第3話 絡まれはしない
早速必要なものをそろえてしまおうと街へ繰り出した私ことリリーさんであったが、そういえばこの街の地理は全くと言ってもよいほど知らなかった。
まずいな。私は町を観光しながらいろいろなお店を回るとか言った趣味はないし、さっさと娯楽用の本と適当な食べ物でも買って帰りたいのだが。
それらを求めてうろうろしていると、人気のない場所にたどり着いた。
いや、違う。人気がないのではなくみんなに避けられているのだろう。
大通りと比べて明らかに建物がみすぼらしく、薄暗い。これはあれだ。おそらく貧民街的なあれだろう。王都にも似たようなものはあるらしいが、いやはやどんな街にもあるものだな。
貧民街といえば治安が悪いことは私も知っている。チンピラに絡まれでもすれば、か弱い美少女である私はひとたまりもないのでさっさと引き返そうとすると、後ろから声を掛けられる。
「おいおいそこのお嬢ちゃん。どこに行くんだい?」
振り返ると何やら少女が男二人に絡まれていた。少女はみすぼらしい格好をしていたので金品目的ではなく誘拐か、もしくは体目当てなのだろう。
というか、私じゃないのか……まるで振り返った私が自意識の高い人みたいじゃないか。恥ずかしい。
若干の恥ずかしさを隠すためにさっさとその場を去ろうと正面に向き直り歩き出すと、背後から勢いをつけて抱き着かれる。
何事かと振り返ると、チンピラに絡まれている少女が私の腰のあたりに必死の形相でしがみついていた。
「待ってください!シスターさん!!助けてください!!」
助けを求められてしまった。どうしよう。正直に言えばめんどくさいし、さっさと帰りたいし、街を歩き回ったにもかかわらず娯楽小説を見つけるという目的を達成できなかった今の私は機嫌が悪い。
所詮は貧民街のトラブルだろうと自分を納得させ、少女の頼みをやんわりと、そうあくまでもやんわりと断ろうとしたところで私に天啓が舞い降りる。
いやこれは聖女特有の能力にそういうものがあるとかではなく、私が持ち前の才能から天才的なひらめきをしたという意味だが。
この少女は利用できるのではないだろうか。
まず私の実績になる。チンピラに絡まれた少女を助けるなんてぐう聖ムーブをかますなんて聖女として素晴らしい実績になるだろう。その後この少女をなんやかんや協会のシスターにでもしてしまえば協会の手伝いもしてくれるだろうし……なんと素晴らしい考えだろう。
この少女の家族が唯一の懸念点だが、実に嘆かわしいことに貧民街の孤児率は高く、この子もまた一人である可能性が高い。もちろん、後できちんと確認はするが。
諸々考えたうえで、私はこの少女を助けることにした。
「おいおい、大の大人が少女相手に二人掛かりなんてかっこ悪いんじゃないの?なに?幼女趣味のおじさんたちは自分の実力に自信が無い感じ?」
思わず口からそんな言葉が出たが、なぜ私は今相手を煽ったんだろう。しまったな。完全に間違えた。今からでも取り返せるか?
「んだとぉ!?」
そう叫びながらチンピラ二人組がつかみかかってきた。これは挽回はできそうにないな。普通にボコボコにしてしまおう。
一瞬で自分に聖術の上級のバフをかける。
ところで、この世界の魔法には初級、中級、上級、特級があり、属性は火、水、風、土、聖の五属性がある。このうち聖属性の魔法の特級を関する五つの魔法のうち一つでも使えることが聖女の条件だ。ちなみに男の場合は聖王になる。
そのまま特に何か言うこともなく、向上させた身体能力にものを言わせてチンピラたちを蹂躙した。
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