第2話 辺境の村
さて、私ことバレバン・リリーさんは今ペノム村というところにいる。
結局あの後大司教を言い負かすことはできずこんな辺境まで送られてしまったのだ。なんて私はかわいそうなのだろうか。
まぁ来てしまったものは仕方がない。そんなことを考えながら村の中を歩いているわけだが。
「……ふむ。」
なんというか、こう感想としては思ったより大きな町だった。
辺境ということでここは魔王の支配する土地と最も近く、それゆえ魔物からの襲撃が最も多い。そのためそれを狩る職業である冒険所も最も多いのだが、その分魔物の素材も多く取れる。そして冒険者の町であるからなのか道具屋、武器屋、酒場が異様に多く、王都のような整然とした様子ではなく、もっと混沌とした、どことなく血の気が多い感じで栄えているのだ。
そんな街中を少し歩き、私の宿兼職場になる協会にたどり着く。
「ここか……」
うーん、可もなく不可もない。冒険者の地位が比較的高いこの町では神官のような戦いの傷を癒す役割は重要なので、教会が実は豪華なのではないか。なんて期待をしていたわけではない。そんなわけはないのだが……少しがっかり。
まぁそんなことを考えても協会がいきなり豪華なホテルになるわけではないので、さっさと協会の中に入ってみる。
「ほぉ……いい雰囲気だね」
中は外観から想像できる通り特段さびれているというわけではないのだが、人が少なく、神父らしき男が掃除をしているだけだった。
人が少ない空間はいい。静かだし、だらけていてもそもそも咎める人が少ないからだ。
そんなことを考えていると目の前で掃除をしていた男が私に気付いたのか、掃除をやめこちらに歩いてきた。
「お待ちしていましたよ。聖女リリー。私はここで神父をしております。シュワードと申します。」
その柔らかな表情をたたえた初老の男はシュワードというらしい。
「初めましてシュワードさんここはいい雰囲気だね。人が少なくて。あぁもちろんこれは褒めているだけだから勘違いしないでほしい。」
「……はい。ありがとうございます。」
うーん。これは勘違いしてるか?素直にほめてみたのだけど……まあいいか。
「ところで、私はどこで寝泊まりすればいいの?」
そう問うとシュワードさんは、こっちですと私を先導して教会の裏にある寮へと案内した。
教会で働く聖職者が使うためのものであろう寮に案内されたのだが、ここで私は一つの疑問が浮かんできた。
「ところでシュワードさん。ここにはあなたと私以外の聖職者はいるのかい?」
「……いいえ。昔はもう何人かいたのですが、今は私一人でこの教会を管理しておりますね。」
マジかよ。まぁ、あまりにも人の気配がしないものだから薄々感じていたことではあるが、ここはシュワードさん一人で回しているようだ。すごいなシュワードさん。そうか……考えてみればこの町では聖職者は冒険者になる人が多いのか。
というか、この町で私は何をどうすればいいのだろうか。魔物の領域が近いから、聖女パワーで魔物をぼこぼこにすれば教会に信仰が集まったりするのだろうか……?いや、無しだな。いろいろめんどくさい。
───ん?というか私は特に何か指示を受けてきたわけではないよな?じゃあ好きにしていていいのではないだろうか?教会の手伝いといっても、今までシュワードさん一人で管理できていたのだから私は別に必要ないだろう。
おっと、そう考えれば途端にこの異動がいいものに思えてきたぞ?
「シュワードさん。私は長旅で少し疲れたようだ。少し休ませてもらう。」
「ええ。ごゆっくり。教会の仕事については───」
「シュワードさん……これは隠しておいてもじきにバレることだからはっきりさせておこうと思うのだけどね?私に何か聖女っぽい仕事ぶりを求めているのなら考えを改める必要があるよ?」
「は、はぁ」
「私はもちろん教会のことについて多少の手伝いはするけど、あまり積極的にするつもりはないし、シュワードさんはそれを無理やり納得して、受け入れてほしい。頼むよ?」
シュワードさんが困惑している。だがこれは仕方ないことなのだ。ここで大切なことは、純然たる事実を告げるように自信をもって言うこと。腰に手を当て、胸を張りながら若干のどや顔を含ませた顔で宣言する。
あ、シュワードさんがすべてを理解したような、何かをあきらめたような顔をしている理解が速いのは年の功だろうか……どうやら私の試みは成功したらしい。さすが私。
大丈夫。社会的地位的には聖女の方が高い。多分。
さて、長旅で疲れているのは本当だし、まずはゆっくり寝るとしよう。明日はそうだな、町で適当に面白そうな本でも見つけてきて寮のベットでゴロゴロしようか。
ふふふ……夢が広がる。
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