第一一話 予想通り?

__提督の来訪から二日後


「アルフィ〜、眠れないのだ〜。なんかお話ししてくれなのだ〜。」

陽が沈み切り、俺が最後の仕事に取り組もうとしていたその時、副長の部屋で寝泊まりしている寝巻き姿のマリー王女が、俺の部屋に目を擦りながらやってきた。

最早半分眠いのだろうになんで態々来るんだ……


「またですか…………この仕事が終わったらいいですよ。」

俺は呆れてチラリと王女を覗いて言う。さっき迄はさっさっと片付けて寝ようと思っていたが、今の目的は可能な限り引き延ばして目の前の少女を寝かせることだ。まだ二日しか経っていないが、俺があまり彼女のことが好きでないことは俺でも理解できた。彼女は気づいていなさそうだが。


「その『〜です。』って言うの止めるのだ。最初の時みたいにタメで話すのだ!」

王女は手を大袈裟に広げて話す。そのあまりの元気の良さに思わず俺は

「おう。」

と、言ってしまいそうになった。はぁ、さっきまでの眠そうな様子は一体どうしたというんだろうか。


殿下ユア・ハイネス、立場を考えてください。」

俺は冷静に諌める。まあ、無駄であることはわかっているが……


「それじゃあガリア王女としてアルフレッド・ファインズ=クリントンに命ずる、私に対する敬語の一切を禁じるのだ!!」

彼女の元気そうに叫ぶ様子に、俺は元気をもらうと同時に、つくづく面倒臭いことに首をつこっんでしまったことを痛感した。


「例え殿下の命令であろうと、その命令はできかねます。」

俺はしっかりと彼女を見つめて問いただす。


「わかったのだ……じゃあこの艦の士官にするのだ!!」


「却下。そろそろお休みになられては?」


「むぅ……アルフィーのわからずや…」


俺の返答を受けた彼女は急に表情を暗くして大人しく副長室へと帰った。


「全く、困ったものだ……」

俺は少し困惑して、彼女の背中を見ながら呟いて、また直ぐに仕事に戻った。


__二週間後


俺は見回り兼暇つぶしに甲板を歩いていると、遠くの港からこちらに向けて一艘の武装スループが近づいてくるのが見えた。


「あれは……ネルソン代将か?おーいメイ!望遠鏡を持ってきてくれ!」

俺は半分はスループに、もう半分は転びそうになりながら急いで望遠鏡を引っ掴んで持ってくるメイに視線をやりながら大声で言った。


「た、ただいまお持ちしました。ど、とうぞ。」


「ああ、ありがとう。おっと、念のためもう少し隣にいてくれ。」

俺は急いで持ち場に戻ろうとすメイに俺は声をかけて止まらせる。メイは少し緊張しているように見えたが、俺は今はそんなことを考えている場合では無いと考え、望遠鏡を左目に当ててスループの艦尾へ目をやった。


「あれは……うん、確かに代将旗だな。総員作業を速やかに終了させ、甲板へ集合せよ!ネルソン代将だ!」

俺の命令はインディファティガブルのマストの見張りから艦底のビルジを汲み取る水兵にまで瞬く間に伝わり、直ぐに上甲板は乗員で一杯となった。





「総員、敬礼!」

乗員が道を開けて俺の号令で一斉に敬礼するが、急いでいるのかネルソン代将は軽く答礼しただけで、俺の方へ急ぎ足で来た。


「いきなりで済まないが今から例の王女を呼べるかい?あまり時間は残されていない、急いでくれ。」

俺はルーズで型破りなネルソン代将がここまでせっかちに人を急かすのは珍しいと思いつつも、近くにいたシアに王女を連れて来るよう言った。





「いきなり呼び立ててなんなのだ?」

マリー王女は無口なシアに連れてこられたのが、一種の誘拐のように捉えたのか、機嫌があまり良くなさそうだったが、代将の表情からただ事では無いと察し、真顔になった。


「アルビオン皇帝陛下より正当なるガリア王女殿下、マリー姫に以下の如く拝命を下す。

皇帝陛下は殿下を現在置かれている状況に追いやった革命政府を名乗る反乱軍に酷く遺憾であるとの表明であり、反乱軍討伐について多くを一致させるため、殿下を帝都ロンドンに招待したくお考えであられる。よってここに、皇帝陛下との謁見を認める。

以上です。殿下の処遇にいたしましては、アルビオン本国にて判断されるようです。」

代将は羊皮紙に書かれた文を読み終えると、そのまま王女に渡した。


「と、言うことは俺たちも本国に帰ることになるのでしょうか?」

俺は大抵の乗員希望とは異なり、本国に帰ることを良しとは考えていなかった。理由はいくつかあるが、本国には厄介な人間が多いとだけ言えばわかってくれる……よな?


「ああ、そうそう、もちろん君たち宛にも命令書と書簡が届いている。直ちに殿下を乗せて本国へ帰国するんだ。ジャーヴィス提督が港で物資を用意している。それじゃあ、私はここで帰ることにするよ。」

そう言って代将はそそくさとスループへ戻った。



「……皆、聞いたな?総帆展帆!直ちに帰港せよ!」

俺は振り向きざまに大声で命令すると、あまりに早い代将の帰りに呆気に取られていた乗員が、たった今魂を吹き戻されたかのように動き出す。


「「「アイアイ・サー!」」」


「殿下、後一週間もすればアルビオンで革命政府の連中に怯える事なく平和に暮らせますよ。ハンナ!殿下を部屋へ!おい操舵手、気をつけて操舵してくれよ!代将のスループに当てるなよ!」


「了解。行ってきます。」


「またシアなのだ……」


瞬く間に艦は騒音を取り戻し、ゆっくりとジブラルタルまでの数マイルの航海を始めた。


__翌日


「ルナ、航海計画について一晩中考えていたみたいだが。もし王女殿下を輸送するって事で変に緊張しているようなら別にそんな必要はないからな?休む時はキッチリ休めよ?」

俺はたった今航海長室から出てきたルナに心配して話しかける。


「ん、ありがと。でも大丈夫だよ。それに王女を運ぶだなんて機会滅多に無いからね。どちらかと言えば光栄に思ってるよ。ところで今、時間ある?航海計画について話したいんだけど。」

ルナは平気そうに笑ってみせるが、目のクマを見れば一睡もせずに考え続けていたことは一目瞭然だ。もし本当にルナが重荷に感じていないにせよ、変に生活のバランスを崩すのはかえって航海計画にも支障が出るので休んでもらいたいものだが……


「ああ、それはありがたい。積荷は午前中には積み込みが終わるだろうし、風さえ整えばすぐにでも出航したかったからな。で、どんな感じなんだ?」

ルナは「ちょっと待ってて。」と言うと、手に持っていた大きな海図を広げて俺たちのいるジブラルタル辺りを指差す。


「えーとね、まずジブラルタルを出港するけど、時間や日付はどうでもいいかな。少なくともここ一週間は大西洋に出るには十分な風が吹いてるから。で、大西洋に出たら直ぐにイベリア半島に沿って北上。途中で余裕があれば補給も考えてるけど、今は海峡中に敵の私掠船やら軍艦やらが居座ってるから多分無補給になると思う。そしてそのままガリアあたりまで来たらもっと北へ行ってアルビオン本土に沿って北上。テムズの河口に行ってゴールって感じ。」

ルナは指で何重にも描かれた航路の線をなぞって俺に教える。関係のない話だが、ルナの指は荒い海軍生活でも綺麗なままですごいな……


「なるほど、よくやってくれた。それじゃあ風向が合えばすぐ出航しよう。ルナはそれまで寝ててくれ。」

俺はルナの肩に手を置いてポンポンとしてから言う。


「い、いや今は出航準備で大変だし、ボクも手伝うよ!」

ルナは少し慌て気味で(?)言うが、あれだけ頑張ってくれていたのだ。休んでもらわなくては。と言う一心で俺も引き下がらず、遂には、

「じゃ、じゃあお言葉に甘えさせてもらう……」

と、ルナが折れた。


「ああ、ありがとう。それじゃあまた、出帆の時に会おう。」

もう一度肩を優しくポンポンと叩く。すると上の方から俺を呼ぶ声がしたので、返事をしながら上へ駆けて行った。


______________________________________


公開が遅れてしまって申し訳ありませんでした。今日からまた再開できるよう尽力いたしますので、アルフレッドたちの冒険を引き続き応援してやってください!


訂正、応援コメント、何でもください!

『いいな』と思ったらレビュー、☆、フォローなど何卒よろしくお願いします!


 次回 光栄ある輸送作戦① お楽しみに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る