第三話 陸軍の底力

「艦長!ドルフィンが交戦始めました!一隻引きつけてくれています!」


「風向変わらず!我々が有利です!艦長!」

多くの見張り員達が報告をする。このままの状態で戦闘を行えばまず白兵で負けることはないだろう。なら、どれだけ早く、兵を死なせずに接舷できるか、と言うことになる。うちの操舵手ならやってくれるだろう。


「了解!本艦進路そのまま!帆を張り増せ!敵艦に突っ込むぞ!」


「アイアイサー!」


水兵たちがロープを引っ張り、インディファティガブルが増進する。どうやら敵はインディファティガブルと同じ44門艦らしいが、風下と言うのも相まって速度が段違いだ。上の最大船速11ノットとかいう無理な要望も、頑張って通した甲斐があったと言うものだ。


「艦長!敵艦が進路を左に!ドルフィンに向かっています!」


「なっ!確かに、連中からすればわざわざ孤立して不利な戦いを挑むよりかは一隻でも拿捕して戦力を削ぐのが妥当か……ならばこちらも追いかけろ!ハード・スタボー面舵いっぱい!」


「ハード・スタボー・サー!」


「艦長!ドルフィンが接舷しています!」

ドルフィンにも一個中隊が乗り込んでいる。恐らく一対一では負けることはあり得ないだろうが、一体二では少し怪しい。


「もっと速度を出せ!追いつかれる前に接舷するぞ!」


「艦長!もう少しで射程圏内に入ります!」


「右舷砲戦よーい!急げよ!あれ?メイベル、司令はどこだ?」

俺は敵艦やインディファティガブルのことに夢中で気が付かなかったが、そう言えば後甲板にいたはずの司令が消えていることに気づいた。


「え?ああ、司令なら艦長と口論した後に本艦が敵艦に進路を変えたあたりで娼婦の隠れ穴に行きました。」


娼婦の隠れ穴とは、艦が停泊中に娼婦を水兵たちの妻として乗り込ませるのだが、その時に上官たちにバレないように隠す。その隠し穴が船首にある娼婦の隠れ穴という空間のことで、この穴倉は喫水下にあるため、海戦中砲弾も飛んで来ず、かつ見つけにくいので艦で最も安全な場所と呼ばれている。


「くそったれが!船隊司令なら司令らしく甲板に立って指揮しろよっ!!!」

俺は悪態を吐いたが、そんなことしても何にもならないと頬をたたき、指揮に戻った。


「艦長!砲戦距離入りました!いつでも撃てます!」


「了解!右舷、てーっ!」

士官たちが号令をかけ、インディファティガブルの右舷が白煙に包まれる。艦内が轟き、敵艦からは鉄の砲弾がバリバリバリと敵の船体を食い破る音がした。だがそんなことを考えているのも束の間、直ぐに敵艦が撃ち返した。しかし、先ほどの砲撃で心の余裕というものがなくなったのか、標準がかなりブレており、おかげで被弾は数発程度に済ますことができた。


「次弾装填急げ!それと白兵戦用意!甲板に並ばせておけっ!」

海兵隊と陸軍の2種類の派手な赤服レッドコートが甲板に整列する。陸軍の赤服達はようやく活躍ができると待ちきれない様子だった。まあ、艦上生活で輸送されるだけだと、体もろくに動かせないからしょうがないだろう。



「よし、ハード・スタボー面舵いっぱい!乗り込めぇっ!」


操舵手が思い切り舵輪を左に回し、艦は敵艦と衝突まであと少しと言うところで旋回を止めた。


「かかれっ!」

エドワードが中隊に号令をかけ、白兵隊と共に乗り移る。残念ながら今回は能無し司令が俺がいない間に何をし出すかわからないため、俺は艦に残る。


「艦長!ドルフィンと交戦中の敵艦が旗を降ろしています!あっ!アルビオンに変わりました!」


「よし!勝利の女神は我らに微笑んだぞ!その調子で行けっ!」

俺は届いているかはわからないが、敵艦に乗り込んでいる味方に向かって大声で叫ぶ。


数十分も経つと、ガリアは上級士官を次々と討たれ、降伏を申し出た。


「ありがとうエドワード。俺たちが勝てたのは君のおかげだ。」


「こちらこそ、ありがとうございます。我々への被害を減らしてくれていたのでしょう?」


「まあな。それと、アルフィーで良い。タメで話してくれ。」


「ありがとう、アルフィー。それじゃあ僕のこともエドって呼んでくれ。」


「おう、これからもよろしくな。エド。」


2度目の握手は、1度目よりも堂々とした力強いものだった。



__1795年2月4日(日)、リトル・アルビオンブルターニュ半島沖


インディファティガブルでは、各艦長や戦闘に参加した上級士官たちが席を並べ司令の開催した会食に参加した。


「いやあ、よくやってくれた!おかげで私の懐もホクホ……あいや、なんでもない。と、ともかく諸君、よくやってくれた!私が期待した通りだよ。好きなだけ食べたまえ。」


俺たちが命をかけて戦っていた間に自分は一人で船倉に引きこもっていたくせに何を言っているんだこの無能が。


全員の心は憎しみを以て一つとなったが、会食では今まで手をつけてこなかった鶏などを屠殺して作られたローストチキンなど、豪華で美味そうな食事が並べられ、その点にだけは全員が感謝した。



「アルフィー……いや、この場ではアルフレッド艦長の方がいいかい?」


「いやまあ、好きにしてくれ。それよりどうした?早く食べろよ。せっかく珍しく司令がご馳走を用意してくれたんだ。みんながとってっちまうぞ?」


「もともとローストチキンは好みじゃないんだ……ところでだが、あのブロンドの女の子の士官候補生いるだろ?」


「あ、ああ……ミス・サンドウィッチのことか。それがどうかしたか?」

ソフィアのことなら少しマズイかも知れない。一応彼女はお忍びで海軍に入っているので、彼女の正体について知っているのはインディファティガブルでも上級士官だけだ。なら本名で大丈夫なのか?と、思うかもしれないが、ソフィアは皇帝陛下の箱入り娘だし、ソフィアという名前は割とその辺にいる。流石に苗字はバレてしまうので海軍大臣の苗字を借りて、サンドウィッチと名乗っている。


ちなみに司令はよく誰もいないところでソフィアに媚を売っている。よほど皇室に気に入られたいらしいが、当の本人は

「あんな人によくされても何も嬉しくありません!アルフレッド様なら別にいくらでも養うんですが……」と、愚痴(?)っていた。


「いや、言おうか迷っていたんだが、こないだ司令が彼女にもの凄い胡麻を擦っていたんだんだが、もしかしてすごい人なのか?」

あの能無しがぁっ!!!!!!なにしれっと見られてんだよ!!!!


「……まあ、お前を信頼して話そう。ちょっと艦長室に行こう。」


「あ、ああ……」

そう言って俺は旧副長室へ向かった。ちなみに艦長室は基本何があっても譲ることはないが、上官だけは別だ。その為俺の艦長室は今は司令の部屋となっている。


「そ、それは本当なのか?!あの少女が皇帝陛下の娘?!」


「ま、ここの乗員はみんな清潔だから皇女殿下が混じっても気付かれにくいわな……」


翌日行われたふくろう党支援作戦は成功し、カトリック王党軍とふくろう党は互いに合流。革命ガリアへの大きな反乱勢力となり、ガリアを苦しめるのだった。


______________________________________


なんとか作戦を成功させたアルフレッド!しかし、休息の暇もなく、地中海艦隊に編入されたインディファティガブルは無事に生き残ることができるのか!


誤字の訂正、応援コメント、何でもください!

いいな、と思ったらフォローや星、ハートもよろしくお願いします!


次回、未来の英雄 お楽しみに!

※明日と明後日は海われ関連の新小説を投稿させていただきます!お楽しみに!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る