第一〇話 亡国のお姫様

「──で、どうして追われていたんだ?別に軍人だからと言って身構えたりしなくても良い。勿論、言いたく無いなら言わなくても良いしな。」

あれから、俺は艦に戻り、高級職の乗員に事情を伝え、念のため見張りを強化させた。

今は当人に事情を聞いているところだ。


「我が名はマリー・テレーズ・シャルロット!神聖なるガリア王国の正統なる第一王女なのだ‼︎さあロースト・ビーフアルビオン人共よ‼︎我に跪くのだ‼︎‼︎」

自らをガリア王女マリーだと名乗るその少女は、その可憐な見た目にそぐわず、罵詈雑言を喚いていた。


「仮に王女だとしても不敬にも程があります。口を慎んでください。」

あまりの暴言に見兼ねたハンナが椅子から勢いのあまり足ち上がった少女を無理やり座らせる。


「つ、つまり君はガリア王女だと?」

そして俺は打ち明けられた事実に困惑しながら確認する。


「そうなのだ。」


「そ、そのせいで革命ガリアの追手に追われていたと?」


「その通りなのだ。何度も同じこと言わせんななのだ。」

同じことを繰り返すだけの質問に、少女は次第に機嫌を悪くする。


「す、すまない。それじゃ、王女を証明できるものは?」


「うーん……あっ、そもそもこんな時期に自らガリア王女の名前を名乗るバカいないのだ。これが証拠なのだ。」

そう言って少女はドヤ顔をするが、本物はもっと慎重になるだろうということに気づけていない辺り、少し頭が足りないのだろうと感じられる。


「なるほど。とりあえず、一旦は君をマリー王女としておこう。明日の朝一番で総督府へ行って確認を得るよ。君はオハラ総督とは会ったことがあるかい?」

俺がそう尋ねると少女は腕を組んで眉間に皺を寄せて考える。


「うーん………………ジャーなんたらとか言う人なら知ってるのだ。」


「ジョン・ジャービス提督かい?」


「そう‼︎そのおじさん!革命が起きる前にアルビオンで会ったことがあるのだ。」


「なるほど。なら提督に君が本当の本物か見てもらうとしよう。取り敢えず今日のところはフィッツロイ君の部屋で過ごしてくれ。それで良いか?」


「問題ないのだ。泊めてくれてありがとうなのだ。」

少女は先ほどの態度とは打って変わって、丁寧にお辞儀をして感謝を述べた。

見た目と性格と口調があべこべ過ぎて頭がおかしくなりそうだ。


「それじゃフィッツロイ君、彼女を部屋へ案内してくれ。」

俺は振り返ってフィッツロイに命ずる。

気のせいか知らないが、何がとは言わないが、また大きくなっているようn……セクハラシテゴメンナサイ。


「イエス・サー。こちらへどうぞ。」

フィッツロイは先に少女を歩かせて後ろから道を教える。


「シア。」

俺は二人が部屋を出たのを確認して、呼びかける。


「はい、なんでしょうか。」

海兵隊長のシアが機械的に俺の呼びかけに応える。


「海兵隊に彼女の部屋を見張らせておけ。彼女が何か言うようだったら俺に言ってくれ。」


「アイアイ・サー。」

シアは頷いて答える。


「今日はありがとう。それじゃ、全員戻ってくれ!」

俺がそう言うと、全員が敬礼した後で部屋から出ていった。


「ふぅ……とんだ拾い物だよ、全く。」

俺は溜息をついてから、今日起こった事を整理しながら天蓋付きのハンモックで静かに眠った。


__翌日


「おはよーなのだ‼︎」


「ゲフゥッ!?」

今日の目覚めは最悪だったとしか言いようがないだろう。俺は突如として腹部にかけて猛烈な痛みが走り、目を覚ましたのだから。


「アルフレッドは海軍士官なのに貧弱なのだ?」


「人が寝てる時にハラの上に乗っかった挙句、言うことがそれか。」


「どーでもいーからさっさっと起きるのだ。ほれほれ。」

少女はペシペシと俺のことを叩くが、そんなことより重みで腹が潰れてしまいそうで、堪らなくなり、


「わかった、わかったから退いてくれ‼︎」


と言い、俺はハンモックの上で少女を退かそうと踠くが、乗っかられた痛みで大して動けないせいか、それともどこか心の中でこの状況を喜んでいるからなのか、俺の抵抗は虚しく腕を上下するだけだった。


「艦長、例の少女が逃げまし……何をしているのですか?」

シアが珍しく駆け込んで来た(無論真顔である)が、俺の上に少女が乗っていることを確認するや、すぐに俺を問いただした。


「俺じゃ無くてこっちに聞いてくれ……て言うか下ろすの手伝ってくれ、起き上がれん。」


「イエス・サー。」

俺シアはそう答えると、直ぐに俺の隣へ来、ガシッと少女の胴を掴んだ。


「やめろー!離すのだー‼︎」

抱き上げられた少女はジタバタと抵抗したが、屈強な水兵を束ねる海兵隊の隊長であるシアには、通用しなかった。


「まったく、一体どうやってあの警備網を掻い潜ってここまで来たんだ?」

俺はコートに袖を通して帽子を被りながら疑問を呟いた。


「艦長‼︎」

そんな中、ソフィーが大急ぎで艦長室へ走って来た。


「ど、どうした⁉︎」

そんな姿を見て俺も慌てて尋ねる。


「どうやら昨日の騒ぎを提督が調査していたようで、一時間後直ぐに提督がいらっしゃります‼︎」

まあ、当然と言えばそうだろう。俺なら自分の部下が決闘騒ぎを起こしたのなら、調べる。自分自ら行くと言うのは流石にしないが……提督やネルソン代将ならしそうだな。


「なっ⁉︎いや……これはこれで手間が省けて好都合とも言えるか。急いで全員を甲板に集めて出迎えさせるんだ。」


「い、イエス・サー!」

ソフィーは直ぐに敬礼して出て行った。



__一時間後


「出迎えご苦労。しかし、クリントン君。とんでもないものを拾ってくれたな。」

ジャーヴィス提督は、ピッタリ一時間後にインディファティガブルの甲板で乗員の敬礼を受けていた。


「ええ、まあ。とりあえずのところ、例の少女は艦長室にて待機させております。」


「うむ、では早速ご対面と行こうか。私が退出するまでの間に艦長室に出入りしていいのは、私と君だけだ。それ以外は絶対に通すなよ。いいな?」

提督は振り向きで連れの海兵隊員に命ずる。


「イエッサー‼︎」

提督の四人の海兵隊員が全く同時に敬礼して答える。

全くもってどんな教育したらここまで規律を整えさせれるのか不思議でならない。


「よろしい。では行くとしよう。」


俺は艦長室へ堂々と入るジャーヴィス提督の後に続いて、艦長室に入った。






「アルフレッドなのだ!隣のじーちゃんは誰なのだ?」


「バカっ‼︎ジャーヴィス提督だっ‼︎」

いきなりの提督への無礼な発言に、俺は顔を青ざめて訂正させる。


「はっはっは。ジジイ呼ばわりされるのはこれで二度目だな。儂はジョン・ジャーヴィス。アルビオン海軍地中海艦隊の最高司令官です。マリー王女殿下、お久しぶりですな。覚えていらっしゃられれば話が早かったのですが、流石に覚えていらっしゃられませんかね?」

いきなりの提督の謙った態度に、俺は驚愕するが、これは提督が彼女が確かに王女であることを認めた。と言うことだということに気づいた。


「もしかしてジャーなんたら提督なのだ?よろしくなのだ!」

少女──もとい、マリー王女は提督に握手を求める。


「ええ、よろしく頼みますぞ。さて、儂が聞きたいのたった一つ。なぜ、ここにいるのか。お答えいただけますかな?」

提督が神妙な面持ちで話し始めると、流石のマリー王女も顔を真剣にして黙り込む。


「……オッケーなのだ。提督は知らないかもしれないのだが、パパ──じゃなくて父上が殺されちゃってから、私たち王家は、アルビオーニュブルターニュからアルビオンに逃げる予定だったのだ。でも、アルビオーニュルートが革命に対する反乱で危険になっちゃったのだ。だから大きく迂回して、ここジブラルタルからアルビオンに亡命しようとしてたのだ。」

王女は、家族のことを思い出したのか、少し感傷に浸っているように見えた。


「なるほど……ちょっとした噂程度だったが、海峡艦隊が何やら大荷物を本国に運ぶと言う話を耳にしていたが、まさかこの事だったとは……しかし尚更本国から書簡なりが来ていてもいいはずだが……」


「敵や嵐に遭遇したのでは?ここ最近、アルビオン海峡は敵や味方があちこちに居ますし、先日、こちら側にも嵐が通過していた様ですので、十分あり得る話かと。」


ここで俺は意見を述べる。

まあ、正直言って嵐の線は薄いだろうが、十中八九、その手の問題に襲われて断念したか、沈んだかのどちらかだろう。若しくは、あわよくば王家の断絶を狙う輩の妨害で出航できなかったか……

俺は最後の言葉だけは、自重して心の奥にしまい、提督に話しを促す。


「確かにそうだ。いやぁ、提督に就任してかと言うものの、長期航海をしてこなかったせいでその手のことを直ぐに忘れてしまう。困ったものだ。兎も角、マリー殿下、本日はありがとうございました。直ぐに本国に問い合わせて、亡命の手配をいたしましょう。それまでの間は、総督府で過ごしますか?それとも?」


提督は椅子から立って帽子を脱ぎ敬礼をして、質問する。


「んじゃあここに残るのだ。もう暫くよろしくなのだ!アルフレッドっ‼︎」

王女はスクっと椅子から立ち上がり、俺に抱きつく。


「ちょっ、離れてくださいって‼︎」


「はっはっはっは。仲が良いようで結構、結構。それじゃ、殿下を頼むぞ、クリントン君。」


提督は、大笑いして部屋から出ていった。


「アイアイ・サー………」


どうやら、俺の苦労はもう少し続くようだ。


「アルフレッドも私に抱きつくのだー!」


「だから離れてくださいってば‼︎」


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 次回 予想通り?お楽しみに!

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