第16話 少女リリーの過去話 その3

 魔王討伐を決意した。そうと決まればさっそく出発だ。そう思い王都を発とうと門から出ると背後から声をかけられる。


 「あらリリーちゃん。どこに行くのですか?」


 振り向くと姉さんと同じ勇者パーティーにいた賢者の女性が立っていた。名前は……なんだっけ?いや、そもそも名前を知らなかった気がする。


 「…ッ!」


 ん?なんだろう、一瞬賢者さんの顔が引きつった気がしたけど……。


 「ええと?…………賢者さん?」


 「プルチネです。よろしくお願いしますね」


 プルチネさんというらしい。なんだか優しそうな人ではあるが、何の用だろうか。


 「えっと、プルチネさん?何か御用でしょうか、私は今急いでいるのですが……」


 そう言うとプルチネさんはあきれたような顔をして口を開く。 


 「自殺をするのにそんなに急ぐ必要があるのですか?」


 「…………ッ!」


 驚いた。私とこの人はほぼ初対面だと思うのだが……心でも読んだのだろうか?そんなことを考えているとプルチネさんは言葉を続ける。


 「申し訳ありませんが、あなたには生きていてほしいのですよ」


 「断ったら?」


 「力ずくで抑え込みます」


 うっ……笑顔の圧力が……。そもそも何でそこまで私にこだわるんだよ。ほぼ初対面のはずだろう。


 「………なんでそこまで私にこだわるんですか?そもそも助けられたところで、私にこれからどうしろっていうんですか?今まで通り漠然と人を助けるだけの毎日を送って教会で暮らしていけと?」


 それは嫌なのだ。なんというかこう……姉さんという目標を突然失ってしまったせいか、さっき変なことを考えてしまったせいか知らないが、以前のように何の見返りもなしに人を助けることが偽善なのではないかと思えてしまうのだ。


 私は精神が弱いのかな……?


 姉さんのためならほかの人が多少死のうがどうでもいいと考えてしまった自分が今更人のために尽くして上っ面だけ取り繕ったところで多分姉さんのようにはなれない……。


 危ない。涙が出そうになった。人前でいきなり泣くなんて恥ずかしい……子供じゃないんだから。



 …………いや、10歳は子供か。



 遅まきながらも溢れ出る涙を何とか手で抑え込んでいると、突然プルチネさんに抱きしめられる。


 「行くところがないならうちに来ませんか?」


 「……え?」


 「そうですね……あなたが聖女になれるまで、私が面倒を見てあげましょう。もう勇者パーティーに入る予定もないですしね」


 「え?ちょっと待ってプルチネさん」


 「あ、それと私のことはぜひ師匠と呼んでください!あこがれてたんですよ師匠って呼ばれるのに」


 「え、待ってそれはほんとに意味わかんない」




 こうして、少女リリーは賢者プルチネの弟子になった。

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