第37話 決着

 魔王との戦いが始まって少し経つが、私たちの基本性能が高いおかげか今のところ作戦通りに進んでいた。確実にダメージを与えている私とフォカプの攻撃に対し少々のイラつきを感じられるが、凱旋天門の効果範囲内ではブレンク君を無視できないのか攻勢に転じきれていない。しかしそのまま順調にいくわけもなく。


 「小癪なッ……!!」


 「ッ……!」


 魔王がブレンク君を無視してこちらに突っ込んできた。ブレンク君はそれを阻止しようと魔王を切りつけ、多少の傷をつけるがお構いなしにこちらへ突っ込んでくる。後衛の排除を最優先にしたようだ。


 「貴様から潰してくれるッ!」


 『神想封過!!』


 「フォカプッ!下がるよ!」


 魔王を閉じ込め距離を開ける。続いて攻撃に転じようとするが、何やら力みだした魔王の放出した衝撃波によって私の結界が破壊される。そのまま私たちの方へと来ようとするが、結界により若干の時間が稼げたおかげかブレンク君が魔王の前に立ちはだかる。多少の問題はあったが、問題はなさそうでよかった。もうそれなりに距離は離せたし、あとはブレンク君の離脱を待って魔法を浴びせればさっきの流れに戻せる。そう考えていた思考は、隣から発射された魔法。正確に言えば、フォカプが放った魔王をつらぬいた特級魔法によって遮られた。



 『特級魔法・月光の刃櫛風ルーナ・ヴェントゥス


 「…………え?」


 「ガァッ……!」


 「グッ……」


 驚く私をよそに放たれたその魔法は魔王と私たちの間にいるブレンク君の左腕を根元から吹き飛ばし、そのまま魔王に直撃した。流石というべきか、その体を貫通こそしなかった魔王だが、魔法が直撃した胸部が大きくえぐられ、後方に吹き飛ばされていった。


 「な、なにやってるのフォカプ!?」


 そう詰め寄る私にフォカプは極めて当然であるという風に言葉を返す。


 「最小限の、犠牲で……魔王に致命傷、を、与えた。部位欠損程度、であれば。上級聖術、で治せる……違う?」


 「いや、違わないけど…………」


 そう言いながら片腕を抑えているブレンク君に上級聖術を飛ばす。すると、すぐに腕が再生した……のはいいのだが、腕が治ったブレンク君はこちらに近づいてきて、フォカプの胸ぐらをつかむ。その身長差からフォカプの足が地面から離れプラプラとしているが、気にせずブレンク君は怒鳴りつける。


 「おい!!どういうことだ!!?」


 「だから……魔王に、致命傷を与えた……」


 「なにをッ……!」


 「ま、まあまあ。とりあえず今はほら…………魔王の討滅が最優先でしょ?その続きは後でじっくりやろうよ。ね?」


 「チッ……」


 ブレンク君が乱暴にフォカプから手を離すと、私は念のためフォカプとブレンク君の間に入る。そして、私たちはそれぞれ魔法の準備をする。先ほどとは違い魔王はかなりのダメージを受けているので、避けられる心配はせず、それぞれの最大火力を叩き込む。


 『月光の刃櫛風』


 『聖光の天昇ルクス・シーラム


 「…………え?」


 私の魔法は魔王に直撃し、魔王に少なくないダメージを与える。そしてフォカプの魔法は─────


 「………な、にを……?」


 そういう私はもう助からないだろう。ダメなところを貫かれた。かろうじて右腕を持っている剣ごと吹き飛ばされただけですんだブレンク君はフォカプに殴り掛かるが、剣を持たない剣聖などたかが知れている。バックステップを踏んだフォカプに躱され、その身を焼き尽くされる。先ほどから自分にヒールをかけ続けているが、延命するのだやっとだ。ブレンク君を殺したフォカプは、特級魔術で魔王を殺し、最後に私に振り向く。


 「まだ、生きてる……の?さすが、せいじょ」


 「あ…………なん、で……」


 そうこぼす私が最後に見たのはフォカプの手からこぼれた攻撃魔法の光だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る