第32話 少女リリーの過去話 その9

 さてさて、始まりましたガキ剣士と魔王使い少女によるゴブリン狩り。小さめの広場にたむろしている幼児程度の大きさのゴブリン相手にガキ剣士は突っ込む。そしてその後ろから少女が魔法を打つという簡単な作戦だが……うん。ガキ剣士が突っ込む意味は何だろうか……。


 まあいい。それよりも、私はこの二人は狩れて7匹程度だと思っていたのだが、思っていたよりやるらしい。今ガキの右から突撃してきたゴブリンを水平に切り払って殺したのが8匹目、その直後に少女の魔法が直撃した、少年に突撃しようとしていたゴブリンで9匹目だ。


 まあだが、さすがに体力を消耗してきたらしい。少年の息が上がっている。というか、最初に飛ばしすぎな気がするな………慎重にやってさえいればこれ倒しきれたんじゃない?


 まあ頑張った方だろう。いよいよ動きにキレがなくなってきたガキにゴブリンが四匹がかりでとびかかる。そのうち一匹は何とか迎撃するガキだったが、残りの三匹はもう少年の懐に入ってしまった。少女の魔法ももう間に合わないだろう。だが、私は間に合う。上級聖術のバフをかけた私はすぐさま少年に取りついた三人のゴブリンを屠り、息が絶え絶えの少年に告げる。


 「ジツリョク、見せてもらったよ。すごく強いね!」


 一つだけ言おう。私はイライラしてなどいない。


 急に同胞が三人も圧倒的な力で倒されたゴブリンたちは本能で少し後ずさっているが、そんなものは関係ない。私から逃げ切るならエンカウントした時点で全力ダッシュすべきだったな。わはは。


 そして瞬く間にゴブリンの群れは私一人によって壊滅した。


 「いやあ、すごかったねぇ強いねぇ少年!」


 渾身のどや顔でそう伝えると意外な反応が返ってきた。


 「やる……じゃねえか。すげぇな。」


 うむ、意外だ。実に意外だった。まさかきちんと事実を認めてくるとは。これではどや顔をキメてしまった私が恥ずかしいだけじゃないか。少し反省してこの少年の評価を少し上げる。


 「じゃあ次は薬草採取でもしましょうか。」


 そう言う師匠の言葉で思い出したが、そういえば私たちにはもう一つ依頼があったのだった。半分忘れかけていたので助かった。


 「そうですね、じゃあ探しましょうか」


 そうして各々薬草採取に勤しむ。だがまあ薬草採取なんて初心者がやるような依頼だし、別にこの手の作業になれていなくてもこなせてしまう。そのため当然といえば当然なのだが、何のアクシデントもイベントもなく薬草を集め終わってしまった。ゴブリン討伐完了以来少年が私に突っかかってこなくなったのも素早く終わった要因の一つだろう。そして、薬草が集め終わったタイミングで師匠がみんなに声をかけた。


 「さて、じゃあ依頼はこれで終わりですね。二人とも大体の要領はつかめましたか?ならさっそく村に戻りましょうか」


 その声が届きみんなが立ち上がったまさにその瞬間。師匠に……というよりも師匠と私にゾクリと緊張が走る。

 これは……まずい。なんだかすごくまずい気がする。凄まじい気配が森の奥からゆっくりこちらに近づいているのだ。


 「し……師匠……」


 突然うろたえだした私に少年と少女が不思議そうな顔を向けるが無視して師匠にどうすればいいか判断を仰ぐ。


 「……逃げましょう。今、すぐに」


 「は、はい!」


 事情を説明する時間もないし、するのもめんどくさいのでいまだに状況がつかめないでいる二人を担いで自身にバフをかけ、撤退の準備をする。


 「リリーちゃん、行けますか?」


 「はい!」


 そして私たちは極めて迅速にその場から逃げ出した。

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