回想 中等部二年の五月ー演劇部ー③
中間テスト前一週間となり、すべての部活は休みとなった。演劇部の稽古も休みだ。
俺は学年十位以内を目指していた。一年生の三学期末試験は十一位だった。あと一歩なのだ。
ここまで来れたのも後にS組十傑と言われることになるメンバーで勉強会をしていたお蔭だ。
そこには
学級委員の和泉は持ち前の情報収集能力を生かして試験対策をたてるのがうまかった。無駄な努力を削ぎ落としてくれる。そんなヤツなのだ。
和泉が言うポイントをおさえれば何とかなりそうな予感があった。
そんな勉強会だったが雑談は必ずする。特に和泉と梨花はお喋りを始めたらなかなか止まらなかった。
「和泉、今度の演劇部公演、ヒロインやるのでしょ?」
「あはは、ヒロインてほどでもないよ。男に捨てられて死ぬ役だから」
「何それ?」
「身も蓋もないな」俺は割り込んだ。「まあそうなんだろうけど」
「その男の役が
「うん」
矢車さんは俺たちの学年でも有名だった。いつも複数の美人に囲まれている。まるでハーレムの王。俺たちの学年にはいないタイプだ。
その頃の俺は、後に
「和泉は矢車さんに気に入られてるんだぜ」俺はいつものようにガヤとして余計なことを言う。
本当は俺は和泉を心配していた。和泉が矢車ガールズの一人になってしまうのではないかと。
「えええ! そうなの?」梨花は素直に驚く。
「うん、まあね――――って、違うわ!」和泉は俺に合わせた。「矢車さんが私みたいな子供相手にすると思う?」
「最近の和泉はイケてる女になってきたぜ」俺はいつもの調子で言う。
冗談に聞こえるから本当に思っていることでも口にできるのだ。すでに俺はそういうキャラだとみんなに認識されていた。
「バカ!」和泉に思い切り叩かれた。
和泉は照れたような態度をとる。本当に照れているのかわからない。和泉は普段から女優だ。
「心配だな」耀太が洩らすように言った。「大丈夫なのか? あの先輩」
「平気よ」和泉は言った。「ちゃんとわかっているから」
「ん? それはどういう?」
「矢車さんがあの役にぴったりだってこと」
年を取らない美貌の男ドリアン。
矢車さんが――「年を取らないって意味じゃないわよ」
和泉がまた俺を叩く。どうやら俺は心に思ったことを時々知られるようだ。
「いてえな」
俺は肩を押さえつつ思った。女を捨てるってところだよな? 矢車さんがぴったりというのは。
御堂藤学園は校則で生徒同士の男女交際を禁止していた。罰則はないが違反すると教師のしつこい説教を食らうことになる。
だから表立って交際する男女はいない。影に隠れるか、男女混合の大きなグループにいて誤魔化すかだ。
矢車さんは後者なのだろうか。和泉はそういう情報も得ていたに違いない。
「私は男の人に興味ないからね」
「じゃあ私?」
「そうよ、梨花!」
勝手にじゃれ合ってろ。
勉強会は再開した。
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