生徒会室①

 実は生徒会に呼び出されるのは職員室に呼び出されるより怖い。

 俺の学年の担任団は、多くが二十代の女性教師で美人揃いだったから呼び出されるのは楽しみでもあった。

 しかし生徒会はそうではない。いかに美人といえど怖くて緊張する対象はいる。特にその代の生徒会長によって生徒会のイメージはガラリと変わるのだ。

 先代の生徒会長はビックリするほど色気のある美人で、まるでハーレムのように美男子の副会長ら生徒会役員を侍らせていた。そして自由な校風をうたって校則の緩和に励み女子の制服を公式行事以外はあれこれアレンジできるようにまでしたのだ。

 その恩恵にあずかるように梨花りかは新学期二日目から早速チェック柄のスカートにして紺のハイソックスを履いている。セーラー服のリボンも毎日色を変えている。正装は藤色だ。

 ところが現在の生徒会長は真逆の堅物だった。

 どうも生徒会長は一年ごとに振り子が触れるように硬軟変わるようだ。

 俺たちはせっかく緩和された校則が再びきつく縛られるものにならないかとヒヤヒヤしているが、今のところそれに反対する勢力も大きく、厳しいものにはなっていない。

 その堅物の生徒会長がいる生徒会室に呼び出されたのだ。いかに俺たちがS組と呼ばれ高一以下の四学年で人気があったとしても硬派の先輩たちは意に介さない。

「緊張して漏らしそうだよ」

 耀太ようたと二人だけなら「チビりそうだよ」と言っただろうが梨花がいるから少し表現を変える。咄嗟にそのくらいのことはできるようになっていた。

「アハ、あたしもだよ」と言えるのが梨花だった。

 純香すみかなら「お花を摘みに」すら頬を赤らめて言うだろう。

「トイレに寄っていくか?」耀太はマジレスする奴だった。

 生徒会室は部室が並ぶエリアの最奥にあった。

 一つ手前に新聞部の部室がある。これもまた厄介な部だったがそれはさておき、俺たちは扉の前に立ち深呼吸してからノックした。そしておもむろに扉を開ける。

 いつも思うが生徒会室の扉をノックして返事が来たためしはなかった。

「高等部一年A組樋笠ひがさ栗原くりはら小原おはらの三名

 代表して俺が名乗ったのだが盛大にやらかしてしまった。「どす」とは。

 梨花が黙ったまま震えている。笑いをこらえているのだろうが、笑いとは解放しないとおさまらないものだ。

 耀太が梨花の前に立ち梨花を巨体で隠した。ナイス、耀太。

 会議室の長机がやたら大きく感じる。両側にズラリと生徒が腰かけていた。恐らくは何か会議をしていたと思われる。

 はりつめた空気だけが流れている。片付け忘れたように弁当箱がいくつかあったのはご愛敬か。

 遠く真正面の議長席に生徒会長は腰かけていた。

 前髪ぱっつんの黒髪ストレート。髪は非公式スタイルに肩や背中に下ろしていた。睫毛が長く伏せ目にしているからとても綺麗だ。

 色白で鼻筋が通っていて、唇は小さい。いつ見てもクレオパトラみたいな美貌だ。本来可愛い系なのに滅多に笑わないから神秘的だ。とにかくオーラが違う。

 窓の外から射し込む光が後光になっていた。彼女が生徒会長の幡野沙織はたのさおりだった。

「座りなさい」と言ったのは生徒会長ではなく、すぐ隣にいたきつそうな美人だ。生徒会長と同じく三年A組の松前まつまえとかいったかな。

 生徒会は会長が代替えすると副会長以下役員も大きく変わるのが通例だが彼女は先代の時から役員を続けている。

 自由奔放な先代生徒会長の下で生真面目で融通の利かない役員をしていたはずだ。会長が替わっても腰巾着を続けるあたりよほど生徒会が好きなのだろう。知らんけど。

 それから俺たちは簡単にお説教のようなことを聞かされた。

 学校帰りに制服姿のまま飲食店に寄ることは校則で禁止されている。新聞部のSNSにその姿がアップされたからいずれ教職員の知るところになるだろう。その前に自己申告して始末書を書きなさい、と松前が会長に代わって言った。

 幡野会長は伏せ目で黙って聞いていた。俺たちもおとなしくしている。

 俺は聴きながら周囲を観察した。真面目な話でもそれが展開の読める単純な話なら退屈なのだ。結論も決まっているし。

 それで俺は生徒会室にいる面々を見た。

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