寄り道ラーメン
実際に行ってみると店の外に何人も並んでいる。ほとんどが体格の良い男たちだ。その中に混じって若い男女が何組かといったところ。
俺たちは男二人女一人のグループになった。
「そちら三名さま?」
外に出てきた店の人が俺たちのことを確認した。中はカウンターがメインなようで入るときは三名並ぶことになりそうだ。
このメンツでラーメン屋に入るのは滅多にない。大抵がファーストフードかファミレスだ。
S組十傑は六人が女子だがあまりラーメン屋に入るイメージはない。
そもそも御堂藤学園は下校時の寄り道を禁止していて堂々と制服姿で入れないのだ。
しかし俺たちは暗がりに並んでいるとはいえ制服を着たままだった。
梨花はセーラー服のスカートをチェック柄にして短くしていた。正装は濃紺のプリーツで白のソックスなのだが、通常時はチェック柄でも良く、黒タイツも可となっていた。
先代の生徒会長が校則をかなり改めて服装に自由度を持たせたのだ。だから女子の制服は二十以上のバリエーションがあった。
今日の梨花なら御堂藤の生徒に見えないかもしれない。
しかし俺たち男子は明らかに御堂藤とわかるものだった。ファスナータイプの学ランはこの辺りでは他にない。私立はたいていブレザーだった。
寄り道禁止にも関わらず俺たちは制服姿のままラーメン屋に並んだ。
そしてどうにか七時には入れた。ラーメン屋は回転が速い。俺たちは運良くカウンターの左端三つに腰かけた。奥から梨花、俺、耀太の順だ。
固定式の椅子だったので
ラーメンは煮干しと豚骨が混じった贅沢なスープで麺は太かった。
俺は小腹を満たそうと普通盛りにしようとしたのだが、梨花が中盛り、耀太が大盛りにしたので俺も中盛りにした。
「梨花、そんなに食えるのか?」
「これを夕御飯にするから」梨花は笑った。
やっぱり可愛い。なんだこの小動物は。
「うめえ!」俺は至福の時を迎えた。
少しすすってから梨花はカウンターにあったにんにくをたっぷりとのせて、その後も何口かすする度に酢を追加したり生姜を加えたりして味の変化を楽しんだ。
こいつは意外とラーメン屋に行きなれているな。
俺はできるだけオリジナルの味を最後まで楽しむタイプなので胡椒くらいしか入れなかった。そういう味付けは何度も通っていくうちにしていくものだと思っている。
しかし梨花と耀太は違ったようだ。
高等部に上がってこうして食べに寄って帰ることが多くなるのかな。俺は楽しみになった。
結局梨花はスープまで全部飲み干した。どんぶりをおいて思わず「ゲフッ」と梨花は洩らした。
「おっさんか」俺は遠慮なく突っ込んだ。
「あはは、ごめんごめん」梨花は恥ずかしげもなく目を細めて大きな口で笑った。
本当はおっさんには見えなかった。梨花がするとミルクを飲んだ後の赤ちゃんの可愛いゲップに見える。こっちも幸せな気分になれるのだ。
しかし黙って見過ごさないのが俺の役目だ。
耀太が完食して大袈裟に「ぷはー」と言ったのも梨花へのフォローの気持ちがあったのだろう。
「うまいものはうまい!」耀太も満足そうだ。
俺たちが店を出たら七時半を回っていた。
「美味しかったね、また来ようよ」梨花が言い、俺たちも頷いた。
「それにしてもよく完食したな。俺は最後きつかったぞ」実際俺はスープは残してしまった。
「食べておっきくならないとね」
梨花が耀太を見上げる。身長差四十センチくらいあるだろう。
「伸びる方に行くと良いけどな」俺はつい余計なことを言ってしまった。
「どういう意味?」梨花が頬を膨らます。
「違うところについてしまわないか心配だぜ」
「
梨花はお
S組十傑の六人の女子で梨花が一番小柄だ。しかし梨花が一番胸がある。他の女子は揃ってスリムだった。これは触れてはならないことだが
「あんまり肥ると恭平に好き勝手に言われるぞ」
「恭平は良いんだよ。恭平なんだから」答えになってないが言い得て妙だった。
俺たちは三人で電車に乗ったが途中で耀太が先に別れた。
俺と梨花は同じ方向なのでしばらく一緒になる。
「遅くなったな」
「あれ、うちまで送ってくれる、とか?」
「しゃあねえな」と言いつつ俺は梨花を自宅近くまで送ることにした。
梨花の家に行くのは昔S組のメンバーでパーティーをした時以来だ。家まで送ったことはなかった。最寄駅から十分くらい歩く距離だったと記憶している。
駅に着いて歩き始めてからなぜか俺は普段学校にいる時の俺ではなくなっていた。何と言うか間が持たない。
俺は梨花と二人きりで夜道を歩いた記憶がなかった。
いつも一緒にいるのに意識してしまう。
グループでいる時の俺たちは互いに仲間だと認識している。しかしこうして二人きりになると変な感じになってしまう。
俺が一言も喋らず三十秒も経ってしまうと皆不思議に思う。
「大地、疲れたの? それとも食べ過ぎた?」
「ああ、俺、実は少食なんだぜ」
「嘘だあ」
「梨花の食いっぷりには頭が下がるよ」
「美味しいものはいくらでも入るよ」
「それはどこへ行くんだろうな」つい余計なことを。
「チョーップ!」梨花の手刀が背中に当たった。
この距離感が心地よい。
俺はふとこの場で梨花に告白してしまう妄想にとりつかれた。俺は
俺はたった一人の女の子に絞れない恋多き男なのだ。といって俺はこれまで彼女がいたことはなかったが。
梨花が俺の彼女だったら……
「送ってくれてありがとね」
梨花の家が見えてきた。
俺はいつも最後の勇気がない。千載一遇の機会を逃してしまった。
梨花が好きなのは確かだが、純香や和泉を送ったとしても同じ妄想を抱いた気がする。
俺は本当にどうしようもない奴だ。これじゃ恭平と変わらない。
「ラーメン、美味しかったね。また行こうね」梨花はにっこり笑った。
「おう」
暗がりでも俺にはそれがとびきりの笑顔に見えた。
「じゃあ明日ねー」
俺は軽く手を上げて「アバヨ」と言った。
上がってお茶飲んで行ったらと言われる前に
宿題を残すからこそ
また
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