第17話 賢者プルチネの独白

 賢者プルチネは勇者パーティーに選ばれた。


 それ自体は別に驚くことではないです。もちろん勇者パーティーに選ばれることはすごいことですが、今の賢者の中では私が一番歴が長いので。やっぱりねって感じです。


 ところで、私は昔から他人と距離を詰めるのが少し苦手でした。別にコミュニケーションは取れるのですが。ほら、初対面の人と世間話をするのと、距離を詰めるのとではなんだか少し違う気がしませんか?


 まあそんな私にも勇者パーティーに入ったことで初めて親友と呼べるような存在に出会うわけですが。まあはい。そうです。聖女フレイヤのことです。






 「やあやあプルチネちゃん。こんなところでどうしたんだい?」


 四天王を全員倒し終え、一旦王都に帰ろうということで帰路につき始めて二度目の夜。もうすぐ王国の領土なので野営地から少し離れて考え事をしているとフレイヤが話しかけてきた。


 「フレイヤ……少し考え事をしていただけですよ。王都までもう少しですし」


 「お、いいねえ。旅の思い出でも語り明かすかい?」


 なんてことを言ってくるフレイヤに少しあきれながら答える。


 「あのですね?私たちは別に旅行に行っていたわけではないのですから、思い出も何もないでしょう」


 「戦いばっかりだったからねえ」


 「ええ、そうですよ……ほんとに」


 するとフレイヤは少し考えるそぶりをした後、何やら真剣な表情で話し出す。


 「ねえ、プルチネはさ、この戦いって正しいと思う?」


 「正しい……とは?それは他者と殺しあうことが正しい行いかどうかとかの話でしょうか?」



 「いやいや、そういうことじゃないよ。時と場合によっては他者と争うことも仕方ないことだと思う。悲しいけどね?それはそれとして……こう、魔族は本当に純粋な悪なのかって話だよ。もちろん人間とは違う部分も多いけれど、話ができるなら話し合うべきなんじゃないかな?」


 「もちろんそれができればいいですが、攻撃を仕掛けてきたのはあちらの方でしょう?話し合って何かが変わるのですか?」


 そう問うと、フレイヤは再び考えるそぶりをして


 「そうなんだけど……こう、むしろ魔族の方が人間に恨みを持ってるような感じがするというか………」


 「なる……ほど?」


 ちょっと難しい話になってきましたね。フレイヤの話が正しいならば、人間は気の付かないところで魔族の機嫌を損ねている……とかでしょうか?




 そんなことを話していると、野営地の方から突然爆音が響いてきた。


 「「ッ!!」」


 私とフレイヤはすぐさま戦闘態勢に切り替える。爆音に反応したのではない。爆音の一瞬前に吹きすさんだ膨大な魔力に反応したのだ。


 「プルチネッ!」


 「はい!わかってます」


 急いで音がした方へ駆け出した私たちは勇者ブレイブと剣聖ユクルが一人の魔族と対峙しているのを発見した。いや、断言していいだろう。この魔族が……魔王だ。



 私たちが合流したことを確認したブレイブがすぐさまいつもの陣形を作る。今まで何度となく組み、四天王たちすらを屠ったそのフォーメーションによる攻撃は…………魔王に多少の痛痒を与えるだけにしかならなかった。



 確実にダメージを与えてはいる。いるのですが、圧倒的にこちらの消耗の方が早い。


 「撤退するぞッ!!」


 故に、勇者が撤退の判断を下すのにそう時間はかかりませんでした。


 「わかりましたが、殿は誰がッ…………」


 そう言いながら気が付きました。あ、これ私が適任ですね。まず、勇者は論外です。ユクル君では…………少し実力不足でしょうし、フレイヤほどの才能をここで散らすのは持ってのほかでしょう。



 同じ考えに至ったのかブレイブが申し訳なさそうに私を見る。 


 まあ仕方ないですね。やってやろうではないですか。そう思い気持ちを固めたところで横から叫び声が聞こえた。


 「殿は私がッ!みんなは早く逃げて!」


 …………え?


 「フレイヤ!?何を!」


 「いいから!」


 「でもフレイヤはここで死ぬわけには……」


 そういう私をフレイヤは手で制する。


 「あいにくと、親友を見殺しにするくらいなら私が戦う派なんだよね」


 「それは私もッ!」


 「ああ、そうだ。妹を……リリーを頼んでいいかな?」


 そして目が合う。その目を見て……悟る。これは説得できない。本気だ。であるならば私がすることは一つだろう。


 「わかりました!妹さんは任せてください!!」


 そう言って走り出す。








 その数日後、私は実に半年ぶりにフレイヤの妹であるリリーちゃんに出会いました。


 「あらリリーちゃん、どこに行くのですか?」


 久々に見る彼女の顔は見るからに憔悴していて、けど確かな覚悟がその目にともっていて、思わず悲鳴を上げてしまいそうになるのを必死に抑え込んで彼女に話しかけました。



 多少無理やりにでも弟子にできたのはよかったのでしょうか。まあ、面倒を見る理由ができますし、いいですよね。

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