第46話 知らぬが仏
リリーが魔王討伐のパーティーとの顔合わせのために王都へ向かった日、エルナはもはや日課となった冒険者ギルドに顔を出していた。
「お、エルナちゃん。今日も来てくれたんだな」
「はい!」
もう魔物の量は普段と同程度に落ち着いていたが、習慣になってしまったので傷ついた冒険者を治しに来ている。この町の冒険者さんたちはよくしてくれてるし、人の役に立てるのはうれしい。
「エルナ!エルナという者はいるか!」
バンッと扉を乱暴に開けて入ってきた騎士風の人が私の名を呼ぶ。呼ばれたからには返事をしなければならない。
「は、はい!私ですけど……」
「ふむ、そうか、貴様には王都召集の命がある。さっさと準備をするんだ」
王都に召集……?なんだろう。あ、でも師匠に会えたりするかも。ちょっと楽しみだなぁ……
「はい!わかりました!」
※
────現在
『神想封過!』
人造賢者に向けて放った私の聖術が避けられる。どうやら先ほど閉じ込めたことで警戒されてしまったようだ。いかに私といえども特級聖術を連発しても余裕があるほどの魔力は持ち合わせてはいない。そのためリソースを少し節約しながら戦っているのだが。
「ッ!!」
相手の放った上級魔法であろう攻撃を避ける。さっきから私の特級聖術を避け、攻防の合間に上級魔法差し込んでくるなどこいつなかなかにうざい………いや、認めよう。強いのだ。ニョーラ氏が改造手術で超強化でもされたのか知らないが、私の想定よりも数段強い。
だが、倒せる。これまでの数分の攻防でそう結論付けた私は多少無理やりにでもこいつを倒してしまうことにして思考を切り替える。
『凱旋天門』
実はさっきから凱旋天門のバフとデバフはかけられていた。しかしそれは姉さんが使った凱旋天門が私にまで効果をもたらしていただけだ。そして今度はその上から私が凱旋天門を使う。魔力によって作り出されたバフとデバフを撒き散らす門が二つも顕現するというなかなかお目にかかれない光景が展開されているが、そんなものを眺めている暇はない。重要なのは今私と相手には凱旋天門二つ分のバフとデバフがかかっているということだ。
「二つ同時はちょっと強すぎるな………」
今の私には目の前の人造賢者の動きが遅く感じられて仕方がない。これ、姉さんの方も自力で解決できるレベルなんじゃないだろうか。
凱旋天門は他の特級聖術と違って発動中は常に魔力を消費してしまうので、早めに決めてしまおう。私にはルーズフェルタみたいな果てしない信仰心からくる継続力は無いのだ。
「せいっ」
バフに頼りに頼った身体能力で人造賢者に肉薄する。神想封過は使わない。使う必要がないし、魔力もそんなに使いたくない。そのまま超至近距離で人造賢者に手をかざし、相手が範囲外に逃れるよりも早く聖術を起動する。
『聖光の
私の眼前に立ち昇った白熱の光に人造賢者を包む。数秒後、その凄まじい光を放つ塔が消えた場所にはやはり何も残らない。だがこれで終わりではない。姉さんの方はどうなっているか見に行かないと。そう思い姉さんの方に目をやると、丁度決着がつきそうな場面であった。やはり凱旋天門二つ同時展開が強すぎたのか、姉さんが一方的に押しているが火力が足りていないようだ。
「よし、じゃあとどめは私が」
そう思いエルナのそっくりさんに攻撃をしようとしたその瞬間、隣にそびえ立つ王城が─────爆ぜた。
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