第11話 激おこ

 私は珍しく怒りをあらわにし、それを目の前の剣聖にぶつけていた。


 「君が言ってることは君の想像だろ?事実じゃない。まず私の姉さんは人類を裏切ってまで生き残ってほしいと願うような人じゃないし、そもそも姉さんが死んだのは無能な君たちが足を引っ張ったからだろう?姉さんの力が及ばなかったわけじゃない」


 「ほう……思っていたものではないけど、やっと君の本音を聞けた気がするよ」


 そう言って嬉しそうにする剣聖にわずかに苛立ちを覚える。


 「そんなことよりも訂正をしなよ。姉さんはあの勇者パーティーで一番優秀だった。歴代最高の聖女だった。足を引っ張って優秀な人を殺してしまって申し訳ありませんって謝りな?」


 「ふふふ、訂正はしないよ。君がどう思っていようが彼女が死んでしまったのは事実だからね」


 つくづく人の神経を逆なでするのがうまいやつだ。やはり私とは全然違うな。正直魔王軍につくのはそれほど責めようと思わない。仕方ないとすら思える。しかし、姉さんを馬鹿にするのはいただけない。



 「そんなに私と喧嘩がしたいの?あなたは私を勧誘に来たのではなかったかい?」


 そう言いながら魔力を手に集中させる。


 「喧嘩をしたいとは思っていないよ。勧誘は失敗してしまったから君にへりくだる必要がないってだけさ」


 「別にへりくだられてはいなかったと思うんだけど」


 そう言いながらさらに魔力を練る。


 ───特級聖術はいつでも出せる。


 


 「ふむ……魔王軍のためにここで聖女を一人殺しておくのも悪くはないかな」


 剣聖がそう口に出したのを合図に聖術を放つ。


 『特級聖術・聖光のルクス───』


 「師匠!!!」


 その叫び声が聞こえた瞬間、私は急いで魔力を霧散させる。


 「師匠!今がどういう状況かわかりませんが、こんなところでっそんな技を使ったら危ないですよ!教会が壊れちゃいますよ!」


 いつの間にか寮の廊下に立っていたエルナが慌てた顔で私に駆け寄る。


 「ああ、そうだね。ありがとうエルナ」


 そう言いながら駆け寄ってきたエルナの頭をなでてやる。



 そして、そんな様子を面白くなさそうに眺めていた剣聖ユクルに視線を向ける。


 「ユクル、この話の続きは今夜、魔物の領域とこの辺境の境目にある森でするとしよう。いいね?」


 「………………いいでしょう」


 「助かるよ」


 そう言うとユクルは踵を返し、今度こそ帰っていった。


 そういえば、エルナが来たことにより思い出したことが一つある。私はエルナを結構大切に思っているということだ。



 実はユクルがこの町を攻め滅ぼしても逃げればいい、と思っていたりしたのだが、エルナは優しい子だ。確実に街に残るだろう………残るよな?仮に残ったとして、この町はどうなるだろう。仮にも剣聖と魔獣の群れ、冒険者たちだけで守り切るのは…………少し厳しい。そうなるとエルナは死んでしまうかもしれない。それは防ぎたい。そもそもユクルはすでに人類の敵であるため、それだけで討伐する理由になりえるだろう。


 そして何より、あいつは姉さんを馬鹿にした。それは許せない。



 ……………よし。理由としてはこんなところか。これだけの理由があればいいだろう。






 ────剣聖ユクルを殺そう。

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