第20話 勧誘

 いきなり来て妙なことを口走る賢者フォカプに驚愕しつつも、思ったことを口に出す。


 「魔王を討伐って……もっと詳しく説明してくれないと全然わからないのだけど」


 そういうとフォカプはコテン、と首をかしげて答える。


 「そのままの……意味。魔王を倒すから…………一緒に行こう。……聖女リリー」


 魔王を倒す、ねえ。


 「ほかにやるって人はいるの?」


 「剣聖が……一人」


 話にならないな。それだけの人数で何とかなるなら勇者パーティーの意味がないじゃないか。


 「次の勇者パーティーにでも入れてもらえばいいんじゃないかな?君は強そうだし、王に進言してみるといいよ」


 そう言って席を立ち、エルナを連れて店から出る。


 「よかったんですか?師匠」


 そんなことをエルナが聞いてくる。


 「よかったって、何が?」


 「いやほら、あの子を一人にしてよかったのかとか、魔王討伐に一緒に行かなくてよかったのかとかですよ。もう少し話を聞いてあげてもよかったんじゃないですか?」


 「ああ、その話か」


 そう言いながら一瞬自分の過去に思いをはせる。


 「いいかい、エルナ。この国の王はね、魔王は討伐できなくてもいいと考えているんだよ。バランスをとるためなんだと。あまり魔王討伐に戦力を割きすぎると隣国に攻められるかもしれないからね。適度に削るために戦わされるのが勇者パーティーってやつだ」


 私がそう言うとエルナの眼が驚愕に染まり、次いで何かに思い至ったのか私に確認をしてくる。


 「それは……師匠の妄想とかですか?現状から見てそうとしか思えない……的な」


 「いいや、おおむね事実だよ。国王本人から聞いたからね」


 「そんなッ…………!じゃあ勇者パーティーは……人柱、のようなものってことですか……?」


 前から思っていたが、この子は優しいな。現状に本気で心を痛めているのが表情から伝わってくる。聖女の才能があるな。いや、関係ないか。私みたいのが聖女になれているのだし。


 まあいい。今はとりあえず私も本心を吐き出すとしよう。


 「勇者パーティーって制度……本当に度し難いよね。」


 「……はい」




 「エルナ、何かを変えたいなら力を蓄えるといい。力なら何でもいいんだよ。今は聖女になるのが理想だけど、最悪財力や権力でも」


 するとエルナはなんだか嫌そうな顔をしてため息交じりに答える。


 「力で何とかするのは悪い大人って感じがして嫌ですね」


 「ふふ……ああそうだ。今度ピンチに陥ってみるのはどうかな?」


 「……待ってください、話の脈絡がなさ過ぎて怖いです」


 まったく、エルナは理解力がない。


 「え、今内心で馬鹿にしました?」


 「してないよ?」


 「ほんとですかぁ?」


 ジト目でにらまれる。


 「というか、ピンチ云々はどういう意味なんですか?」


 「あれだよ、ピンチに陥ったり覚悟がばっちり決まったりすると特級の技が使えるようになることもあるんだよ。もちろん人によるけどね。」


 「へ~、そうなんですか」


 ん?もしや信じてないか?


 「いやいや、ほんとだからね?」


 「わかりました。覚えておきますよ」








 その数日後、勇者の欠けた勇者パーティーが王都に帰還したのだった。

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