昼休みのバスケット①
昼休み、俺と
この時間帯のコートは自由に使える。
上着を脱いだだけの制服姿の男子がボール遊びをするのがよく見られる光景で、俺たちはその常連だった。たまたまそこにいた生徒と
上級生たちのグループもいたりするが、俺たちが姿を現すとどこかへ行ってしまう。何しろ俺たちS組十傑の男子は無敵だったから。
身長百九十超えの耀太がいるだけでも無敵なのだが、秀才タイプの秀一も俺よりバスケは上手い。見かけに騙されると痛い目に遭う奴だった。
そして俺は必死に努力してバスケのスキルを高めた。
その結果、俺たちの相手をしてくれるグループがなくなってしまっていた。むしろ女子のチームの方が強いかもしれない。
ゲームをする相手がいないと俺たちだけで遊ぶしかない。
たまに
そしてその日、恭平が現れた。テニス部らしき生徒が何人かいたからミーティングでもしていたのかもしれない。
ミーティングといっても恭平の場合は単にハーレムしているだけだと俺は思っている。
その証拠に恭平は見たこともないくらいの美人を連れていた。この子が高等部新入生で恭平が引っ張ったと和泉が言っていたとびきりの美人に違いないと俺は思った。
「何だ、暇そうにしているな」恭平の方から声をかけてきた。「誰にも相手してもらえないのか? 耀太がいたらバスケ部も逃げるな」
なお、俺たちの学校のバスケ部は強くないし部員もギリギリで助っ人団の手を借りて大会に出ている。
「恭平が相手してくれるみたいだ」耀太が柔和な顔をした。
「久しぶりにやるか」恭平がおもむろに言った。
新入生女子に良いところを見せるつもりだと俺は思った。
恭平はそういう奴だ。決して意識してやっているわけでもないのに本能的に嫌な奴になってしまう。あくまでも俺から見て嫌な奴なのだが。
俺たちは二対二に分かれた。恭平と秀一が組み、耀太は俺と組んだ。
ギャラリーが一気に増える。ほとんどが女子だ。もともと六割以上が女子なのだが、今は九割を超えていた。もちろん上級生もいる。
「負けられねえな」俺はニヤリと笑って言った。
「お前は
「悲しい!」
このやり取りは俺がボケて笑いをとる流れになっている。口だけ達者でこてんぱんにやられ、最後は「これくらいで勘弁してやらあ」と捨て台詞を残して退場するというお約束だ。
それが俺の立ち位置だった。俺は恭平の前では完全に三枚目だ。
しかしその時の俺は心底負けたくないと思った。あの美人の新入生に俺もまたS組十傑のひとりで、結構イケてるんだぜ、と見せたかったのかもしれない。いやはや何とも情けなく、憐れで、みっともない奴だ。
恭平がボールを手にして始まった。
俺はいつもとは違う動きをした。通常、校舎の方を突然指差して「あ、○○だ!」と叫んで恭平がそちらを向いた瞬間にボールを奪うという卑怯な手を使う。
恭平も心得ていてわざとボールを奪われ、ギャラリーの笑いをとる、という流れだったのだが、俺は何も言わずに油断していた恭平からボールを奪った。
こんなプレイは一度しかできない自信がある。
恭平が「お」と洩らした時には俺はツーポイントラインまで戻って、その時すでにゴール下まで動いていた耀太に向かってロングパスを出した。
耀太はそのボールをそのままアリウープでバスケットに沈めた。一点先取。
キャアアアという歓声。それはもちろん耀太に向けられる。
しかし俺は気持ち良かった。
「ほう……」恭平が不敵に笑った。「マジなんだな」
「当たり前よ」俺は恭平に聞こえる程度に言った。
これは笑いをとる芸ではない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます