第55話 国王の過去話
国王ソルトスは憂いていた。国の現状に、ではなく国の未来に。王族として生まれたソルトスは小さいころにこの国の在り方、もっと言えば勇者パーティー制度とそれ本来の目的について教えられていた。
人類は基礎スペックで魔族には勝てない。これは体の構造からして仕方のないことだ。故に攻めて攻め込まれて負けないように人類の中でも上澄みの実力者で魔族の上澄みを刈り取り、仮に攻め込まれた場合も何とか対処できるレベルに調整する。隣の人類国家に攻め込まれることを危惧して我が国の全戦力を魔族への攻撃に回すわけにはいかない。なるほどこれは安定を求めてベターだと判断された作戦なのだろう。
しかし、しかしだ。この方法では根本的な解決はもちろん。今後安定が続く方法がないのだ。であるならば、特級クラスの戦力を量産できれば解決するのではないだろうか。しかしそんなことは簡単にはできないだろう。我が国の民を犠牲にする人体実験じみたやり方もできるだけやりたくはない。であるならばどうするか。そもそも魔族はなぜ強いのか。それらを考えた結果、魔族の性質を人体で再現できればいいのではないかと考えた。ギリギリまで適当な動物と魔族を使って試し、ほぼ成功が確定したタイミングで人間に切り替えれば我が民の犠牲は最小限で済む。もちろん多少の犠牲は出てしまうが、人類の未来のためだ。
そして、優秀な研究者の協力者とともに魔族の体を使い実験を繰り返して数年、天才に出会った。その少女の名はバレバン・リリー。十数年しか生きていないにもかかわらずほぼすべての特級聖術を行使して見せ、聖女にまでなった少女だ。一人で特級職二、三人の実力を持つ彼女と研究中の人造の特級職を組ませることができれば魔王でも倒せるだろう。そうと決まればさっそく準備だ。まず彼女を王都に滞在させ、今まで国防の関係上王都やその付近に常時滞在させていた特級職を辺境に向かわせ、数年の戦闘経験を積ませる。その間に人造の特級職を実用段階にまでするのだ。
目論見通り、聖女リリーを王都に滞在させて五年後。ついに人造特級計画の一号と二号が完成した。今こそ魔族を滅ぼし、人類の戦いに終止符を打つ時だ。まずは経験を積ませた特級職達でパーティーを組み、四天王をできる限り削る。敗北前提の勇者パーティーもこれで最後だ。
目論見通り四天王を討伐してくれた。それも三人も。今しかない、一号は暴走してしまったが、二号は戻ってきてくれた。こいつと聖女リリー、それに特級の中でも優秀な二人を組ませて魔王を確実に討伐する。これで良い。これで────よかったはずなのだ。
しかし、欲が出た。魔王を討伐するだけにとどめていればよかったものの、魔王の残骸を使い、さらに強い特級職を作成することで他の人類の国すらも平定しようとしてしまった。
命じた通り二号は魔王の死体の一部を持ち帰ったくれた。聖女リリーも死んでしまうほどの犠牲が出てしまったことは予想外だが、本来の目的は二つとも達成できた。これで最強の存在を造り、我が国を最強の国家にしようではないか!
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性能に問題はなかった。元より心配はしていなかったし、当然の結果だろう。しかし、絶望的に内側に問題があった。洗脳の効きが絶望的に薄かったのだ。思えば、この洗脳方式には問題があったのかもしれない。一号なんかは暴走してしまったし、二号も決して完全に従順とは言い難かった。故にこれも仕方のないことなのかもしれない。
私と長年にわたり協力関係を結んでいた研究員たちを皆殺しにし、私に向き直った五号を見ながら自分の死を明確に自覚する。私はこいつに殺されるのだと感じながら、過去を顧みる。私の本来の目的は魔族の討滅と人類種の繁栄であったはずだ。最強の国家になろうと欲をかかなければ、二号に魔王の死体の回収を命じなければ、こんなことにはならなかっただろう。
─────いや、それも結果論か。回収しなかったのならばそれはそれで後々後悔していただろう。私はそういう人間だし………いいや、あるいはこれは人間である以上仕方のないことなのかもしれん。そんなことを考え、せめてもの抵抗をしようと生まれてこの方戦いなど一度も経験したことのない四肢で五号に立ち向かい、一秒もたたずに肉塊に変わった。
※
五号と呼ばれていた存在は目の前にいた存在を皆殺しにした後、自分のいる建物の外が騒がしいことに気が付く。煩わしさを覚えながら外に出ようとして自分がこの建物の入り口も出口も把握していないことに気が付く。
「……………」
まあ、そんなことは自分にとっては何の問題にもならない。五号と呼ばれた存在は自身の魔力を開放し、建物を内側から攻撃し破壊することで生まれて初めて青空を見る。
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