第一章 記憶と異動

第一話 取り戻した記憶

俺の名はアルフレッド・ブラウン。アルビオン帝国の侯爵次男だ。だが、俺にはもう一つの顔がある。その名も帆風出帆、日本人男性、37歳独身、某商船会社で一等航海士をしていた。最期は、ソマリア沖をタンカー船で航行中に、かの悪名高いソマリア海賊団に船を襲撃され、銃殺された。


生まれ変わっても、度々この悪夢を見続けていた。だがアルビオン、いやこの世界での価値基準からすれば、俺の最期は荒唐無稽すぎたから、ただの悪夢だと流していた。

いつもはソマリア海賊たちにそのまま殺されるだけだった。だが今日は、あの海賊は確かに笑ったのだ。そして何故だかそれがトリガーとなり、俺は記憶を取り戻した。推測するに、恐らくあれが正しい記憶だったのだろう。


「ハンナ。入ってもいいぞ。」

俺は部屋の前で待たせていたであろう、俺の従者マスコット、ハンナ・クロフォードを部屋に入れた。

彼女は、海尉時代の指揮艦、コルベットのH.M.Sグラスゴーの艦長をしていた頃、停泊していた港で路頭に迷っていたところを保護した少女だ。暫くは艦内で世話をしていただけだったが、試しに航海について教えてみると筋が良かったので、士官候補生に引き上げて、今は従者マスコット兼士官候補生として、俺の仕事を補佐させている。


「失礼します。海佐。」

ハンナは頬を膨らませて部屋に入って来た。いつもは少し生意気なところがあるが、蔑ろにされたはされたで、不服なのだろう。今度パブで何か奢ってやるか。


「あ、海佐。これ、本部から命令書です。」

ハンナは一通の蝋で封された封筒を差し出して来た。


「そう言うのってもう少し重々しく出すものじゃないか?」


「いえまあ、意味もなく人を部屋から追い出す上官に対する態度はこの様なものです。」


「あのなあ、怒ってるのはわかるが、もう少し丁寧に…いや、もう良い。それより命令書を見せてくれ。」


「はい。」


白い封筒の蝋を雑に引き剥がすと、中から筆記で書かれた羊皮紙が出て来た。アルビオンの言葉がわかるかって?こちとら、もう20年はこっちで過ごしてんだ。わかるに決まってるだろ?

まあ、そんなことはいい。命令書の方が大事だ。

「何々…?


アルビオン帝国の海軍卿事務代行者たる海軍委員会より、国王陛下の海軍海佐アルフレッド・ブラウンに対し以下のごとく下命する。貴官はここに国王陛下の海軍艦艇6等艦ペルセウスを与える。

ここに貴官は直ちに乗艦して指揮をとり、艦長の職務を果たすべきを命ず。当該フリゲート艦の士官及び乗組員全員をして、全員一致して、あるいは個別に、同艦々長たる貴官に対する正当なる尊敬と服従をもって行動せしむるよう、厳正なる指揮と職務の遂行こそ肝要なり。危機に際しては、適切にこれに対応し、貴官及び部下の一人たりとも、過誤を冒すべからず。」


「新しい艦ですか。」


「ああ。急いで行くとしよう。荷物をまとめろ。俺の分は自分でやる。」


「イエス・サー!」


何故、今すぐ行かなければならないか疑問があったとしても、それは真っ当だろう。本来、乗艦は数日遅れても規定上は問題はない。しかし、指揮艦を与えられた艦長は、皆こぞってその日の内に乗艦したがる。これは、艦長に任官するのは任命書を受け取ってからではなく、実際に乗艦して、指揮を取ってからなのである。その為、ほぼ例外なしに、艦長は自らの指揮艦にその日中に乗艦する。勿論、俺も例外ではない。

だからこそ、急いで準備しなくては。

「海佐、用意できました。」


「うおっ、早いな。」


「元より、あまり持ち物を持たない主義ですので。」


「なあ、そのそっけない態度どうにかならんのか?」


「……パブで奢りですよ。」


「やっぱりそうくるかぁ………」

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本日2度目の投稿です。これからは毎日2時に一話投稿とさせていただきます。書き溜め期間や、身辺の都合で投稿が止まるかもですが、ひと月もあればまた再開できると思います。

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