第31話 少女リリーの過去話 その8
「こんなのが本当に上級職なのか?ちびじゃねえか」
これは、上級職である私が下級職の初心者に教えを享受させてやろうと出向いた先で言われた第一声である。いやまあ?私はこの程度の罵倒で怒ったりなどしないし、努めて冷静に答える。
「まったく、君は身長で実力が決まるとでも思っているのですか?はぁ、これだからガキは困るよ」
私が渾身のどや顔にため息を添えてそう言い放ったことで前にいるガキ……正確には私たちと今回パーティーを組む剣士のガキは顔を真っ赤にして言い返そうとするが、そのガキのパーティーメンバーであろう魔法使い風の少女が必死になだめている。うむ、この少女は見どころがありますね。これが本来あるべき私たちへの態度だろう。なおこの際、師匠があなたもガキだなどといった事は聞かないものとする。
さて、この二人は私たちと同じく二人でパーティーを組んでいるらしく、今回私たちと合同で四人パーティーとして活動する相手なのだが…………まあ大人な私には問題ないか。
「お前本当に強いんだろうな?」
マジでこのガキぼこぼこにしてやろうかな。
「同年代の友達ができそうでよかったですね」
にやにやしながらそんな見当違いのことを言っている師匠は叩いておこう。
「依頼は……ゴブリン討伐と薬草採取、うっわ簡単」
おそらく依頼は初心者二人に合わせられているのだろう。まあ妥当だが、これじゃあ普通に私たちいらないんじゃ……あ、目的地がちょっと奥の方なのね。了解です。
「じゃあ早速行こうか」
「へーい」
なんだよその気のない返事は……こいつ本格的に私を舐めているな?そして師匠よやめろ、私たちをそんな目で見るな。
そして私たちは町を出るため歩き出す。先頭は師匠に任せた。師匠が相手だとガキ剣士が比較的素直なためだ。私は変に突っかかられないために、そして私の感情を怒りの波から守るために黙ってついていくことにした。これが大人の対応というやつだ。
そして目的地に着いた。移動の間中何やらガキ剣士からささやかな口撃のようなものを受けた気がするが、余裕のスルーである。少しもイライラしていない。していないが、さっさとゴブリンをぼこぼこにしよう。
そんなことを考えながら目的地である魔族の領域の少し奥に行ったところにある森を警戒しながら歩く。対象はロクに気配も消さないゴブリンなので、私程度でも適当にバフをかければ視覚と聴覚で十分発見できる…………と、見つけた。
「ゴブリンを見つけた。この先ちょっと行ったところに小さめの広場があって、そこにいるっぽいね数は……20くらい?」
メンバーを見回しながらそう伝えると、案の定というべきかガキ剣士が声を上げる。
「よっしゃ、まずは俺たちの実力を見せてやるよ!」
「え、えぇ……」
自信満々にいう少年とは対照的に少し自信なさげな少女だが、少年に引っ張られて仕方なくといった様子で準備し始める。まあ危なくなったら助けに入るとして…………ねえ?実力とやらを見せてもらおうじゃないですか。
「何をにやにやしているんですか?」
歩いていく二人を見送っていると不意に師匠から声をかけられる。まずいな……どうやら顔に出ていたらしい。
「いやいや、だって師匠。ジツリョクを見せてくれるらしいですよ?楽しみですねぇ」
「あなた実は結構イライラしていますね?大人げないですよ?本当にあの二人が20匹も倒せると思っているんですか?バフとかかけてあげたらいいじゃないですか」
「私子供だからわかんない」
これに関しては本当だからね。私、子供だからワカンナイ。
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