第53話 決着?

 さて、私を殴り飛ばした爆破男を警戒しながら眺めているわけだが………


 「あれ?もしかして死にかけてる?」


 全身から湯気のようなものを出しながら私を殴り飛ばした男は息も絶え絶えといった様子であった。もしかして………さっきのが最後の抵抗だったりしたのかな。もしそうなのならばありがたいのだが───


 「ッ!?!」


 爆破男が凄まじい速度で肉薄してきて拳を放つ。上級聖術によるバフをかけて警戒していてので、何とか反応できたのだが。


 「あっつッ……!」


 通り過ぎた拳がかすった私の右肩に凄まじい熱気を感じる。どうやら原理は不明だが、全身を発熱させることで身体能力と攻撃によるダメージを上げているらしい。さっきから思っていたのだが、この男はほんとに人間なのだろうか?追い詰められた魔物か何かが最後の力を振り絞って第二形態に入ったと言われた方がまだしっくりくる。少なくとも普通の人間にこんなことはできない。バックステップで距離をとる私を追いかけようと身をかがめる爆破男にフォカプの魔法が飛び、直撃した爆破男が吹き飛ぶ。


 「………ふむ。」


 私に攻撃を仕掛けたときは二回とも凄まじい瞬発力だと思ったのだが、今のフォカプの攻撃は避けずに食らった。片手を防御に回していたから反応ができなかったわけではないと思うのだが……もしや先ほどの凄まじいまでの速度を出すには溜めか何かがいるのではないだろうか。いや、むしろあれほどのダメージを負っているのだ。いくら化け物のような男とは言え、高速移動前に溜めの時間くらいは必要にしてくれないといよいよ勝ち目がない。


 「フォカプ!畳みかけよう。相手に何かさせる隙を作らせるな!!」


 指示を飛ばしたフォカプが小さくうなずくのを確認し、私は聖術の準備に入る。もう終わらせよう。これ以上何かされるとちょっと対処できないし、何よりも疲れた。


 フォカプが爆破男にちょっかいをかけて行動を妨害してくれているうちに魔力を練る。この間私の予想が当たってくれていることを必死に願っていたが、どうやら間違ってはいなかったようで、超瞬発力による攻撃は使ってこなかった。もう魔力がない。これで決める!


 上級聖術を用い相手の懐に飛び込む。それに気が付いたフォカプは魔法の射出をいったん止め、男は迎撃態勢をとる。私の方を向いた男を改めてよく観察すると、よくもまあこんなにボロボロで動けるなという感想が出てくる。全身傷だらけで火傷もひどい。そのうえなんだかよくわからない蒸気なんかも立ち昇っていて………うん、やっぱり人間じゃないだろ。


 まあいい。こいつの正体が何であろうと、私に敵対するのであれば容赦はしない。相手の間合いに入ったことで灼熱の拳が飛んでくるが、もう関係ない。と、ここで男が異変に気付いたのか回避行動に移り始めた。まずい。避けられる。相手が後ずさり、私の焦りがさらに加速したところで爆破男の足元に飛来した魔法がその行動を阻害する。


 「ん、まかせて」


 ナイスだフォカプ!!素晴らしいアシストだ。


 『聖光の天昇ルクス・シーラムッ!!!!』


 私が行使した最高火力が回避行動を妨害された無防備な男の体を包み、その体を焼き滅ぼす。男がどういう原理かわからないが行使していた熱よりも熱くはるかに広範囲な光の柱に飲まれていく。さしもの怪物男でもこれには耐えきれなかったらしく、光が収まった時に男はすでに消えていた。



 「よっし!!」


 思わずガッツポーズをして全身を脱力させようとしたとき、そういえば当初の目的は達成されていないことに思い至る。


 「そっか、そういえば王様を倒しに来たんだった………」


 なんでこんなことをしてるんだろう。


 「フォカプ、なんで私はこんな化け物と死闘を繰り広げたんだろう。」


 「………え?しらない…」


 知らないか。そうだよな。というか、勝ったからいいものの負ける可能性も全然あったし、本当になんでこんなに危ない橋を渡ったんだろう。


 「まあ、なりゆき、とかじゃない?」


 フォカプがそんなことを言ってくる。成り行きって……………うんまあ、確かにそうだわ。と、ここで城を囲んでいた結界が解除される。見れば姉さんが魔力切れで気を失っていた。戦闘の余波など、結構な衝撃があったはずだが、それでも戦闘終了まで結界を維持して町への被害をゼロにして見せたのは流石としか言いようがない。私ならば無理だろう。というか、そんなことやりたくない。



 「て、さっさと王様を殺して帰ろう」


 そうつぶやいて、崩れた王城に向けて歩き出す。

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