第12話 開戦

 私が今夜剣聖ユクルを討伐する決意を固めていると、心配そうな顔をしたエルナに話しかけられる。


 「師匠、さっきの方って剣聖様……ですよね?何があったんですか?」


 さて何をどこまで話そうか。と少し考えて、説明が面倒になり全力ではぐらかすことに決めた。


 そうと決まれば後は簡単だ。私はとびきりの笑顔を作り、努めて明るい声を出す。


 「うん、ちょっとね!大丈夫何も心配いらないよ!」


 「うわ……今全力ではぐらかしましたね師匠……」


 くそ!なぜバレた……これが長い付き合いの弊害かッ……!


 ジト目を向けてくるエルナにとりあえず重要なことだけ伝えることを決める。


 「エルナ、私は今夜ちょっと出かけるからよろしく。あと、さっきの剣聖に様なんてつけなくていいよ。何ならユクルと呼び捨てにしてしまってもいい」


 「え……え?ちょっと待ってください、もう少し詳しく教えていただかないと……」


 「さっきの剣聖が人類の敵になったから聖女として討伐しに行く。以上」


 「いやいやいや、いきなりすぎじゃないですか?全然意味わかんないですよッ!」


 まったく、エルナは理解が遅い。そんなところもかわいいのだが。


 「まず!なんで剣聖様が人類の敵認定されてるのか!そしてなぜ師匠が戦わなければならないのか!そのあたりをきちんと説明してください!!」


 「お、おう……」



 なんか今日テンション高いな……。





 そして私は結局エルナの熱量に負け、剣聖が急に来て魔王軍についたことを私に告げたこと、いくつか理由があって私がその討伐に行こうと決めたことをエルナに話した。



 「ちなみに一つ聞きたいんだけどさ、私がシュワードさんと三人で逃げようって言ったらついてくるかい?」


 そう問うと、エルナは少し考えるそぶりを見せた後私をまっすぐに見返して答えた。


 「そうですね……師匠とはずっと一緒にいたいと思っていますが、それはそれとして私はこの街が結構好きなので残って冒険者さんのサポートでもしますかね」



 ───よかった。








 さてさてやってきました夜の森。そう。ユクル君との待ち合わせ場所だ。そういえば私は男の人と待ち合わせなどしたことがなかったな……。どうでもいいか。


 具体的な場所は決めていなかったので、森の中を適当に、本当にてきとーに歩いていると。ユクルが前方の茂みからあらわれる。


 「こんばんわ。聖女リリー」


 「こんばんわ。剣聖ユクル。じゃあさっそくはじめようか」


 「ええ」


 思いのほかきちんと挨拶をされたのでそれにきちんと返しつつ、先頭を始める旨を一応伝え、戦闘態勢に入り、上級のバフ系の聖術をかける。聖術の名前は忘れた。昔は覚えていたんだが……確かブレスなんたらとかいう名前だったか。日常生活で多用しすぎてもう感覚でかけられるようになってしまったのだ。


 私がバフをかけたのがわかったのか、ユクルが動く。


 何やらかっこいい意匠の施された青い剣を抜き放ったかと思うとそのままそれを振り抜いた。私との距離はまだ三メートル以上あるためそれが当たるはずはないのだが、何やら危ないような感じがした私はその感覚に従いその場を右斜め後ろに飛びのく。


 その瞬間私が先ほどまでいた空間を何かが切り裂き、飛びのいた私の左肩も少し切られる。


 なるほど、飛ぶ斬撃……的な?あまり聞いたことはないし少なくとも上級以上の剣術だろう。さすがは剣聖といったところか。



 ……にしても肩痛いな。

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