第19話 ファンとの邂逅
私はエルナと町の中を歩いていた。二人で出歩くのも久しぶりである。
「にしても、上級聖術なんていつ使えるようになったんだい?」
「使えるようになったのはつい最近です。まあ、まだ詠唱がないと発動できないのですが……わふっ」
とりあえず頭をなでておくことにした。嬉しそうな顔でされるがままになっているエルナ……かわいいじゃないか。
「あ、ここです!ここに入りましょう!」
一緒に町を歩いていると一軒の喫茶店?の前で立ち止まる。
いやはや驚きである。王都のような場所ならまだしも、ここのような冒険者たちが多く、それ以上に魔物が多く外にいるような殺伐とした街にこんなオシャレなお店があったとは。
その喫茶店の中に入り、席に座る。
「いやぁ、こんなお店に入ったのはほんとに数年ぶりだよ」
「実は、私もです」
そんなことを言うエルナに少しの驚きを覚える。今どきの若い女の子はこういうところが好きなのではないのか。いやまあ、私も全然若いけどね?
「まあ今回は私が師匠として奢るから、好きに食べるといいよ」
そう言うとエルナは不思議そうな目を向けてくる。
「師匠のお金はどこから出てくるんですか?私のお小遣いも師匠のお金ですよね?」
「ああ、それなら簡単だよ。聖女として教会に所属しているだけで毎月お金をもらえるんだ。素晴らしいだろう?あとは昔に稼いだ分が少しね」
そうエルナに説明しながらそれぞれ店員に注文をすませる。
ちょうど店員が引っ込んでいったところで先ほどの私の言葉を咀嚼し終えたのか、エルナが驚いた様子で少々身を乗り出して問いかけてくる。
「え……昔に稼いだ分って、師匠ちゃんとお金稼いだことあるんですか!?」
「時間がたつにつれ失礼になっていくな君は。最初の方の敬意を思い出してほしいものだよ」
「いえいえ、今も尊敬はしてますよ。それはそれとして、です」
なる……ほど?あ、ケーキが来た。早いな。
「……あなたが、聖女リリーです……か?」
「ん?」
突然声をかけられる。もしや店員に私のファンでもいるのかと思いそちらを向くとちょうどエルナくらいの背丈の女の子が立っていた。いや、訂正しよう美少女といって差し支えのない子が立っていた。私といい勝負だ。そしてその子は明らかに店員ではなかった。というか店員はケーキをテーブルに置くとさっさと引っ込んでいってしまった。
「エルナ、友達?」
そう問うと、エルナは少し驚いた顔をして。
「え、違いますよ?師匠の知り合いじゃないんですか?」
「私も知らない」
じゃあ他人じゃん。にしてもこの子は誰だろう。というよりなんで私が聖女だと知っているんだろう…………いや、知る方法結構あるな。もしや私のファンかな?
「えっと……君は誰かな?」
そう問うと、女の子は
「……初めまして、私は……賢者、フォカプ……です。あの……いっしょに、魔王を倒しません……か?」
と、答えた。
ふむ、ぼそぼそと自分に自信のない話し方は、その見た目の可愛さも相まって若干の庇護欲がそそられないこともないがここで一つ分かったことがある。
彼女は、恐らく私のファンではなく、その愛ゆえに私にわざわざ会いにやってきたわけでもないということだ。
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