第21話 命令

 勇者が死んだらしい。今代の勇者というと確か…………ブレイブだ!そう、勇者ブレイブ。まあほとんど話したことがないし他人といえば他人なんだけど……ギリギリ顔見知りか?


 どちらにしても私にとってはああそうなんだ。くらいの感想しか抱けないものだった。あと十年もすれば新しい勇者が出てくるだろう。


 しかし、それにすさまじく動揺しているものがいた。…………そう、エルナである。


 目の前にはエルナが何やら焦った様子でぐるぐると歩き回っている。朝一で部屋を訪ねてきたと思ったらこれだ。


 「ど、どうしましょう師匠!勇者様が死んでしまうなんて…………人間は負けてしまうのでしょうか!?」


 「落ち着きなよエルナ。勇者パーティーは負ける前提だって前に行っただろう?それに魔王側も四天王を三人失っているわけだから、何の問題もないよ。むしろここで攻めてきてくれれば楽に勝ててラッキーですらあるんだ」


 この説明はこれで三回目だ。かわいい弟子とはいえそろそろ鬱陶しくなってきたな。


 「それでも!勇者様が死んだのですよ!?貴重な人員を失ったことに変わりはないじゃないですか!」


 「だからといって私たちがここで慌てたからどうにかなる問題でもないだろう。まずは落ち着いてくれよ。いや、ぐるぐる回っててもいいけど自分の部屋で───」


 「師匠は危機感が足りませんよ!!!」


 だめだ聞いてない。そんなやり取りを続けていると、コンコンと私の部屋のドアがノックされる音が響く。


 「はーい」


 珍しいな、と思い部屋のドアを開けると、そこにシュワードさんが立っていた。


 「聖女様、少しよろしいですか?」


 「いいよ。それにしても珍しいね……まさかシュワードさんが私の部屋を訪ねてくるなんて。お茶でも飲んでいくかい?あと、エルナを連れて行ってくれると嬉しいんだけど……」


 そんなことをいう私にシュワードさんはすごく真面目そうな顔をする。いやまあ彼がふざけた顔をしているところは見たことがないけどそれは今どうでもいい。


 「聖女リリーへの王国帰還命令が出ています。もっと言えば……あなたは次の勇者パーティーに任命されました」


 私とエルナの顔が固まる。エルナは驚愕で、私はそれ以上の驚愕で。


 「なるべく迅速に戻るよう指示されていますので、今日明日にでも出発した方がよいかと」


 そう続けるシュワードさんをよそに私の頭は必死に考えを巡らせていた。というか、端的に言って意味が分からなくて固まっていた。


 いや、恐らく賢者フォカプが出てきたことからそのうち勇者パーティーとしてヒロイック自害をしてやるのも別に構わないと思っていた。私の望んだ怠惰で自堕落な生活も享受させてもらったわけだしね。


 いや、そんなことは重要ではない。問題はなぜ、今なのかということだ。四天王がまた出てくるのは少なくとも十年後だろうし、当然私もそのあたりで勇者パーティーが編成されると思っていたのだが。


 四天王の三人が欠けている状況で再び攻め込むなどまるで、まるで────国王が本当に魔王討伐を望んでいるかのようではないか……。

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