第48話 賢者フォカプの過去話
─────夢を見ていた。
それが夢なのか、過去の経験なのかはもうわからない。心の底から優しそうな女の声が読み上げるのはどこにでもある物語。強い勇者が悪い竜を倒してお姫様を助けるような、そんな物語。すでに何度も聞いたような物語であるために、いやだからこそ少女はその本の登場人物に憧れる。
もっとも、お姫様の部分ではなくお姫様を助ける勇者の部分に、ではあるが。
だがその少女はもういない。しかし少女であったものが存在しているのは事実であり、歪められ、弄られた少女は───────フォカプは最強に憧れる。
◇
コポコポと音がする。それが水に浮かぶ気泡の音であると気が付いたのは自分が今液体の中にいることに気が付いたためだろう。不思議と息苦しくはないが、そんなことよりも意識の混濁がひどい。自分の過去に関するすべてがわからない。わかることといえば、会ったこともない魔王という存在になぜか嫌悪感があること。
プシュッという音がして私が液体とともに外に排出される。どうやら先ほどまで何か容器のようなものの中にいたようだ。
「成功だ!!人造特級計画二号も成功だぞ!」
目の前の男が嬉しそうにそんなことを叫んでいる。
「よし、二号よ。言葉はわかるな?お前はひとまず一号と待機だ。魔王が憎くて仕方ないだろうが、もう少ししたら討伐に向かわせてやるから安心しろ」
それだけ言われて牢屋のような部屋に入れられた。
「魔王……魔王ぅぅうううう!!!」
そんなことを叫んでいる同居人(人造特級計画一号の剣聖らしい)の男がいなければもう少し快適だったかもしれないが。しかし、待機といわれてもいつまでここにいればいいのか。そもそも私は何?人造とか何とか言われていたけど。魔王を倒すのが私の役目なのだろうか?私は魔王など会ったこともないのに言われた役目がこうもしっくり来てしまうことに言いようのない気色悪さを覚えるんだが。
ドンッ
「……え?」
急に響いた思い爆音に振り向くと、同居人の男がやたら分厚いこの牢屋の壁を破壊して外に逃げ出していた。
「…………え?」
「まおうぅぅぅううううううUu!!!!!!」
叫びながら飛び出していった男に一瞬思考が止まるが、これはいい機会なのではないだろうか?何もわからないこの状態からどうにかして抜け出したいと思っていたことだし、私も逃げよう。
「所望:この場所の詳細」
そう。まずはこの場所の詳細を知らなければならない。適当に走り回っている限りでは巨大な城を中心に形成された都市のようだが、もっと詳細が知りたい。となればやはり人に聞くのが一番自然だろう。路地裏を走りながらそう思いいたり適当な人を探す。─────いた。
「ふ、ふひひひ………そ、そんな……」
何やらぶつぶつとつぶやきながら路地裏にうずくまっている女だが、少なくとも私よりはこの場所についての知識が豊富だろう。
「疑問:少しよろしいか」
「え?」
声をかけると振り向いた女と目が合う。
「びっ……びびびびび美少女!?!?わ、私が話しかけられてますか!?」
「肯定」
「な、ななななななあ」
壊れた?
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