第15話 聖女リリーの過去話 その2

 姉さんが魔王討伐の旅に出てから半年が経過したが、その旅路はすこぶる順調なようであった。その快進撃は王都まで轟いており、この前最後の四天王を討伐したらしい。姉さんのほかにも今回のパーティーは勇者と賢者も過去の代より数段優秀で、剣聖もなかなかやるようだ。


 巷では歴代一、二を争うパーティーだと噂になっている。


 魔王討伐を始める前に一度こちらに戻ってくるということなので、久しぶりに姉さんに合うことができる。本当は次に姉さんに会うまでに聖女になりたかったけど、やはり特級聖術は群を抜いて難しい。しかし、姉さんに恥じないようにあれからそこそこの数の人を助け、感謝されてきた。


 なんにせよ、姉さんに会うのが楽しみだ。







 ──────楽しみ





 帰還した勇者パーティーに聖女はいなかった。いや、この場合帰還ではなく敗走と言い換えてしまえるね。


 王都に戻ってきた勇者パーティーはボロボロだった。どうやら帰還の途中に魔王本人から攻撃を受けたらしいのだ。


 戦いが始まってすぐに勇者は勝てないと判断、囮をかってでた聖女に足止めを任せ帰還したのだという。


 いや、わかる。わかります、わかるとも。冷静に考えて特級職相当三人を生かすために特級職一人を犠牲にするのは正しいよね。戦力的にも命の価値的にも。…………だから私のこの納得ができないという感情はただの身内贔屓でしかないんだと思う。


 この感情はよくない。暗い。黒い。聖女に似つかわしくない。駄目だ…………、なんて、思っちゃいけない。私は姉さんのためにも、人を助ける清く正しい聖女にならないと。



 ─────にしても、命の価値、か。そんなもの、どうやって決まるのかな。死ぬまでに稼ぐ金貨の数?死ぬまでに助ける命の数?それならば姉さんはぶっちぎりのはずだ。姉さんほど優しく、強い人を私はほかに知らないし。


 ………………一人一つ分の価値?おそらく世間一般から見ればこれなのだろう。だとすれば、だとすればだ。もしかして私が今まで考えていた以上にこの国、いやこの世界における命の価値は軽い…………?


 姉さんのような何人もの人を助けて、優しくて、かっこよくて、美人な人が切り捨てられるのだから…………。


 いや、論点がずれてきちゃってるかもしれない?もういいや、なんかもう…………考えるのが猛烈にめんどくさくなってきた。



 それよりこれからどうしよう。齢10にして唯一の家族を失ってしまった…………魔王討伐なんてどうだろうか?いいじゃないか。勝てれば敵を討てる。負けてもそれまでだ。特級よりまだ量産可能な上級職が一人減るだけ。

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