またしても璃乃に怒られる

 月曜日、登校するなり、また璃乃りのに怒られた。

「馬鹿か、お前ら――」怒ると璃乃はますます口が悪くなる。「――また制服姿で店に入りやがって」

 いや、恐いんですけど。

 新聞部のSNSにまたしても俺たちは画像をあげられてしまった。「スイーツを堪能するプリンセス一行」と題して、純香すみか明音あかね梨花りかと俺が写っている画像が何枚か公開されていた。

 一見してハーレムの俺。しかし巨大なパフェを前にアホづらをしている。どうせならもっと上手く撮ってくれよ。狙ってるだろ、撮影者は。

「これは学校の帰りじゃないぞ。日曜日の部活の後の慰労だ」

「そんなことはわかっている。なんで撮られる?」

「パパラッチだろ」

 どう考えてもそれだ。俺たちはつけられている。何しろ俺たちは学園では有名人だ。何かする度に絵になる。

「また私が怒られるのだぞ、美化風紀委員会でおつぼね様たちに」そのお局様にお前も入っているのだがな。

「ああ、面倒くさい――」

 見た目は額出し三つ編み眼鏡女子の璃乃は、他にもたくさんいる三つ編み眼鏡女子に紛れて目立たない。しかし口は別だ。本当にこいつが喋っているのかという言葉が出てくる。どこかで別の誰かが喋っているみたいだ。腹話術かよ。

 俺は左にいるはずの梨花の席を見た。不在だ。梨花は離れたところにある明音の席に避難していた。

 そして明音がこちらを向いて笑いながら手を振っている。任せたから頼んだよ、という顔だ。

 純香の姿はなかった。まだ登校していないようだ。

「悪かったよ」

 俺はガミガミ言う璃乃に向かって頭を下げた。こうなったら嵐が過ぎ去るのをひたすら待つだけだ。

 いつものことだ。やれやれだぜ。

 そもそも新聞部が提供された画像を何でもアップするのが悪い。いや、本当に提供されているのか?

 もしや新聞部が撮影してあたかも第三者による提供と偽っているのではないか?

 俺は新聞部の奴を探した。

 どの学年にもA組に新聞部の部員はいる。俺たちのクラスではそれが牛島うしじまという男子だった。

 俺は嵐がやむなり牛島のところへ移動した。

うしちゃんよ」

「おはよう、樋笠ひがさ君」

 座っていた牛島は顔を上げた。A組によくいる眼鏡男子だ。

「新聞部のSNSにまた俺たちが載ったんだが」

「ああ、そういえば載っていたね――」まるで他人事だ。「――僕は食べ歩き担当ではないからね。何か言いたいことがあるのなら山縣やまがた部長に訊いてみたまえよ」

「あれって、新聞部の自作自演じゃね? 誰かが撮影したものを提供されたんじゃなくて」

「僕に言われてもわからないな」

 とぼけているのかどうかもわからない。新聞部とはそういう連中の集まりだ。こいつらは学園だとか生徒会だとか部活連や各種委員会といった組織を監視して襟を正させるために動いている、とか抜かす奴らなのだ。

 ひとりひとりは悪い奴ではないが、たばになると正義感を振りかざしたがる連中だった。

「思うに」と牛島は言った。「制服で店に入ってはいけないなんてどうかしていると思うよ。君たちみたいに学園中から注目されている生徒がむしろ率先して堂々と店に入るべきだ。そうすることによって君たちが罰を受けたとしたらそれに対して声をあげる生徒もいるだろう。そうやって世論は動くのだよ」

 は? 意味わかんね。単に俺たちを店の宣伝に使っているのだろ。プリンセス御用達のスイーツの店として紹介していたじゃないか。

 しかし俺はぶつぶつも言えずに引き下がった。

 情けないことに俺はやはりモブだ。

 自分の席に戻る途中で明音に声をかけられた。

「おはよ、大地。災難だったね」

「お前も呼び出されるかもしれないんだぞ」

「大丈夫だよ、今回はプリンセスもいたし、日曜日のボランティア活動後の打ち上げだからね」

 そうでなかったとしてもお前は意に介さなかっただろうよ。

「また行こうな、大地。君の奢りで」

「ラーメンかよ」

「それもありだけど、スイーツ巡りね」

 明音が馴れ馴れしく俺の肩を叩く。無邪気な笑顔が眩しい。さっぱりしていて男みたいなやつだが、外見はバリバリの美少女だ。ニコっと笑われると俺は何も言えなくなる。

 この悪魔は本当に悪気がない。

 俺は「おう……」と頷いてしまっていた。

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