生徒会室②

 生徒会役員に混じって部外者が何人かいた。新聞部だ。三人いた。それが三つ子みたいに揃って三つ編み眼鏡だったので俺は噴きそうになった。

 この学園ではありふれた正装スタイルなのだがこれだけ揃っていると可笑しくなる。よく見るとみな違う顔をしているのだが、パッと見ると三つ子だった。

「――以上生徒会からの忠告です」

 松前が締めくくると、新聞部の一人が口を開いた。「ごめんね、新装開店のお店の情報提供があったものだからつい載せてしまったの」

 は? 狙ってやっているように見えますが。

 俺はその人にジト目を向けた。新聞部部長山縣やまがたさんはよく知る人物だ。

「一年のS組メンバーが満足そうな顔して店から出てきたら宣伝効果もあるでしょう? あなたたちは有名人で影響力もあるのだから」

 それが目的なのだと俺も理解する。俺たちは新聞部による店の紹介・宣伝に良いように使われたわけだ。

「情報提供者はどなたです」俺は訊いてしまっていた。

「守秘義務があるから――」教えてくれないらしい。

 そいつもラーメン屋で食べたに違いない。私服なら問題ないし。あの時知っている顔はなかったから上級生かもしれなかった。

 出るくいは打たれる。俺たちS組は一部の上級生たちにとっては目障めざわりな存在だった。何かとおとしめようとする行為は常にある。

 その時、反対側の下手しもてから声が上がった。

「――彼らも反省しているようですし、この件はこれでよろしいでしょうか」

 それは俺たち一年A組のクラスメイトにして生徒会役員をしている東矢泉月とうやいつきだった。

 ついこの間まで中等部の生徒会長をしていた、S組十傑にして四天王の一人。いや、この二年間総合成績の一位にずっと君臨し続ける絶対的完全無欠の美少女。一年半もしたら高等部でも生徒会長になっている女子だった。

 泉月いつきがいるから俺たちをかばってもらえるとは期待していなかった。そういう奴ではない。幡野会長と同様堅物かたぶつなのだ。

 ただ学内では完璧に見えても泉月に残念なところがいくつかあるのを俺はよく知っている。これはS組十傑としてずっと同じグループにいたからこそわかることだ。

「彼らにはよく言い聞かせますので、これでお開きということでよろしいでしょうか?」

 泉月は言った。昼休みも残り少ない。恐らく泉月は早く会議を終わらせて仮眠をとりたいのだと俺は思った。

 泉月は自宅で三時間しか睡眠時間をとっておらず学校で昼休みに三十分ほど仮眠をとってつないでいる。

 中等部時代に中等部の生徒会室によく出入りしていた俺は泉月の生態も知っていた。睡眠の邪魔をしてはいけないな。

「私も別に固いことばかり言いたいわけではありません――」それまで静かにしていた幡野会長が初めて口を開いた。「――制服姿のまま飲食店に寄ることを禁じているのは生徒のトラブルを避けるためです。女子校時代から我が校の生徒は街中まちなかで声をかけられたりする事例が多くあります。今回も暗くなってからの飲食店の出入り。男子のみならず女子もいましたよね? 食事を終えた頃には遅くなっていたでしょう。小原おはらさん、あなたは一人でおうちまで帰ったのですか?」

「いえ、樋笠君に家まで送ってもらいました」梨花が答えた。

 送っておいて良かったあ。

「樋笠君と二人で帰ったのですね?」

「はい」

「それはそれで別の問題が出そうですが、まあ良いでしょう。とにかく遅くならないよう寄り道せずに真っ直ぐ帰りなさい」

「あなたたち、まさか……」松前さんが横槍を入れた。「こ、交際とかしていませんよね?」

 そんな風に発想するのかよ、やっぱり。

「いいえ、そんなのあり得ませんよお」梨花はとびきりの笑顔で答えた。

 ないのかい! 俺はツッコミを入れそうになって思いとどまった。うっかり口にすると話が面倒になる。

「樋笠君はお笑い担当ですし……」

 いやお前もそうだろ。隣で耀太が静かに笑い転げていた。

「ではこれで結構です。下がってください」幡野会長が言った。

 俺たちは頭を下げて立ち上がった。

 その時、泉月の隣に腰かけていた男が俺に向かって右手を握りしめてグッジョブをした。「ブラボー」と俺にだけ聞こえるように言っている。

 ずっと気になっていたのだが会議中いちいち「エクセレント」だの「ファンタスティック」だの茶々を入れていた奴だ。

 間違える筈もない、新入生勧誘の際に純香すみかの手にキスをして生徒会に連行されていった奴だ。確か星川ほしかわとか言ったな。そいつがここにいる。

 あんなことをしたのに生徒会に入ったのか? 何で入れる。

 隣の泉月が嫌そうな顔をしたように見えた。

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