失礼します!艦長!着任祝いに本艦の所属している艦隊の提督が挨拶に来られました!」
当直に出ていたハンナが息せき切って報告した。かなり急いでいた様で、敬礼が完璧に行えていなかった。
「お、おお落ち着け!取り敢えず提督はまで来ていないのか?来てないなら全員陳列させて出迎えを──」
「その必要は無い。」
ハンナの後ろでネイビーブルーの前襟付きコートに金のボタンを付け、金の肩章を両肩につけ、羽飾りのついた勲章をつけた二角帽を被った大男が低く、しかしよく通る堂々とした声で言った。
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