第10話 剣聖ジョーク
一瞬、目の前の剣聖が何を言っているのか理解できなかった。しかしそれも一瞬で、すぐに言葉の意味を理解する。言葉の意味は、だが。
「剣聖ジョークか何かですか?」
「いや、純然たる事実だよ。ついでに言うのであればこのままこの街を滅ぼしてしまおうと思っている」
まったく、胡散臭いのは笑顔だけにしてほしいものだ。急に出てきたと思ったら妙なことを口走りだした剣聖に私はさらなる問いを投げかける。
「はぁ、仮にそれが事実だったとしてなぜそれを私に言ったのですか?私たちってそんなに仲良くないでしょう。というか、何のために、どうやってそんなことができたのですか?」
「それにこたえる前に聞いておきたいんだけど、君は今この国で行われ続けている勇者パーティーの制度についてどう思ってる?」
これまた答えにくい質問を……まったく、本当にやめてほしい。いっそこいつをこの街から追い出した方が楽なのではないだろうか。私の脳と本能が面倒な香りをビシビシ感じ取っている。
「ちなみに僕は、まったくの無駄と思っているよ。魔王に勝てたことどころか四天王にもめったに勝てない。今まで37組いた勇者パーティーのうち、その時の四天王を一人でも討伐できたのはわずか6組だし、魔王の前まで行けたのはたった2組だけだ。ちなみに全滅した勇者パーティーの数は30組。こんなの続けても人類に勝ち目はないと思わないかい?おそらく今回の第38期勇者パーティーも負けて終わるだろう」
ふむ、驚いた。思ったより踏み込んだ話をしてきたこともそうだが、私と似たような考えをしていることに、だ。これは結構真剣に話をした方がいいのではないだろうか。
「なるほど、それは私も考えていたことですが、だからと言って私たちに何ができるのですか?まさか人類を裏切って魔王につくべきだ、とでも?」
「まさしくその通りだね。人類はこのままでは勝てない。ならいっそせめて魔王に保護してもらえれように向こう側につくのが賢いと思わないか?」
「それを前回勇者パーティーだったあなたが言うのですか……」
「前回勇者パーティーだったからだよ。断言しよう、今存在するすべての特級職。剣聖二人、聖女三人、賢者二人に国選抜の勇者一人が全員で行っても魔王には勝てない。いや、魔王と八対一の状況になれば希望はあるが、あっちには四天王もいる。まず無理だろう」
「……はっきり言いますね」
「そうだね、そもそも特級職を小分けにして死地に向かわせている国の人間は人類の力を過信しすぎだよ」
どうしよう、この剣聖の考えと私の考えが一致しすぎて怖い。これ冷静に第三者視点から見れば全人類への裏切りだよな……
ただ、この剣聖と私で一つ明確に違っている点がある。それは魔王につくか、人類側で死ぬか、だ。
「剣聖様、私もそれについては重々承知です。ですが、私はもし死ぬのならば人類側で死にたいので、魔王軍への勧誘などでしたらお引き取り下さい。大丈夫です。このことは誰にも言いませんから」
そう答えると剣聖は少し残念そうな、不機嫌そうな顔をして踵を返し教会の出口の方へと向かう。
「そうか……死んだお姉さんも浮かばれないな」
しかしそう呟いた剣聖の言葉は私には決して無視できないものであった。
「待ってください、姉さんが浮かばれない?魔王側について人類を虐殺でもすれば姉さんは喜ぶとでも?本気で言っているのですか?どうやら同じパーティーにいても交流はあまりなかったようですね」
そう言うと剣聖が振り返りこれに答える。
「逆に、大切だった妹が早死にして喜ぶと?彼女は戦いの中で力及ばず生き残れなかったけど、その意志ぐらいは尊重してあげたかったんだけどね」
「黙りなよ」
私は珍しく怒りをあらわにし、この剣聖をにらみつけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます